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格闘技、始めませんか?  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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公平な勝負

 社会に出たら、学校の勉強など何の役にも立たない……これは、よく言われることです。

 一見、もっともな話ではあります。事実、因数分解だの化学式だのを用いる機会は、専門職でない限り無いでしょう。

 だからといって、学校教育すべてを否定するのは、ちょっと違うような気がするんですよね。

 例えば入試というのは、とても公平なシステムだと思います。テスト勉強というのは、努力すればしただけ成果は出る訳ですから。しかも全員が同じ日、同じ時間、同じ場所で同じ内容のテストを受けることになります。

 これがもし、日時も内容も知らされないまま、抜き打ちテストのごときもので実力を測るのだとしたら……そこには、運不運の要素が大きく絡んでくるのではないでしょうか。


 さて、言うまでもなく格闘技の試合にはルールがあります。このルールは、試合に出場する以上は誰もが守らなくてはなりません。

 また、試合の日時も決まっています。抜き打ちの試合、なんてものは存在しません。したがって、両者は試合の日に合わせてコンディション調整が可能です。仮に風邪をひいてしまい、最悪のコンディションで試合に臨んだとしたら……それはもう、本人のせいだと言わざるを得ません。体調管理もまた、実力のうちですから。

 さらに今の格闘技は、両者の体重もほぼ同じ数値に合わせます。多少の実力差は、体格差でカバーすることは充分に可能ですので。

 つまり今の格闘技の試合は、運不運の要素を出来るだけ排除し、選手の実力を正確に計ろうという意図のもとに考えられているのであります。もちろん選手の安全を考慮したり、興行という視点から作られた側面もありますが。


 ここで話は変わりまして、戦場帰りの兵士たちに関する本を読んでみますと……ほとんどの人たちが「自分は運が良かった」と言っています。もちろん、そこには謙遜もあるのでしょう。戦場を経験していない私が、軽々しく断言することは出来ません。

 ただ、これだけは分かります。言うまでもなく、戦場にはルールなどありません。相手はどこの何者で何人なのか、どのような武器を持っているのか、などといった情報は、こちらに全て入って来るとは限りません。

 戦場という究極とも言える状況になると、運不運の占める要素は非常に大きくなります。極端な話ですが、行軍している時に遠くからスナイパーに撃たれたら、個人の能力ではどうしようもありません。ましてや、上空から機銃で一斉掃射されたり、爆弾を落とされたりしたら……これはもう、どんな達人でも躱しようがないですよね。

 戦場、とまではいかなくとも……仮に、どこかのチンピラが有名な格闘家を倒そうと考えたとします。当然ながら、ただのチンピラが格闘家と試合をするのは不可能ですね。そうなると、チンピラは路上の喧嘩で格闘家を倒すしかありません。

 そこで、チンピラは格闘家を襲う機会を虎視眈々と狙っていました。やがて、チンピラは道を歩いている格闘家を発見します。

 チンピラは隙を見て、後ろから格闘家に襲いかかりました。格闘家はハードな練習の直後で疲労困憊しており、チンピラの攻撃に対応できません。

 件のチンピラは格闘家をボコボコにした後、意気揚々と引き上げました……果たして、これは勝ったと言えるのでしょうか? 

 上に挙げたものは極端な例ではありますが、はっきり言ってしまえば、ルールの無い闘いというのは……運不運の占める割合がより強くなる、ということです。特に、ハプニング的な状況下で始まることの多い路上の喧嘩などは、運の要素も大きいですね。

 また、勝ち負けという点に関してもあやふやになります。以前にも触れましたが、ボクシングの元世界チャンピオンである井岡弘樹さんは昔、路上で暴漢に殴られ怪我をしました。井岡さんは、どんなに殴られても手を出さなかったそうです。

 このような一方的な暴力で、果たして何が分かるのでしょうか。少なくとも、暴漢が井岡さんより優れた実力の持ち主である、とは言えないでしょう。井岡さんには、闘う意思がなかった訳ですし。もっとも「井岡は一般人にボコられた。弱い」などと一面的な見方しか出来ない残念な人も少なくないわけですが。

 ちなみに井岡さんは「リング外では百回殴られても手を出さない」と言っていたそうです。


 まあ井岡さんのケースはともかくとして、路上での闘いでは正確な実力を測りにくい、というのは分かっていただけたと思います。

 その点、格闘技の試合というのは……個人の実力を測るには、よく出来たシステムだと思うんですよね。闘う日時が決まっており、相手は一人で武器は持っていません。己の鍛え上げた肉体と磨き抜いた技術で闘い、お互いの実力を測ることが出来る……まあ正直言いますと、一発勝負では正確な実力差が反映される、とは言いづらい部分はあります。

 しかし、それでも運不運の占める割合は、かなり減らせていると思うんですよね。命の危険に配慮しつつ、自身の格闘の実力を測ることが出来る。それが、競技として確立された格闘技の素晴らしさであると私は思います。


 最後になりますが、ルールの無い実戦における強さこそが、本物の格闘技である……そうした考えというのは、人間の本能に根差した部分があるのかもしれません。しかし、格闘技マンガの影響も少なからずあるのではないでしょうか。個人的には格闘技マンガの悪しき側面ではないかと思っています。







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