格闘技と暴力の関係
以前、とある格闘技マンガに関するレビューを読んでいたら「個人的に、こういう暴力を礼賛するような作品を出して欲しくない」と書いた人がいました。まあ確かに、その作品は路上での闘い……いわゆる喧嘩のシーンがほとんどでしたが。
マンガはともかくとして、格闘技と暴力とを混同している人は少なくない気がします。もっとも、格闘技に暴力的な一面があるのは否定できません。また、その暴力的な面が多くの人を惹き付けているようにも思います。
実際、私も若い時は「格闘技は喧嘩の道具」という認識でいました。さらに、嘆かわしい話ではありますが……プロ格闘家の中には、一般人に暴力を振るい逮捕された人もいます。暴力を振るうとまではいかないにしろ、チンピラのような雰囲気を漂わせている格闘家もいます。もっともプロ選手の場合ですと、キャラ作りという面もあるので仕方ない部分もありますが。
いずれにしても、格闘技と暴力とはイコールで語られることが多いですね。創作物にしてもそうですが、格闘技を暴力の道具であるかのように扱う作品も少なくありません。
ただ、それは偏見です。はっきり言ってしまえば、昨今の格闘技のジムは一般のスポーツジムとほとんど代わりありません。中には封建的な道場もあるかもしれませんが、そういった場所には行かなければいいだけの話です。行っても、一般人にとって益となる部分はあまり無いですし。
少なくとも、今の格闘技は……完全にスポーツの一種です。入門と同時に、師匠にいきなりボコボコにされるようなことはありません。むしろ、トレーナーはみな敬語を使い礼儀正しく接する人たちがほとんどです。
確かに、格闘技には暴力的な面や危険な部分はあります。プロの試合を見れば、鼻血を出したり骨を折ったりすることもあります。また、脳に障害を負う可能性もあります。昔に比べると、安全面は向上し死亡事故は減りました。しかし、完全にゼロになった訳ではありません。試合中、死亡する可能性はあります。
ただ、格闘技というのは暴力的な一面があるからこそ、逆に暴力的な衝動を押さえる役にも立つのです。
私自身の例で恐縮ですが、私はここ十年以上、路上で喧嘩したことはありません。町で見知らぬ人と肩がぶつかっても「すみません」と自分から先に謝りますし、他人と揉めることもありません。もっとも、こんなのは自慢話にもなりませんが。社会人なら、当たり前のことです。
余談ですが、いい年して「町でガキがぶつかってきたから、ぶっ飛ばしてやったよ」などと武勇伝を語る社会人もいます。まあ、何か勘違いをしているとしか言い様がないのですが……そんな愚かな大人も世の中には存在する、という事実は覚えておいてください。
話を戻します。私は確実に、以前よりは暴力的な衝動を押さえられるようにはなりました。何故かと言えば、自分の中にある暴力的な衝動を、格闘技で上手い具合に発散できているからだと思うんですよね。
世間の良識的な人がどれだけ否定しようとも、暴力というものは世の中に存在します。さらに言うと、人間……特に若い男には、暴力に対する憧れや欲求があるでしょう。どんなにおとなしい人にも、心の奥底には暴力的なものを求める部分はあると思います。それは、人間の本能に根差した部分なのかもしれません。
子供たちが観る『ウル○ラマン』『仮面ラ○ダー』などには、暴力的な要素が必ず存在していますが……好むと好まざるとにかかわらず、人間には暴力を欲する部分があるのではないでしょうか。
そうした暴力的なものを上手く解消できるのが、格闘技です。やってみれば分かりますが、格闘技のトレーニングが終わった後の爽快感というのは、別格のものがありますね。全ての人間に備わっているはずの、本能に根差した欲求……それを満たすことにより、何ともいえない満足感が得られます。こればかりは、実際に体験してみないと分からないでしょうね。
特に社会人になり、様々なストレスに晒されるような年代の人たちこそ、是非やっていただきたいんですよ。トレーニングは毎日する必要はありません。別に週に一度通うようなペースでも、一向に構わないと思います。社会人にとっての、ガス抜きとでも言いましょうか……週に一度、気分転換のような役割を果たしてくれればいいのではないかと。
また、ある程度の年齢になり、勝ち負けにこだわらないようになると……純粋に格闘技そのものを楽しめるようになるのかも知れませんね。個人差もあるでしょうが。
とにかく、格闘技には暴力的な面もあるのは否定できません。しかし同時に、暴力的な面を上手くコントロールできるようにもなります。それこそが、現代人にとってもっとも必要なものではないでしょうか。
仮に素手で人を殺せるようになったとしても、行く先は刑務所です。それよりも、暴力的な衝動を押さえられるようになる。あるいは、暴力的な衝動を我慢したストレスを発散できる場がある。そういったことの方が、リアルの世界ではどれだけ価値があるか分かりません。少なくとも、経験もないのに「あの格闘技は弱い」「この武術は実戦的でない」などと言っているよりは建設的かと思います。実際に格闘技をやってみれば「実戦的でない」という理由でフラストレーションを感じたりはしません。私はそんな風に思ったことは一度もないですね。




