ステータスという非現実な概念について
なろう発の作品について語られる時、必ずといっていいくらい語られるのが「ステータス・オープン!」というセリフではないでしょうか。人間の様々な能力を数値で表す、それが出来れば確かに便利ではあります。
もっとも、格闘技に関していうなら……このステータスという概念は、非現実としかいいようがありません。このステータスに関しては、以前にも部分的に語りましたが……今回は、もう少し深く掘り下げてみたいと思います。
例えば、RPGによくあるステータスとしてSTRなるものがあります。筋力やパワーなどと訳されているようですが……そもそも、筋力とは簡単に数値化できるものではありません。以前にも書いていますが、筋力というのは複雑なものです。単純に、ベンチプレスで百キロが挙がるから強いという訳ではありませんし、腕立て伏せが百回できるから強いというものでもありません。
この腕力に関し、さらにややこしい話をしますと……かつてKー1には、フランソワ・ボタという選手がいました。元ボクシングの世界チャンピオンという経歴を引っさげてKー1に参戦したファイターであり、過去には伝説のボクサーであるマイク・タイソンとの対戦経験があります。
このボタは、対戦した他のKー1選手たちについて聞かれた時、こんなことを言ったそうです。
「タイソンに比べれば、パンチの威力は全然大したことない。ボクシングのルールで闘えば、全員KOできる自信はある。むしろ、キックに慣れるのが大変だ」
この発言、多少は大げさな部分があるのかもしれません。しかし、ボタが対戦したKー1選手の中には、ハードパンチャーとして知られたジェロム・レ・バンナがいます。バンナは、タイソンより大きな体をしていました。単純な筋力のみの比較ならば、タイソンより上であったのではないかと思われます。断言は出来ませんが。
しかし、そのバンナですら……パンチ力では、タイソンとは比較にならないと言われたのです。
こんな二人のSTR、数値で表すとしたらどうなるのでしょうか。ドラクエのような「Aのこうげき! ○のダメージを与えた!」式の単純な戦いならともかく、現実の闘いにおいては、攻撃力を簡単に数値化できるものではありません。
闘いにおいては、スタミナや耐久力という要素も大事です。ところが、この部分は……「ステータス・オープン!」の世界では綺麗に無視されているんですよね。
この耐久力、あるいはスタミナ、もしくはHPですが……この要素は、単純に数値化できるものではないんですよ。格闘技のスパーリングもしくは試合を経験した人間なら分かると思いますが、ガチの闘いでは……スタミナの消耗が異常に激しくなります。特に初めての試合に出ると、肉体のみならず精神的なプレッシャーにより萎縮し、たったの一、二分で異様に疲れてしまう……という事態は、よくあることです。
そうなると面白いもので、本来ならスタミナが無いはずの年配の選手が、試合慣れしていない若い選手をスタミナで上回る……という事態も起こります。
また、格闘技には「攻め疲れ」という要素もあります。チャンスと見て、一気に倒すつもりで、ガーッと攻撃を仕掛けていった……ところが相手は巧みに防御し、倒しきれない。そうなると、攻撃を仕掛けた側の方がスタミナの消耗は激しいんですよね。つまり、高い防御技術がスタミナの無さをカバーする、という現象も起こりうる訳です。
さらに言うと、個々の打たれ強さや心肺機能、そして精神的な強さといった複雑な要素を……ひとくくりにステータスという数値で表すのは無理がありますね。実際の体の動かし方を知らない人間の机上の論理でしかありません。
結局のところ、スタミナや耐久力という要素を、単純な数値で表すことは不可能ですね。
ここまで書いてきましたが、実は格闘技において……非常に現実的かつ有効なステータスがあります。
それは体重です。体重の数値は格闘技において、とても重要です。実際、ほとんどの格闘技が体重制を敷いているのが、何よりの証拠でしょう。
ところが、「ステータス・オープン!」というセリフの登場するような作品において、体重というステータスは全くといっていいほど注目されません。 現実の格闘技において、試合の時は確実にオープンにしなくてはならないステータスであり、かつ闘いにおいて勝敗を左右する重要な要素なのですが……どうやら体重の多いキャラは、ウケが悪いようですね。この連載が始まった当初から言い続けていることではありますが。
さらに、身長というステータスも重要ですね。長い手足から繰り出される技は、それだけで脅威となります。要は、デカくてゴツい奴が強いという、ごく単純にして当たり前な話なのですが……ただ、この身長と体重という要素は「ステータス・オープン!」という作品ではほとんど無視されているようですが。




