未来の格闘技
数年前のことです。家に帰りテレビを点けたら、一人の青年が映っていました。その青年は、こんなことを言っていました。
「一方的に殴って倒したいですね」
私は唖然となりました。画面に映っている青年は、どう見ても格闘技をやっているようには思えなかったからです。
やがて、その青年の正体が明らかになりました。青年は格闘技ゲームのプレイヤーだったのです。紛らわしい話ではありますか……現代では、格闘技はゲームの中だけのものになりつつあるのかもしれませんね。
さて、今回は今までとは趣向を変えまして……格闘技の未来像について考察してみたいと思います。なお、私には科学的な知識はありません。なので、全ては私の想像によるものです。
未来の格闘技について考えた時、避けて通れないのが選手の安全面の問題です。これからの時代、安全面に関してはさらに厳しくなっていくでしょう。
実際、ボクシングは選手の安全について考慮した様々な規定があります。もっとも、その基準は国によって異なるようではありますが……いずれにしても、メジャーなスポーツとして、安全面には配慮しているのです。
まして、これからの時代は……こと先進国におけるスポーツ興行において、安全面についてはさらに厳しくなるのではないかと思います。今でさえ、格闘技の試合中の事故で死者が出た場合、その後は開催できなくなる可能性もあるのです。今後は、厳しくなることはあっても甘くなることはありえないでしょう。
さて、格闘技において安全面を突き詰めていくと、最終的には肉体を完全に防護する方向へと行くことになるでしょう。そうなると、プロテクターのようなもので体を覆うこととなるかもしれませんね。それどころか、全身を覆う高度な防護服を着て試合をすることになるかもしれません。
さらに、受けたダメージは数値で表されるようになる可能性もあります。例えば、頭部にパンチを食らったとしましょう。防護服を着ているために人体へのダメージはありませんが、受けたパンチやキックのダメージが全て数値化され、スクリーンに表示されるわけです。
こうなると、肉体には何らダメージがないまま試合が終わることになります。防護服の中の人体は無傷で痛くもないが、スクリーンではダメージが表示されていてKO負けとなっている……まさに格闘ゲームのような世界ですね。
ボクシングやキックボクシング、空手といった打撃を主体とした競技の場合は、もはや痛みを感じないスポーツになるかもしれませんね。もっともフックのようなパンチが顎に当たると、例え防具を着けていても脳が揺れるため、多少のダメージはあるかもしれませんが。
打撃のダメージは、防護服を着れば九割方は防ぐことができます。しかし投げや関節技や絞め技の場合、どう判定するのかは難しいですね。さらに言うと、投げのダメージを防護服で軽減させるのも難しいです。
極端な話ですが、中世ヨーロッパ風ファンタジーには全身を覆う甲冑を着た戦士が登場します。この戦士には、当然ながら打撃技は効かせにくいです。しかし、投げ技ならばダメージはあたえられます。鎧を着ていれば刃物は防げますが、地面に叩きつけられる衝撃を防ぐことは出来ないことは分かりますよね。
まして、関節技ともなると……これは、鎧を着ていても関係なく極まります。多少のやりにくさはあるかもしれませんが、鋼鉄の鎧を着ていても腕や足の関節を外すことは出来ます。
そうなってくると、闘いの様相もかなり変化することになるでしょうね。格闘ゲームに近いものになるかもしれません。
例えば、ボクシングにおけるジャブなどは、格闘ゲームにおける弱パンチと同じような位置付けになるかもしれませんね。当たっても痛くない、ただダメージのポイントが僅かに加算されていくだけ……そうなると、多少の打撃は無視して突進し組み付き、投げや絞め、関節技で倒すという戦法がセオリーとなるかもしれません。
また、防護服の着用が一般的になると、今度は防護服のデザインに凝る選手も現れるかもしれませんね。こうなってくると、試合場はコスプレ会場のごとき様相を呈して来る可能性もあります。
アニメキャラの女の子のごときデザインの防護服(顔もそれらしきものが付いてます)をまとった格闘家が、リングの上で闘う……個人的には見たくないですが、そちらの方がウケるかもしれませんね。
もっとも、ひょっとしたら防護服すら必要なくなるのかもしれません。生身の肉体を用いることなく、バーチャルな世界の中で、ゲームのキャラのような何かが闘う……未来の格闘技は、そんなものになってしまうのかもしれません。私としては、そんなものは見たくありませんが、それも時代の流れとあらば仕方ないのでしょうね。




