健全な精神とは……。
健全な精神は、健全な肉体に宿るという言葉があります。しかし残念ながら、これは全ての人間に当てはまるとは言えません。
実際、これまでに数多くのスポーツ選手が不祥事を起こしています。彼らは健全な精神の持ち主、というには程遠いと言わざるを得ません。あるいは、健全な精神の持ち主であったとしても堕落するという事実の現れなのでしょうか。
そのあたりの真偽は分かりませんが、格闘技の世界にもおかしい者はいます。
私のいた空手の道場には、入ったばかりの人間をスパーリングでボコボコにする茶帯の人がいました。当時、茶帯は黒帯の次の段階でしたので……一級か二級だったと思います。体は小さいがキャリアは長く、私が入門した時には既に茶帯でした。
この牧田さん(仮名です)は、とにかく白帯が相手でも容赦しない人でした。牧田さんにボコられた白帯や青帯(白帯の次の段階です)は、当時かなり居たようですね。
もっとも私はスポ根的な世界に対する憧れがあったので、さほど苦にはなりませんでしたが。
それから時は流れて数年後、私は通っていたトレーニングジムにて、件の空手道場に通っている人と出会いました。当時、既に私は空手を辞めていましたが……それでも懐かしさを感じ、いろいろと言葉を交わすようになったのです。
その時に聞いたのですが、牧田さんは他の道場でも、知られた存在だったそうです。
「牧田? ああ、あれは有名だよ。なんたって、入って来る人をボコボコにしちゃうんからな。あいつのせいで辞めてった奴は多いらしいぜ」
聞いた話によれば、牧田さんは支部内の他の道場でも、白帯や青帯などをスパーリングでボコボコにしていたそうです。まあ、これも一種の通過儀礼と言えばそれまでですが。
ただ、私がその時に聞いた話によれば……牧田さんの場合、同じ時期に入門した人間のほとんどが牧田さんより強くなっているそうです。つまり、牧田さんは同期に勝てない鬱憤を、弱い者をボコボコにすることで晴らしていたわけです。
これは正直、あまりカッコいいとは言えませんよね……ただ、どこの道場にも、こんな人間はいます。くれぐれも気をつけてください。
最近、元女優が大麻所持の容疑で逮捕されましたが……格闘家の中にも、大麻所持で逮捕された人が何人かいます。
とはいっても、別に大麻を吸ったら筋肉が凄くなるとか、そうした効果があるわけではありません。格闘家は試合前、物凄い恐怖に襲われます。それは、どんなチャンピオンでも例外ではありません。
特に一流選手ともなると、そのプレッシャーは相当なものです。多い時には、数万人の観客の前で殴り合うわけですからね。私なら、試合前に胃に穴が開くでしょうね。眠れなくなることなど、日常茶飯事らしいです。
そんな時、リラックス効果のある大麻に手を出してしまった、というのが真相なのではないかと思います(あくまで私の想像ですが)。大麻を使用することにより緊張感を和らげ、リラックスして眠れた……ただ、医者から合法的に処方される薬の中に、そうした効果のあるものはいくらでもあると思うのですが、大麻でなくてはいけなかったのでしょうか? 私には分かりません。
一つ分かるのは、日本において大麻を所持すれば逮捕されるということだけです。逮捕され、前科が付くという事実は何のプラスにもなりません。
かつて私は、とある格闘技を習っていました。その時、指導に当たっていたのが某選手です。この人は厳しく、私はしょっちゅう叱られていました。「声が小せえんだよ!」「お前、駅でタバコ吸ってたろ! ガキのくせにタバコなんか吸ってんじゃねえ!」などと言われ、嫌になった私はその格闘技を辞めました。まあ、はっきり言えば悪いのは私なのですが。
それから、時は流れて十数年後のことです。
ある日、私は何気なく新聞を読んでいました。すると「格闘家、逮捕」という文字が飛び込んで来たのです。
おいおい誰だよ、と思いながら記事を読んでいくと……なんと、逮捕されたのは某選手でした。昔、礼儀知らずだった私を叱りつけていた某選手です。
しかも、その罪名が迷惑防止条例違反でした。迷惑防止条例……適用範囲の大きそうな言葉を用いていますが、要は痴漢です。某選手は、幼い少女に痴漢をしたのです。
格闘家が少女に痴漢……当時、ネットでは笑い話として伝えられたようです。しかし私は、そのニュースを見て笑うことは出来ませんでした。かつて礼儀知らずの若者ならぬバカ者だった私に、怒鳴りながら接してくれていた某選手。当時は不快でしたが、思い返せば言われて当然のことばかりです。そんな某選手が、まさか痴漢とは……なんだか切ないものを感じましたね。
今は、某選手は社会復帰しているものと思います。同じ罪を繰り返さないよう、祈るだけです。ただ、某選手が特殊な性癖の持ち主である場合、それは極めて難しいでしょうね。




