場を見るのは大事です
当たり前の話ですが、格闘技にはルールがあります。ボクサーが投げを使えば反則になります。柔道でパンチを使えば、これまた反則になります。
さらに、どんな名選手でもルールが変われば実力を発揮できません。仮に、ボクシングの世界チャンピオンがムエタイのルールでムエタイのチャンピオンと闘ったなら、勝つのは非常にに難しいでしょう。こんなことは言うまでもありませんが。
さて、格闘技には各々、闘う場所があります。ボクシングやキックボクシングはリング、柔道や空手は畳といった感じですね。この場所というのも、実は馬鹿に出来ないものがあるんですよね。
例えばですが、畳だと場外として仕切り直す局面でも、リングだとロープ際に追い詰められた状態で続行となる訳です。この違い、端から見ていると分からないかもしれませんが……攻防にはかなり影響してきます。
ましてや、これが野外での闘いだったりすると……展開がまるで違ってきますね。例えば、相手をコンクリートの壁に追い詰めた場合、もしくは壁を背負ってしまった場合などは、畳とはまるで違う展開になりますね。
ちなみに、大勢を相手に闘う時は壁を背にしろ、という格言らしきものを格闘技マンガで見た記憶があります。背後から襲われないように、という配慮なのでしょうが、これはどうかと思いますね。後ろが壁という状況は、心理的な圧迫感が凄いです。逃げ場がない、という状態な訳ですから……格闘技でも、ロープや壁を背負っている選手は、基本的に不利な体勢です。なるべくなら、避けた方が無難かと。
ちなみに某ボクサーは、壁を背にした状態で数人の男をノックアウトしたそうですが(もちろん路上でのケンカです)、この人は完全に別格です。我々とは違う人種ですので、参考にしない方がいいでしょう。
日本の歩道には、アスファルトが敷かれています。格闘技で使用するマットや畳とは、比べものにならない硬さです。
このアスファルトの上では、闘いの様相も変わってきます。例えば、一本背負いのような投げ技を道路でまともに食らえば、確実に大ダメージを受けます。下手したら、一発の投げで死にます。
また、レスリングのタックルも変わってきます。レスラーのタックルをくらい、倒されたとしましょう。マットの上ならば、そのまま続行できますが……道路でタックルをくらった場合、後頭部をアスファルトにまともに打ちつけることもあります。そのダメージは半端なものではありません。これも、下手をすると死にます。
それだけではありません。町中には、いろいろな物があります。電柱、塀、止まっている自転車、落ちている石ころ、などなど。路上は整備された畳ともリングとも違います。
喧嘩慣れした者は、こうした場の状況を上手く利用します。落ちている石ころや、停まっている自転車を武器の代わりにしたりします。また、電信柱が立っていたり看板が置かれていたりする場所では、回し蹴りや後ろ回し蹴りのような動作の大きい技は使いづらいですね。
これが山の中だったりしたら、もっと厄介な状況になります。草が生え、でこぼこの山道では……ボクシングのフットワークなど使えません。また、木の生い茂る林の中に入りこんでしまったら、障害物が多すぎて闘うのは非常に難しくなります。以前に私は、山ごもりなどしても格闘家には何の益もない……と書きましたが、昔の武術家は山の中での闘いを想定し、山の環境に慣れておくために山ごもりをしていたのかもしれません。
それはともかく、山の中では格闘技のチャンピオンよりも、山に慣れ親しんだ地元のマタギや木こりの方が強いかもしれませんね。
私が何のためにこんなことを長々と書いてきたのか、もうお分かりですよね。最強の格闘技だ何だと言っても、状況次第で強さは大きく変化するということです。
格闘技はリングであるか畳であるか、それだけでも大きく違ってきます。ましてや、様々な障害物のある町中や、フットワークなどまるで使えないような山の中では、闘いの展開は全く変わってきます。
そうした場の状況を無視し、強さについて語ることは不可能です。はっきり言ってしまうなら、場の状況次第で個人の強さなど簡単に変わるということです。
極端な話ですが、極寒の地で北極熊とアフリカゾウが闘った場合、恐らく北極熊が勝つでしょう。アフリカゾウは本来の生活圏とはまるで違う寒さのため、本来の実力の半分も発揮できません。地上最強の動物と言われているアフリカゾウも、実力を発揮できない場にいては敗北する可能性があります。
ただ逆に言うなら、場の状況を上手く利用できれば、素人が格闘家に勝つことも可能です。私の嫌いな「美少女がマッチョな大男をノックアウトする」というシーンも、それに相応しい場面を上手く作り上げれば十分に可能でしょう。少なくとも、聞いたこともない古武術よりは確実に有効でしょうね。




