とある日のジムの風景
今回はちょっと趣向を変え、私のとある一日のジムでのトレーニングを再現してみます。総合格闘技という特殊なケースですが、格闘技のジムではこんな風に練習しているんだよ、ということを一般の人にも知っていただきたいと思いまして。
某日、私は午後八時近くにジムに到着しました。階段を昇り、ジムに入り皆に挨拶します。すると、久しぶりに会う人がいました。春川さん(仮名です)という元プロの選手です。身長は百八十センチ近く、体重は九十キロ近い大型選手……のはずでしたが、ボクシングのプロライセンスを取得し体重を落としたため、かなりスマートになっていました。
私は更衣室で着替えると、まずはウォーミングアップを始めます。動的ストレッチから入り、シャドートレーニングで軽く体を動かしていきます。季節は夏なので、少し動くとすぐに汗ばんできますね。
本来なら、この後はミット打ちです。しかし、この日は時間的に余裕が無かったので、スパーリングへと移りました。私は早速、16オンスのグローブとレガースを付けます。そして、春川さんと強めのスパーリングをやりましたが……当然ながらボコボコにされましたね。
スパーリングが終わる頃には、時刻は八時二十分となっていました。打撃の時間は、そこで終了となります。八時半からは寝技の時間ですので、使用したグローブやレガースなどは自分で拭き、片付けなくてなくてはなりません。
そのグローブやレガースを片付けている時、私は春川さんと話をしました。春川さんはボクシングのプロライセンスを取得しており、いずれ試合をするかもしれない、とのことです。その階級を尋ねると、ミドル級かスーパーウェルター級だろう、との答えが返ってきました。
「じゃあ、いつか村田諒太とやるんですか?』
と私が冗談めかして尋ねると、春川さんは苦笑しながら、
「無理ですよ。二秒で倒されますから」
と返してきました。私の通うジムはこのように、練習の合間にちょいちょい雑談してます。ちなみに、念のため説明しますと……村田諒太とはロンドンオリンピックのボクシングで金メダルを獲ったミドル級のプロボクサーです。現在の日本ミドル級において期待の星ですね。
そして、ジムは寝技のクラスへと移ります……とはいっても、場所を移動する訳ではありません。先ほどまで打撃のクラスをやっていた場所で、そのまま寝技をやることになります。
参加するのが打撃のみという人は、この時点で帰ることも出来ます。私は本来ならば寝技にも参加しますが、その日は肘の調子が悪く、寝技のスパーリングなどしたら痛めてしまいそうでした。そのため、寝技には参加しません。代わりに、サンドバッグ・トレーニングなどの打撃の自主練を隅の方でしておりました。まずはサンドバッグを丹念に叩き、技のフォームをチェックします。体重の乗せ方、拳の戻し、距離などなど……サンドバッグを使ったトレーニングは本当に重要ですね。
しかし一方で、トレーナーの教えている寝技の授業に聞き耳を立てていたりもします。時にはサンドバッグを叩く手を止め、トレーナーの指導をじっくりと見たりもしていますね。
私の通うジムでは、このように変則的な練習も出来ます。寝技の時間でも、サンドバッグ・トレーニングのような打撃の自主練は出来ます。他の総合格闘技ジムでは、どのような練習をやっているのかは知りませんが……ただ、トレーナーによっては「オレの指導の最中に、勝手なことしやがって……」などと不快に思うケースもあるかもしれません(まず無いと思いますが)。その辺りは気を付けた方がいいかもしれませんね。
トレーナーの寝技の指導が終わると、寝技のスパーリングへと移ります。その間も、私はひたすらサンドバッグを叩いたり蹴ったりしていますが……しかし、たまに乱入することもありますね。乱入というと言い方はおかしいですが、要は怪我を防ぐためのガード……とでも言えばよいのでしょうか。
何故なら、寝技のスパーリングには途中で様々な展開があります。上になったり下になったり、技から逃れるために動き回ったり……その結果、二人してとんでもない位置に移動していることがあります。
しかも、スパーリングは二人だけでやる訳ではありません。二人ずつ、同時に二組でやったり三組でやったりすることもあります。スパーリングの最中は、周りを見ている余裕が無く、そのため違う組の人間同士がぶつかってしまうこともあります。
例えばAさんとBさん組、そしてCさんとDさん組がスパーリングを始めたとしましょう。AさんBさん組の技の攻防が白熱し、膠着しているCさんDさん組に近づき、ぶつかり合ってしまう……こんなケース、少なくありません。
そのため、ぶつかりそうな時はウレタンのボードを持って壁を作ります。ただ、これは時と場合にもよりますね。始めたばかりの人は、やらなくていいと思います。
やがて午後十時になり、スパーリングの時間も終わりました。すると、トレーナーの訓辞と挨拶、そしてジムの掃除を皆でやりました。これにて練習は終わりです。後はシャワーを浴びて帰るだけ……なのですが、私は残って自主練をしました。綱引きで使う太いロープを用いたトレーニングです。この太いロープを片手に一本ずつ、計二本持ちブンブン振ったり地面に叩きつけたり……無茶苦茶きついです。これをトレーニングのシメとして行い、こうして私のトレーニングは終了です。
普段とはちょっと違う部分もありますが、大体はこんな感じですね。もし、何かの参考になったのなら幸いです。




