二兎を追う者は……
言うまでもありませんが、格闘技には様々な種類があります。ボクシングやムエタイ、テコンドーや空手といったパンチやキックの攻防が中心となる打撃系。柔道やレスリング、ブラジリアン柔術といった組み技系。さらには総合格闘技や日本拳法のような、両方の要素がある格闘技もあります。
さて、以前にも書きましたが……たまに聞かれるのが「一番強い格闘技は何ですか?」という質問です。この質問に関しては、最近では正直に「分かりません」と答えるようにしています 。
ただ、格闘技を始めようとしている人には、こうアドバイスします。
「何をやろうが、それはあなたの自由です。ただ、しばらくは一つの種目に絞って練習した方がいいと思いますよ」
これは、あくまで私の考えですが……初めのうちは一つのスタイルや流派に絞り、それだけに集中して練習した方がいいのではないかと。
同じ打撃系でも、ボクシングのパンチと空手の突きはまるで違いますし、キックボクシングのキックとテコンドーの蹴りはまるで違います。どちらがいい、という訳ではなく、各々のルールに応じて技術が変わってきた訳です。
ましてや、打撃系と組み技系となると……例えば、右利きのボクサーは左手を前にして構えます。ところがレスリングの場合、右利きのレスラーは右手を前にして構えるのです。この時点から、既に正反対ですよね。
さらにボクシングとレスリングは、構えからして違う点が幾つもあります。姿勢や足幅の広さ、顎の位置などなど……格闘技経験の全く無い人が同時に習ったとしたら、混乱するのは間違いないでしょうね。
格闘技を始める理由は、人それぞれでしょう。運動不足解消のためという人もいれば、テレビで観た格闘家に憧れて……という人もいるかもしれません。
ただ本格的にやりたいのであるなら、まずは一つの競技なり流派なりに絞った方がいいでしょうね。その競技が強いか弱いかなどという事は無視して、まずは一つを数年打ち込んでみた方がいいでしょう。
以前にも書きましたが、パンチだけでも極めるなら一生ものの技術です。初心者のうちから、色んな格闘技に手を出していては……何もかもが中途半端に終わってしまう可能性が高いでしょうね。
そのため初心者のうちは、一つの種目に絞って一心不乱に練習した方がいいとは思います。二兎を追う者は一兔も得ずという言葉がありますが、中途半端にあれやこれや手を出しても、凡人には身にならないのは確かですね。
やたら数多くの格闘技経験を誇らしげに語る人もたまにいますが……正直な話、そういう人はたいてい中途半端にしかやっていません。結果、何一つ身に付いていないというケースがほとんどですね。
もっとも、ごくまれにですが……何の経験もないまま複数の格闘技を同時に始めて、身に付いてしまう人もいます。実際、ボクシングと空手(顔面パンチ無しのルールのもの)を同時に始めて、プロライセンスと黒帯とを取得してしまった人もいますからね。ただ、普通の人にはおすすめできませんが。
家を建てるには、しっかりとした土台が必要です。格闘技もまた同じですね。やはり土台となる技術が必要かと思います。それはボクシングでも空手でも、あるいは柔道やレスリングでも構いません。まずは、基礎となる格闘技術をしっかり身に付けることが大事です。
その、しっかり身に付けた格闘技術をベースにし、そこから新しい技術を学んでいく……個人的には、それが理想の形ではないかと思っています。例えば、ボクシングという格闘技をベースにし、ボクシングのパンチ技術を身につける。そこに、他の格闘技の技術を取り入れていく……言うなれば、ボクシングという幹に、ムエタイの蹴りやブラジリアン柔術の組み技といった枝葉となる技術を身に付けていくのがベストではないかと思います。この場合、攻撃の技術のみならず防御の技術を身に付けることも含まれますが。
格闘技は単純な足し算ではありません。闇雲に色んなものを習ったとしても、習った技が全て身に付くかといえば……それは難しいと言わざるを得ません。
むしろ、新しい技術を学ぶことがマイナスに作用することもあります。これまで学んできたものが、新しい技術とごっちゃになってしまい、結局はマイナスになってしまうのではないかと。
そういえば以前、百の資格を持つ女、なるサブタイトルのドラマが放送しているのを観たことがあります。正確には、サブタイトルだけチラリと見ただけですが……仮に百の技を知っていたとしても、使えなければ意味がありません。「知っている」のと「使える」のは全く別の話です。
もし本格的に格闘家を目指すのであるなら、まずは自身の土台となる格闘技を選び、その格闘技の習熟に自身の時間を捧げるのがいいでしょうね。何も身に付いていないうちに、あれやこれや始めたとしても……トータル的な強さには結びつかないのではないかと思います。
もっとも、これはあくまで私の考えですので……二兎を追って二兎とも得てしまう人もいるかもしれません。どうしてもやりたいのであるなら、止めるつもりはありません。




