ジャブ、それは世界を制するパンチです
先日、私はとある作品を読んでいました。お気に入りユーザーさんがブクマされていた作品でしたが……ちょっと考えさせられる描写がありました。ジャブというパンチがあまりにも軽視されていたんですね。その作品を叩くのが目的でないですし、またボクシングをテーマとした作品でもないのでこれ以上は書きませんが。
ただ、私は考えてしまいました。一般の人にとって、ジャブというのは「威力のほとんど無い小技」という認識なのだろう、と。格闘技ゲームでいうところの弱パンチ……その程度の位置付けでしかないのかもしれません。さらに言うと、その根底には「ボクシング=創作における噛ませ犬」という図式があるのかもしれません。
一方、現実の格闘技において、ジャブは本当に重要な技です。ボクシング、キックボクシング、総合格闘技……こと顔面を殴打する攻防のある格闘技においては、ジャブという技は欠かせません。ボクシングでは「左を制する者は世界を制する」という格言まであるくらいです。なので今回は、ジャブという極めて有効なパンチについて語らせていただきます。一般の方々に、ジャブの真実そして奥深さが伝わればいいのですが……。
ここでまず、ジャブというパンチについて説明しますと……ボクシングにおいて、右利きの人は左手を前にして構えます。その構えた左拳を、相手めがけて真っ直ぐ突き出す技です。この場合、腕で殴るというより肩から拳を発射させるというイメージで打った方がいいかもしれませんね。
さて、ジャブの役割ですが……まずは、制空圏の確保です。当たるか当たらないか、ギリギリの間合いでジャブを打ち、相手を近寄らせないようにします。すると、相手はうかつに近寄れません。
逆に、ギリギリの間合いでジャブを打たれるとどうなるか……例えば、目の前にいきなり虫が現れ、あなためがけ飛んで来たとしましょう。その場合、あなたは目をつぶるか避けるかするでしょう。ジャブには、そういった効果があります。手首のスナップを利かせたジャブは本当に早く、目くらましのような用途があるのです。目の前に、ビュンと飛んで来る拳……これは、反射的に目をつぶったり顔を逸らせてしまいますね。
ボクシングの試合などで、当たらない間合いでジャブを打っている選手がいますが……これもまた、立派な攻撃なのです。
また、速くキレのあるジャブを打つことにより、相手はうかつに近寄れなくなります。結果、攻撃の主導権をこちらが握ることが出来ます。ボクシングの試合などで「プレッシャーをかける」という言葉がありますが、その一因となるのがジャブの存在です。
さらに、速く鋭いジャブ……それは、崩しの上手さにも繋がりますし、攻撃のみならず防御にも繋がります。特に、腕の長い人が小刻みにジャブを打つだけで、うかつに間合いに入れなくなります。
また、ジャブは決して弱いパンチではありません。鼻に当たれば鼻骨を折ることも可能ですし、口に当たれば前歯をへし折ることが可能です。どうも、格闘技ゲームにおける弱いパンチのイメージが強いジャブですが……とあるボクサーは、こんなことを言っていました。
「ヘビー級のジャブは、ライト・ヘビー級のノックアウト・パンチ並の威力がある」
ヘビー級ボクサーのジャブは、素人が相手なら一発でノックアウトできるということです。
ボクシングにおいて、一般の人が注目するのはKOに結びつく派手な大振りのパンチでしょう。ところが、その派手な大振りのパンチを命中させるためには、ジャブという地味なパンチが必要です。速く正確なジャブがあってこそ、KOに繋がるパンチを放つことが可能になるのです。
冒頭に挙げた作品は、ボクシングをテーマとしたものではありません。しかし、なろうでもボクシングについて書かれた作品はあります。私はそのうち数作品を読みましたが……はっきり言って、もう少しきちんと調べてから書いて欲しいな、と思うような作品ばかりでした。中には試合のシーンでまともな攻防を書かず、ルールすら分かっていないのでは……と思うような作品までありました。
ボクシングという作品について書くのなら、せめてジャブというパンチのもたらす効果や、ジャブの重要性くらいはきちんと書いて欲しいなと思います。少なくとも、ボクシングという格闘技は拳法や古武術などと違い、全国各地どこにでもジムはあります。入門するのは簡単です。
仮に、入門がどうしても無理だとしても、ボクシングの技術書は多数あります。それらを調べれば、ジャブがいかに重要なパンチかは理解できるはずなのですが……。
蛇足かもしれませんが、私が交流しているユーザーさんの中に、スポーツの小説を書かれている方がいます。野球やサッカーの小説を書かれていますが、そのこだわりや熱意は活動報告などからも伝わってきていました。野球やサッカーには全く興味のない私にすら、伝わってきました。
一方、私が読んだボクシング作品からは、こだわりや熱意といったものが全く感じられません。ボクシングという格闘技の表面的な部分しか見ていないのだな、ということだけが伝わってきます。中には、リアリティーを無視した展開や馬鹿馬鹿しいトレーニングでお茶を濁している作品もある始末です。
仮にボクシングについての作品を書くなら……ボクシングについてきちんと調べ、こだわりと熱意を持って書いて欲しいと願うのは私のワガママなのでしょうか。少なくとも私がなろうで読んだボクシング小説は、同じなろうでスポーツ小説を書いていた件のユーザーさんと比べると、あらゆる面で劣っていたのは確かです。比べるのも失礼なくらいに。




