転向した人
言うまでもないことですが、プロの格闘家はいつまでも続けられません。趣味でやる分には、別に何歳でも続けられますが……一線で闘い続けるとなると、いつかは衰え限界を迎える日が来ます。
そうなると、格闘家は第二の人生を歩まなくてはなりません。有名な選手ですと、自分のジムを持ったりトレーナーとして活動したりします。さらには、プロモーターになる人もいます。プロモーターとは、簡単に言うなら試合を企画する人のことです。
中には俳優に転向する人もいます。チャック・ノリスやドルフ・ラングレン、それにジャン・クロード・ヴァンダムらは空手のチャンピオンでした。また、プロレスラーから俳優に転向する人も多いですね。プロレスラーの場合、培った技術が映画やドラマのアクションシーンで活かしやすいのかもしれません。WWEのドウェイン・ジョンソンなどは、俳優としても成功していますよね。
さて、今回は……かつて格闘家として超一流の実績を持ちながらも、俳優に転向した後はパッとしなかった人を紹介し……さらに、俳優としての評価はよく分からないけどメジャーな作品で一流の俳優と共演している人も、同時に紹介いたします。
まず一人目は、デル・アポロ・クックです。知っている人は少ないでしょうね……一応、1980年代のキックボクシング界で活躍し、数々のタイトルを獲ったそうです。主戦場はアメリカでしたが、日本でも有名な存在だったとか。当時のアメリカでは英雄のような選手であり、日本で言うなら魔裟斗のような存在だったようです。
このデル・クックですが、引退後は俳優にもチャレンジしてます。そして数本のB級映画に出演しましたが……どれも鳴かず飛ばずだったようです。
このデル・クック主演の映画の中で唯一、私が観たことがあるのが『トリプルインパクト』という映画です。内容はというと……「未開の国の秘宝を探す三人の格闘家の冒険」というストーリーです。まあ、よく有りがちなB級映画です。さしずめ、格闘家版インディ・ジョーンズといったところでしょうか。
しかし、この作品の凄さは……なんと言っても宣伝のPVです。VHSテープに収録されていたのですが、デル・クックがカメラに向かい「俺はスティーヴン・セガールやジャン・クロード・ヴァンダムみたいなヤワな奴らとは違う。俺は本物の格闘技世界チャンピオン、デル・アポロ・クックだ!」などと怒鳴っています。セガールやヴァンダムの名前を出すとは、ずいぶん大きく出たな……と感じたことだけは記憶に残っています。もっとも、格闘技の実績はその二人より上であるのは確かですが。
ちなみに、デル・クックは現在、アメリカにてキックボクシングのプロモーターをやっており、俳優業は引退したようです。
二人目は……オレッグ・タクタロフです。この人は最近(といっても十年ほど前になりますが)まで現役でしたので、ご存知の方も多いかもしれませんね。ロシア出身の総合格闘家であり、世界サンボ選手権で優勝し、またUFC6にて優勝しています。格闘家としてのキャリアは超一流と言っていいでしょう。
この人もまた、格闘家を引退した後は俳優として活動を始めます。ただ面白いのは、この人の場合はかなりメジャーな作品に出演していることです。
マスコミを利用する凶悪犯と捜査官との息詰まる攻防を描いた『15ミニッツ』(ロバート・デニーロやエドワード・バーンズらが出演しています)、同僚の汚名を晴らそうと奔走する刑事の姿を描くサスペンス映画『ボーダー』(これまたロバート・デニーロやアル・パチーノらが出演しています)、さらにはSFホラーの『プレデターズ』などに、脇を固める俳優として出演しております。
しかも、この人の場合はもともとが組み技の人なのです。空手やキックボクシングなどといった打撃系の格闘技をやっていた人なら、アクションシーンで派手なキックなどを繰り出すことが出来ますが(前述のデル・クックなどはまさにそのタイプです)、タクタロフはそういった技をいっさい使いません。にもかかわらず、様々な映画に出ていました……これは、タクタロフの個性的なキャラクターゆえでしょうか。
ともあれ、タクタロフは格闘家としても一流の実績を残しながら、俳優としても一流……とまではいかないものの、メジャーな作品に出演しているのは間違いありません。大したものですね。
勘違いされては困るので、もう一度書きますが……自身のペースで無理をしない限り、格闘技は何歳になっても続けられます。ただし、プロともなれば話は別です。いつかは引退し、第二の人生を歩まなくてはなりません。俳優も、その第二の人生の選択肢の一つではあります。
しかし、格闘家として一流であっても、俳優としては……という人も少なくありません。こればかりは、向き不向きもありますからね。ちなみに大昔の話ですが、某Kー1選手はアニメ『餓狼伝説』にて、声優としてジョー東の声を担当したことがありました。これまた……な出来でしたね。まあ仕方ないですが。




