基準をどこに置くか
私が『小説家になろう』にユーザー登録してから、二年以上が経ちました。その間、色々ありましたが……今になって、ふと思うことがあります。果たして、なろうで当たり前に使われているキーワードや用語などは、一般の人たちに通じるのだろうか……と。
少なくとも私は、なろうにユーザー登録した直後は知らないキーワードの存在に随分と首を捻ったものです。「チートって何の事だろう?」「BLって何だ?」「TSとは何ぞや?」などと考えながら書いていました。未だに、よく分からない部分は多々ありますが……。
さて、以前に私は知り合いから「回し蹴りってどうやるの?」と聞かれたことがありました。そこで私は、右の上段回し蹴りをやって見せたところ――
「えっ? それって、普通の蹴りじゃないの?」
どうやら知人は、回し蹴りと後ろ回し蹴りとを混同していたようです。私からすれば当たり前の知識でしたが、普段は格闘技を観ない人たちにしてみれば、回し蹴りという基本的な技ですら未知のものです。アクション映画などで観る、派手な後ろ回し蹴りの方が体の回転は分かりやすいですよね。
ちなみに、回し蹴りと後ろ回し蹴りの違いを説明しますと……右足で蹴る回し蹴りの場合、左足を軸に体を反時計回りに回転させ、足の甲もしくは脛を相手に当てる技です。
それに対し後ろ回し蹴りとは(右足で蹴る場合)……体を時計回りに回転させ、踵やふくらはぎの部分を当てる技です。こちらの方が動作が大きいため、見栄えはしますね。ただ、この説明だけでは分からない人もいるかもしれません。そんな人は……申し訳ないですが、動画を観ていただけると理解しやすいかと思います。
また、ジャンプした状態で後ろ回し蹴りを放つ跳び後ろ回し蹴りという技もありますが……その技を「旋風脚」と呼んでいた人もいました。これは格闘ゲームの影響かもしれません。旋風脚と跳び後ろ回し蹴りとは違う技ですので……これまた、動画などで見た方が早いでしょうね。
もっとも、打撃技はまだマシです。組み技、特に関節技や絞め技ともなると、技の名前を言ったり書いたりしたところで……果たして何人の人が分かってくれるのだろうかという疑問はありますね。
例えば、バックドロップという投げ技があります。相手の背後に密着し、両腕を相手の胴に回して後方に投げる……という技です。プロレスなどで有名なため、知っている人も多いことでしょう。バックドロップなら、いちいち説明しなくても技の名前だけで理解していただけるものと思います。
しかし、プロレスではほとんど登場しない技はどうでしょう。例えば、ノースサウスチョークなどと言われても、ほとんどの人は知らないでしょう。それどころか、腕ひしぎ十字固めや三角絞めといった基本的な技すら、知らない人の方が多いでしょうね。
こうした技の名前だけを聞いても、格闘技の知識の無い人にはさっぱり分からないですよね。かといって全く知らない人に言葉だけで説明する……というのも、かなり難しいように思われます。
一応、説明しますと……腕ひしぎ十字固めは相手の二の腕を両足で挟み、同時に相手の前腕を自身の両手で掴んで肘関節と逆方向に曲げ破壊する技です。
そして三角絞めは、自分の両足を三角の形にして相手の首を絞める技です。この場合、相手の片腕と首とを巻き込んで絞めます……正直、全く分からないと思いますので、動画などで観た方が早いでしょう。
格闘技に限らず、もし何か特殊な分野をテーマにして作品を書く場合……そこに登場する用語をどの基準に合わせるかは、非常に難しいですよね。
その分野には全く無知な一般人を読者として想定した場合、非常に初歩的な内容とならざるを得ないでしょう。また、所々に詳しい説明シーンを挿入しなくてはなりません。結果、話のテンポが悪くなる恐れがありますね。
一方、作品を完全にマニア向けにする手もあります。その分野に詳しい人向けにするという……そうなると、万人ウケは期待できないですね。しかし、その分野のコアなファンは掴めるかもしれません。ただ、逆にコアなファンの目は厳しいですからね……おかしな事を書いたりすれば、容赦なく突っ込まれる可能性はあります。
どちらを選ぶか、それは難しいですね……ただ、一般人向けの内容にする場合も、最低限の勉強だけはしておかないといけません。以前にも書きましたが、某ラノベではボクシングのトレーニング法の一つであるミット打ちの事を「スパーリング」と書いていました。もっとも、この場合は単なる書き間違えではないかと思いますが。
なろうでも、いい加減な知識に基づいた格闘技小説はあります。私はいちいち突っ込む気はありませんが……事前に、最低限の下調べだけはして欲しいですよね。




