脱力感
小説やマンガやアニメ、さらにドラマや映画などの色んな分野において、脱力系と呼ばれるジャンルの作品があるようですね。脱力系の定義がどのようなものなのか、正確なところは私には分かりませんが……どうやら、真剣さに欠けるストーリーの作品がそう呼ばれるようですね。最近では、シリアスな作品よりはウケているのではないでしょうか。
少なくとも、なろうにおいてはシリアスな作品よりは人気があるような気がします。私の気のせいだったらすみません。
さて、先日のことです。アメリカのUFCなどでも活躍されている総合格闘家のストラッサー起一さんが、私の所属するジムの練習に参加してくれました。
そして合同練習の後、スパーリングなんかをさせていただきました。しかし、ストラッサー起一さんは超一流の格闘家です。当然ながら、私などに勝ち目があるはずもなくボコボコでした。しかし、そこで改めて感じたことですが……本当に上手い人というのは、動きの中で見事に力が抜けているんですよね。
ストラッサーさんは見事な体をされており、パワーに関しては私など比較にならないレベルです。にもかかわらず、力の抜けた見事な動きでその局面をコントロールし、私の動きを制していました。力を抜く、というのは格闘技において本当に重要なのであります。というわけで今回は、脱力について語ります。
ボクシングを始めると、必ず言われることがあります。それは、肩の力を抜くことです。トレーナーからは、肩の力を抜いてパンチを打て、としつこいくらいに言われます。
実際の話、全身に力を込めてガチガチの状態でパンチを打ちますと、これはもうスローモーションのようなパンチとなります。キックもまた同じです。当然ながら、スピードの無いパンチやキックに威力はありません。それ以前の問題として、まず当たりませんが。
パンチやキックといった打撃技を打つ際のコツの一つに、打つ直前までは体の力を抜く……というものがあります。初めのうちは、意識して力を抜かなくてはならないでしょう。
しかし、サンドバッグを叩いたりしているうちに、脱力するコツが分かってきます。前回の補足になりますが、脱力して打った際の手応えや感触はサンドバッグを打たないと理解できないでしょうね。
それはともかく、練習を続けるうちに意識せずとも脱力し、威力と速さとを兼ね備えた打撃を打てるようになります。打撃技において、脱力は非常に大事ですね。理想としては、パンチを打つ寸前までは完璧に力が抜けており、パンチやキックを打つ瞬間に百パーセントの力を入れる……この零から百の力の入れ方こそがコツの一つでしょうか。
また組み技においても、脱力は大事です。相手の体勢を崩す時、投げる時、不利な体勢から抜け出す時などなど……脱力した状態から一気に力を入れる、零から百の力の入れ方は大切です。
また、押さえ込む時などもやたら力を込めていると、スタミナの消耗が激しいです。時には力ずくで押さえつけるような局面もありますが、ずっと力を込めたままでは、すぐに息切れでしょうね。
余談ですが、総合格闘技における寝技の攻防……あの局面はスタミナの消耗が激しいです。見ている分には面白くないかもしれませんが、あの攻防は本当に疲れますね。だからこそ、上手く力を抜かなくてはいけないわけです。
さらに言うと、お互いに力の入っている状態でスパーリングをすると怪我もしやすいです。怪我については、また別の機会に述べさせていただきますが……怪我をしても、いいことなどありません。怪我をしないのも上手さのうちです。少なくとも、私はそう解釈しています。
しかし初心者同士でスパーリングをすると、どうしても必要以上に力が入ってしまい、怪我をしやすい気がしますね。無論、本当に始めたばかりの人なら遠慮もありますし、また技を知らないので怪我をさせる恐れはありません。
問題なのは、中途半端に技を知った段階の初心者ですね。力を抜いた動きが出来ず、ガチガチに力を込めた状態で関節技をかけてしまい、結果的に怪我が増えるかもしれません。力を抜いた動きは、お互いの怪我を防ぐ上でも重要です。もっとも、私も力を抜いた動きにはまだまだ遠いですが……。
最後に……誤解されては困るので付け加えますが、脱力が大事だからといって力そのものを否定している訳ではありません。格闘技において、力はとても大事な要素です。試合ともなれば、力ずくでねじ伏せる局面もあります。力で強引に仕掛けていく場面もあります。
さらに言うと、脱力というのはあくまで「力まない」ということを重視しているだけです。決して力を使うな、と言っている訳ではありませんので、その点だけは間違えないでください。そもそも、いくら脱力しようが……圧倒的な体格差の前には無意味ですので。




