慣れるとは
気がついてみると、私も『なろう』にて二十以上の作品を投稿していました。書くことに対し、昔よりは慣れてきた気がします。書く、という行為も理屈ではない部分がありますね。何も考えず書き続けていくうちに、書くことに慣れてきたような気がします。上手い下手は別にして、ですが……。
格闘技の場合も、理屈ではない部分があります。相手の動きに反応し、左ジャブからの右ストレートを放つ……文字にすると、非常に簡単です。事実、簡単に実行できると思うかもしれません。しかし、いざ実践となると……これがなかなか難しいのです。
特に試合ともなると、基本のワンツーすら忘れてしまうケースがあります。アマチュアのボクシングやキックボクシングの試合を観ると、基本を忘れてのグルグルパンチの打ち合いなどは、よく見かけます。一応、試合に出る以上はかなりの練習をしているはずなのですが……。
ちなみに、何の訓練もしていないような人が他人を殴る時……それは基本的に、腕をブン回すようなフック気味のパンチである場合がほとんどです。ただ、フックの場合はきちんと体重を乗せて打ちますが……素人のフックは完全に手打ちですね。したがって、威力はさほどありません。
素人同士の喧嘩で、お互いに服の襟を掴んだ状態でペチペチ殴り合っている……そんな光景は、日常でも有りがちですね。つまりグルグルパンチの打ち合いは、本能に忠実な行動なのです。
しかし慣れてくるにしたがい、試合に出てもきちんと動けるようになります。一定の間合いを保ち、基本の通りに牽制の左ジャブやローキックを放つ。相手が前進してきたら回りこむ……こうした動きは、試合に慣れていないと難しいですね。
前々回、そして前回と防御について語りましたが……この防御面でも、慣れという要素の占める割合は大きいです。顔に飛んでくるパンチを躱すには、パンチの打ち合いに対する慣れが必要ですね。スパーリングのような実戦形式の対人練習を積むことにより、殴り殴られることに対する慣れが生まれます。そしてパンチの攻防に慣れてくると……だんだんと、顔に飛んでくるパンチが見えてくるようになります。これは、本当に理屈ではないですね。一人で独自に練習していたのでは、絶対に辿り着けない境地です。
さらに、顔面へのパンチに対する対応能力が上がってくると……今度は顔面へのキックに対する反応も良くなります。ある空手家はボクシングジムに通い始めたところ、顔面への蹴りに対する対応能力が上がったそうです。これもまた、顔面に対する攻撃への「慣れ」の効果なのでしょうね。
またキックボクシングや空手には、相手の太ももを蹴るローキックという技があります。一見すると地味ですが……これは強力ですね。蹴られたことのない人には分からないかもしれませんが、プロ選手のローキックには一発で闘いを終わらせるだけの威力があります。
事実、ローキックを禁止にしている流派やスタイルもあるくらいです。この理由については、様々な考え方や思想があるので一概には語れませんが……ローキックは地味でありながら強力なため、試合をつまらなくするという興行側からの視点もあるようです。
このローキックは、確かに強力ですね。強いローキックを何発ももらうと、立っていられずダウンしてしまいます。以前にも書きましたが、私の通うジムには昔プロのキックボクサーだった森山さん(仮名です)という人がいまして……森山さんのローキックを三発もらったら、私は耐えきれずダウンしていました。
ところが、痛みに耐えてスパーリングを続けていくうちに……いつの間にか、ローキックに対する耐性のようなものが出来ていたのです。ローキックを食らっても、簡単には倒れなくなりました。
これもまた、慣れのもたらした効果ですね。ローキックを食らい続けているうちに、物理的に打たれ強くなった気がします。打たれ強くなるには、ウエイトトレーニングなどで筋肉の鎧をまとう……という考え方もありますが、痛みに慣れるという過程も必要かと思います。これまた、理屈ではないですね。
ちなみにプロの選手たちは、リングの上で強烈なローキックを何発も打ち合います。常人なら、一発で倒れているはずの強烈な蹴りを……私など、比較にならないほどの打たれ強さですね。
いろいろ書いてきましたが、格闘技は理屈ではない部分がある……という事だけは知っておいていただきたいですね。顔面へのパンチを見切る、太ももへのローキックの痛みに耐える……これは、頭で考えてどうこう出来るものではありません。
そういえば、かつてブルース・リーが「考えるな、感じろ」という名台詞を残していますが……考えない、というのも必要かもしれませんね。




