『必殺! なろう拳』(仮名)だって!
前回は、格闘技版の「トンデモ本」について書きました。今回は、覚えている限りの記憶……そして手持ちの資料を用いて、具体的にどのようなことが書かれていたかを皆さんに見ていただこうと思います。本のタイトルは仮名です。現存していると困るので流派名も出しません。私も正直、正確な流派名は覚えていないので。
タイトルは『必殺! なろう拳』とでもしておきましょう。確か、これは中国拳法系統の何か……だったと思います。当時、ジャッキー・チェンの映画が大人気で、「〜拳」が週に一回はテレビで放送されていました。その流れを感じとった何者かが、商売になると判断して刊行したものではないかと思っていますが、詳しいことはわかりません。もしかしたら、本当にある格闘技なのかもしれないですが……。
さて『必殺! なろう拳』ですが……何が書いてあったかというと、まずは成り立ち、技、鍛練方法、そして具体的にどう闘うか、などなど……。
実はこの本、内容は結構まともでした。他の本と違い、恐ろしく滅茶苦茶なことや、現実離れした武勇伝が書いてあったわけではありません。正直、技自体は今思い出してみても、そこそこ……いや、かなり実戦的ではなかったか、と思います。
ただ、その技を使うはずの場面が……何と言うか、「そんな場面、実際にあるんだろうか……」と幼心に悩んでしまうくらい無茶苦茶な状況を設定していたのです。異世界にトリップしたのだろうか? と思うくらいに。
初めのうちは、こんなことが書いてありました。
《君は学校で、隣のクラスのAとトラブルになった。Aが弱い者イジメをしていて、それを君が注意したところ、「んだとコラ!」と言い、両拳を顔の前に構えて威嚇してきた。どうやらAはボクシングをやっているようだ。さて、君はどう闘う?》
そのあとは、なろう拳でボクサーを相手にどう闘うか、という動きの例が載っていました。まあ、これは格闘技本にありがちな進み方ではないか、と思いますが、まだまともな状況設定ではあります。
こんな感じの状況が、確か十ほど書かれていましたが、その内の半分はまともで、生きていれば一度は出会うかもしれない局面ではありました。
しかし……
残りの半分は、まああり得ない話なのです。しかも中には、「それ拳法と関係なくない……」みたいなものものもあり、学年でもトップクラスのバカである私すら、思わず呆れてしまうような状況が書かれていたのです。
どんな状況かと言うと、こんな状況です。
《君はゲームセンターにいる。突然、リーゼントに凄まじい長さの学生服を着たツッパリとすれ違い、肩がぶつかった。すると、ツッパリが因縁をつけてきた。だが君が相手にしないでいたら、そのツッパリの仲間が二人、君に飛びかかって来た。君はなろう拳を使い二人を一瞬で叩きのめす。そうしたら、リーゼントのツッパリはカバンの中から鎖ガマを取り出し、鎖を振り回し始めた。さあ、どう闘う?》
念のため説明すると、ツッパリとは、当時流行っていた不良少年を意味するスラングです。鎖ガマは文字通り、カマと鎖をくっつけた武器です。
しかし……はっきり言って、こんな状況はあり得ないですよね? そもそも、ゲームセンターで二人ぶっ飛ばした時点でケンカは終わると思うのですが……そこから、さらにケンカを続行するでしょうか……さらに、カバンの中から鎖ガマです。なぜ鎖ガマ? あんな使いにくそうな武器を、なぜチョイスしたのでしょうか? それ以前に、不良少年に肩がぶつかったら、普通は人のいないどこかに連れ込まれるものですが……なぜ、ゲーセンでケンカを始めるのでしょう?
ちなみに、なろう拳で鎖ガマと闘う方法は……確かゲーセンの椅子を投げつけ、怯んだ隙に何とかかんとか……と書いてあった気がします。その、何とかかんとか……が重要なんですが、そこは忘れました。よく覚えてません。しかし、ゲーセンの椅子を投げつける……私もたぶんそうすると思います。いや、相手が鎖ガマ出した時点で逃げると思いますが。
実は先日、物置を整理したら、小学校時代の読書感想文が出てきました。私はよりによって、この『必殺! なろう拳』の感想文を書いていたのです。それが現在残された唯一の資料です。なので、このネタを次回も続けます。申し訳ありません。
すみません、次回でこのトンデモ本ネタは終わりますので。




