モテようとして……
最近、とあるテレビ番組を観ていた時のことです。番組内でキックボクシングのイベントが紹介されていました。そのイベントは、三十五歳より上の年齢の人が試合をする、いわゆる大人のためのアマチュア大会だったのですが……あるコメンテーターが、こんな事を言っていました。
「こんな歳で格闘技をやるなんて、絶対におかしい。若い女にモテようとして、必死になって体を鍛えてるとしか思えない」
このコメントを聞いた時、私は苦笑するしかありませんでした。若い女性にモテたい……そんなモチベーションで試合に出られるなら、これほど楽なことはありません。アマチュアといえど、試合に出るということは簡単ではありません。そのあたりの事情を、このコメンテーターはまるきり理解していないのだなあ……と感じました。
ただ、このコメンテーターは鋭い観察眼と的確な批評に定評のある人です。私も、この人の普段のコメントは嫌いではありません。しかし、そんな人ですら誤解している部分がある……となると、普通の人はなおさら誤解しているのかもしれないですね。
そこで私は考えました。ここは、はっきり言っておくべきではないかと。なお初めに言っておきますが……私は恋愛マスターでもモテ男でもありません。犬にはそこそこモテますが、人間の女性にモテた経験は皆無です。どうしてもモテたい人は……どっかの恋愛マスターに師事するか、カリスマホストの書いた本を読むなどしてください。
いきなりですが、格闘技をやったからといって女性にモテるようにはなりません。これだけは自信を持って言えます。
格闘技人口を増やすためには「格闘技を始めればモテます」と書いた方がいいのでしょうが……私はそんな無責任な事は書きたくないですね。モテているのは、もともとカッコいい連中だけです。さらに言うと、モテるために格闘技を始めても、まず続かないでしょうしね。
格闘技をやっていけば、拳や足や耳たぶが変形していきます。また、前歯が折れる場合もありますし顔が傷つく可能性もあります。こんな男は、今時の若い女性にモテるタイプとは完全に真逆であるのは、容易に想像がつきますね。
それ以前に……試合に出場するというのは、それなりに覚悟が必要です。特に打撃の試合の場合、アマチュアといえど怪我の可能性はあります。現に……十六オンスのグローブを着けヘッドギアを装着した試合でも、カウンターのパンチを貰い眼窩底骨折という怪我を負った人がいます。また、ミドルキックを食らい肩が外れてしまった人もいます。この二人とも、プロの選手ではありません……にもかかわらず、アマチュアの試合に出場し怪我を負ってしまったのです。
まあ、怪我の話は別にしても……試合の前に感じるプレッシャーは尋常なものではありません。以前にも書きましたが、町で肩がぶつかり「何じゃワレ!」で始まる喧嘩とは比較にならないくらい怖いです。あの怖さを「モテたいから」という理由だけで乗り越えられる人間がいるとは思えません。もしいるとすれば、それは照れ隠しで言っているか……あるいは私などには想像もつかない大物かのいずれかでしょうね。
そんな訳ですので……もしモテるためにスポーツをやるのでしたら、格闘技はおすすめしません。とりあえずは、腹筋の割れた細マッチョな体を目指してください。金に余裕のある人はライ○ップにでも通えばよいかと。金に余裕のない方は、炭水化物の摂取を少なくして自重トレーニングに励めば、若い女性に人気の細マッチョに近づけるのではないでしょうか。
仮にモテようとして格闘技を始めてしまったのなら……まずサンドバッグは叩いてはいけません。手がゴツゴツしていきますので。スパーリングもしないでください。顔が傷つく可能性がありますので。試合出場などは、もっての他です。あとは、若い女性たちの前で「僕は格闘技もたしなみますので」とでも言って、俺はいざとなったら頼りになる男だぜアピールでもしておけばよいのではないでしょうか。もっとも、この通りにしてモテなかったからといって、私は責任とれませんのであしからず。
最後に……格闘技の試合は決して楽なものではありません。試合前のプレッシャーはキツいですし、怪我の可能性もあります。しかし老若男女を問わず、一度は試合を経験してもらいたいものですね。
試合前のプレッシャーを克服し、試合に挑む……その体験は、人生において確実にプラスになってくれるでしょう。少なくとも、格闘技の怖さだけは自身の肌身で知ることが出来ます。人を殴る感触、人に殴られる痛さ、さらには闘いの際に感じる恐怖と恍惚……それらは、テレビやパソコンの画面を見ているだけでは学べないものです。




