ちょっと嫌かもしれない話
どのような分野でもそうでしょうが、何かを習得するためには、何かを犠牲にしなくてはなりません。
格闘技に関しても、それは同じです。まずは、時間が犠牲になりますね。私のように趣味でのんびりやるならともかく、本格的にやるのならば……かなりの時間を犠牲にしないといけません。
それは何も、練習時間だけではないのです。当然ながら、食事や睡眠には気を付けなくてはなりません。また、生活にも気を配る必要があります。結果、二十四時間ずっと自己を管理している訳ですね。
ある格闘家が、何かのイベントでカップラーメンを食べて「カップラーメンて久しぶりに食べましたけど、こんなに美味かったんですね」と言って周りをドン引きさせたそうです……これは極端な例ですが、大なり小なり食事には気を使っているのは確かです。まあ、全く気を使わない人というのもいますが。
さらに……意外に思われるかもしれませんが、お金も必要です。特に、強くなりたいと願うなら、大金を投じられる人間の方が圧倒的に有利ですね。
昔、「日本は豊かになって、ハングリー精神が無くなった。今の日本のボクサーはハングリー精神がないから弱い」などと言っていた人がいました。これは完全に間違ってますね。確かにハングリー精神は失ったかもしれませんが、豊かになった分だけ様々なトレーニング方法やサプリメント、果ては体のケアなどが出来ます。その効果は、失ったハングリー精神のもたらすそれより高いと私は思います。
懐古厨という言葉があるそうですが、前述の発言などは、懐古厨と言われても仕方ないですね。
さて、ここから先は少しばかり嫌な展開となるかもしれませんが……時間と金が多く投入できるとなると、やはり実家が裕福な人間の方が有利です。実際に裕福な家庭に育ち、見事な成績を残した格闘家も少なくありません。
ある超有名な格闘家(既に引退しました)は、インタビューでこんな事を言っていました。
「仕事やりながら格闘技やってる奴は甘いなって思います。そりゃ弱いよ、って言いたいですね。そんな奴には敗けないですよ」
この言葉は、ひょっとしたら編集の段階でいろいろと手が加えられているのかもしれません。いろんな意味が込められているかもしれませんので、悪い解釈だけをするのは間違いでしょう。
ただ、格闘技をするにもお金は必要です。ジムや道場の月謝に始まり、トレーニングウェアやトレーニング器具、サプリメント、果ては試合のための費用(参加費や交通費)などなど……本格的にやろうとすると、やはり相応のお金はかかります。
そのお金を稼ぐためには、当然ながら働かなければなりません。もし働かずに、それらのお金が賄えるのであるのなら……それは非常に恵まれた環境にいる、と言わざるを得ないでしょうね。
総合格闘家の所英男さんは以前、「闘うフリーター」という異名で名を馳せていました。しかし実は、かなりの数の格闘家がフリーターです。統計をとったわけではありませんが、恐らくはプロの格闘家の半数以上がフリーターではないかと。
なぜなら、プロの格闘家ともなると……かなりの時間を格闘技のために費やすわけです。試合の直前と直後には、仕事を休まなくてはならないケースもあります。また、時には顔にケガをすることもあります。よほど理解のある企業でない限り、このような人を正社員として雇用するのは難しいでしょうね。職種にもよりますが。
そして、残りの半分の内訳は……正社員として働いている者、さらに実家が裕福であるため働く必要のない者……と続き、純粋に試合のファイトマネーだけで食べていけるのは、一割にも満たないのではないでしょうか。もちろん、これは私の想像ですが……当たらずとも遠からず、かと思います。
いずれにしても、働かずに格闘技だけやっていられれば、確かにその人は強いでしょうね。単純な練習時間だけでなく、仕事のためエネルギーやストレスなどを考えずに済みますし。
これでおわかりかと思いますが、働かずに格闘技だけやっていられるというのは、本当に恵まれた環境です。働きながら格闘技をやっている人たちのほとんどは、出来ることなら格闘技だけをやっていたいでしょうね……しかし、そうもいかないのでアルバイトなんかをやっているわけです。格闘家は大変ですね。
さて、話は変わりますが……これを読んでいる人の中に、ニートはいるのでしょうか。もしいるのなら、実に羨ましい話です。その有り余る時間を、格闘技にぶつける人が一人でも出てきて欲しいものですね。
どんな分野にも言えることかと思いますが、時間を多く投入できる……これは本当に有利です。ニートでいられるということは、すなわち働かなくてもいい環境なわけですよね。働かず、格闘技のみに集中できる……これは、少々の才能の有無などひっくり返せるくらい凄い事です。試しに、やってみてもらいたいものですね。




