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格闘技、始めませんか?  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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最強伝説

 以前にも書きましたが、世の中には様々な逸話や武勇伝を持つ人がいます。しかし、私はそのほとんどを信用していません。これまでの人生で、平気で嘘を吐く人を大勢見てきたからです。

 特に不良やヤンキー、チンピラなどと呼ばれる人種には、平気で嘘を吐くタイプの人間が多いですね。彼らと交流をしてみるとわかるのですが……口ばかりの人間が本当に多いです。口先だけで武勇伝を語り、友人たちから突っ込まれて引っ込みがつかなくなり、挙げ句に取り返しのつかない罪を犯してしまう……そんな人間を、私は何人か見てきました。

 まあ結局、こういった人たちは基本的に、勝てると分かっている勝負しかしません。大人数で少人数を取り囲み、人相の悪さで威嚇し、大声や凶暴な仕草で相手を威圧する……そうやって自身に有利な状況を作っておき、それから喧嘩が始まるわけです。いや、喧嘩というよりは……ただの一方的な暴力ですね。

 もちろん、中には違う人もいるのかもしれませんが……。

 そういった人たちを見ているうちに、武勇伝を声高に語るような人を信用しない癖がついてしまいましたね。まあ結局、人は信じたいことを信じるものなのかもしれませんが。


 さて、古今東西の格闘技や武術の世界にも、様々な逸話の持ち主がいます。しかし以前にも書いた通り、その内容はといえば……ほとんどが眉唾物です。

 これは武術家ではありませんが、かつて日本で、二十トンの大岩を一人で担いで運んだなどという逸話の持ち主がいたとか……もはや漫画の世界ですね。さすがに、この逸話を信じろというのは無理があります。

 しかし、中には信じられないような逸話の持ち主であり……なおかつ、その逸話を信じさせてしまう人もいるのです。そんな超人の一人が、アレクサンドル・カレリンです。


 若い人の中には、カレリンを知らない人もいるかもしれないので一応説明しますと……レスリングのグレコローマン・スタイル百三十キロ級でオリンピック三連覇を果たした超人です。

 また、レスリングの国際大会で百十四連勝という記録も持っています。国内大会を合わせると、三百連勝を超える……とも言われています。

 このカレリンもまた、様々な逸話の持ち主であります。零下八度にもなるシベリアの地で生まれ、出生時の体重は七千五百グラムあったとか。

 そして十三歳の頃にレスリングを始め(レスリングのエリートとしては、決して早いとは言えないスタートです)、雪が三十センチ積もった冬のロシアの大地でランニングし(私がやったら、確実に遭難し凍死します)、三時間ぶっ続けでボートを漕ぎ続ける、などの化け物じみたトレーニングをこなしたそうです。

 さらに、百キロを超える冷蔵庫やタンスなどを一人で担ぎ上げ、八階まで階段で上がり部屋まで運び入れたとか。一説には八階ではなく十五階まで運んだとも言われています。その背筋力は四百キロを超えており、ゴリラ並みの怪力であったそうです。


 そんなカレリンが試合をすると……対戦相手の中には、カレリンに投げられた挙げ句にケガを負うのが嫌で、自らフォール負けを選ぶ者までいたとか。実際に昔の試合の映像を観てみると、凄いとしか言い様がありません。対戦相手が完全に力でねじ伏せられ、そして子供のように持ち上げられる(百三十キロの男です)様は、まさに超人です。

 こういった試合の映像や公式の記録などを見ると、その眉唾物な逸話もまた信憑性を帯びてきます。常人ならば凍死してしまうような条件下のランニング……でも、カレリンなら出来たかもしれない。百キロを超える冷蔵庫を一人で八階まで階段で運ぶ……カレリンなら出来るだろう、と思わせてくれます。実際の闘う姿を見ると、嘘のような逸話にも信憑性が生まれますね。

 そして……我々の常識では計り知れないような人間が、この世界には実在するのだなあ……ということを、カレリンの映像と記録そして伝えられる逸話は思い知らせてくれますね。以前にも書きましたが、個人的にはカレリンこそが最強の格闘家ではなかったか……と私は考えています。


 ここから先は完全に蛇足ですが、このカレリンの事を調べていた時、実にユニークな(と言っていいのかはわかりませんが)話を目にしました。カレリンの写真を見て「見かけ倒しの筋肉っぽい」と言った人がいたそうです。

 果たして、本当にそんな事を言った人がいたのか……真偽は不明です。仮に本当だとしても、その人はカレリンの事を知らなかったのでしょう。ただ、これだけの大記録を打ち立てた人間を「見かけ倒しの筋肉」の一言で切り捨ててしまう……無知というものは、本当に怖いものですね。

 それにしても、この「見かけ倒しの筋肉」という考え方は日本人に特有なのでしょうか。あるいは海外でも、このような考え方をする人は多いのでしょうか。

 いずれにしても、この考え方には根深いものがあるように思います。その根底にあるものは……筋肉隆々の人間は見かけ倒しであって欲しい、という一種の願望なのかもしれませんね。イソップ物語の一編『すっぱい葡萄』にも通じる部分があるのかもしれません。






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