こんな時代もありました
最近、歴史ジャンルの作品を書いている関係から江戸時代のことを色々と調べているのですが……昔の人々は今よりもずっと体力があったようですね。女性でも、六十キロある米俵を一つ担いで歩けたとか……これは凄いですね。
ただ、こういった労働は単純な力だけでこなせるものではありません。前回でも書きましたが、単純な力以外の要素が必要です。「慣れ」や「コツ」のような部分が重要でしょうね。さらに言うなら、あの時代はそれしか生きる手段がなかった訳ですから……労働に耐えきれず、死んでいった人もいたことでしょう。今の人間と比べるのは、若干の無理があるように思うのは私だけでしょうか……。
さて、昔の武士や武術家には、超人的なエピソードを持つ人も少なくありません。弓で船を沈めた、馬を担いで崖を降りた、大勢の敵兵を一瞬で斬り殺した、身長が三メートル近くあった、熊を素手で殴り殺した、などなど……調べてみると、実に様々な逸話がありますね。
念のため言っておくと、これらは全て何の証拠もない話ですので……昔の人が伝え聞いた話が、逸話として残されているだけです。私が疑り深い性格なだけなのかもしれませんが、正直に言えば信じられません、としか言いようがないですね。
しかし、それらが本当の話であろうとなかろうと、実際にあったこととして現代に伝えられているのは確かです。なので……例えばフィクションの創作物の中で、超人的な活躍をする主人公にリアリティーを与えるために「こういう逸話も伝えられている」のような形で登場させるのはよいのではないでしょうか。
ただ、こういった逸話を事実であるかのように言うのは、さすがにどうかと思います。ましてや「昔の武士はこんな超人的な人がいた。それに比べると現代の格闘家は……」などと言い出すのは、大きな間違いではないでしょうか。
これはほとんどのケースに当てはまることだと思うのですが……相手に話を面白く聞かせるため、実際に見たり聞いたりしたものよりも、多少は脚色したり誇張表現をしたりする……これは有り得る話です。
まして昔の話ともなると、伝言ゲームの要領で次々に変化していく可能性もあります。話に尾ひれが付くという言葉がありますが、昔の話には特にそのケースが多いのではないでしょうか。
ですから、昔の武士や武術家の様々な武勇伝を鵜呑みにするのは止めた方がいいでしょうね。
さて……昔(二十年ほど前でしょうか)、あちこちの格闘技雑誌などで取り上げられていた格闘技の流派がありました。創始者は、「かつては総理大臣のボディーガードを務めた父より、一子相伝の技を叩きこまれた」という触れ込みでした。しかも、その奥義はというと「鎧を着ている相手に対し、触れただけで肉体のみを破壊する」というものだそうです。
その奥義が実際に出来るかどうか、真偽の程は私には分かりませんが……当時は、かなり話題になっていた記憶がありますね。
また、空手を初めとする他の格闘技に対しても、やたらと攻撃的でした。空手の正拳突きは使えない、などと著書で書いていたように記憶しています。
先ほども書いた通り、当時はあちこちの格闘技雑誌で取り上げられていました。テレビ番組にも出演していたらしいです。最強の格闘技として、マスコミは創始者の人を持ち上げていました。
しかし、その後……UFC大会がアメリカで開かれ(今と違い当時はアメリカ版の天下一武道会のような雰囲気でした)、グレイシー柔術の選手が優勝したのです。
すると、マスコミはこぞってグレイシー柔術を取り上げるようになりました。それに従い、日本にも総合格闘技の波が押し寄せてきたのです。様々な流派やスタイルの格闘家が、グレイシー柔術を研究するようになりました。ただ、こうした流れを冷ややかな目で見ていた格闘家や武術家もまた、少なからず存在していたのも確かですが……。
そして前述の某流派も、その流れに乗り遅れまいとグレイシー柔術の研究をするようになったようです。そもそも、触れただけで相手を戦闘不能に出来る奥義があるのなら、柔術など研究する必要があるのだろうか……と私などは思うのですが。
それはともかく、某流派はグレイシー柔術を研究し、やがて他のとある格闘技団体と公の場で五対五の団体対抗戦を行いました。
結果はドローでしたが……その内容は、敗北といっていいようなものだったそうです。
そして今では、その某流派はマスコミに一切取り上げられていません。今はどのような活動をしているのかすら不明です。調べれば分かるのかもしれませんが、調べる気もないですし。
ただ一つ言えるのは、この某流派は全盛期には様々な雑誌で取り上げられ、創始者はテレビ番組にも出演していたのです。また、創始者の話を信じている人も少なからずいました(私もその一人でした)。生まれる時代さえ間違えなければ、この創始者は希代の武術家として名を成していたのかも知れませんね……その実力は別にして。




