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格闘技、始めませんか?  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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格闘技マンガの功罪

 人が初めて格闘技に触れる時……それには様々なケースがあるでしょう。家族の誰かがやっていた場合もあれば、テレビで試合を観た……というケースもあるでしょうね。

 幼い頃は、誰もがテレビの某バッタライダーや某ウルトラ男、あるいは戦隊ヒーローものなどの戦う姿を見て「ぼくも強くなりたい」「あたしも強くなりたい」などと思ったのではないでしょうか。しかし、残念ながらどんなに努力しても……某バッタのライダーのようにはなれません。しかし、格闘技マンガの主人公には近づける可能性があります。格闘技を始めたのは、マンガがきっかけ……そういう人は決して少なくはないでしょうね。さらに言うと、そういうマンガがアニメになった場合も考え合わせると……格闘技マンガこそ、格闘技人口の増大にもっとも貢献しているのかもしれませんね。


 さて、昔の格闘技マンガには……正直、リアリティーとは無縁の作品も少なくありませんでした。特に昭和の時代には、現実にはあり得ないようなトンデモ技で相手を倒していく……そんな作品も少なくありませんでした。当時は、そういった技を真剣に真似していた子供がいたそうです。

 もちろんマンガである以上、リアリティーよりも物語としての面白さを重視するのは当然です。マンガの目的は、読者を楽しませることなのですから。

 しかし、そういったマンガの世界に憧れて格闘技の世界に飛び込んでくる人の中には、マンガと現実とを混同しているのでは……とこちらに思わせるような人も少なくありません。現代であってもそうです。

 特に、主人公が最強の男を目指している……そういったストーリーの場合、現実の格闘技をかませ犬扱いするような展開があります。基本的には、ボクサーやレスラーがかませ犬扱いされるケースが多いようですね。主人公が「ボクサーはパンチしかないから弱い」などと言って蹴りで倒したり……。

 ただ、勘違いしていただきたくないのですが……基本的に、格闘技マンガを描かれている人の大半は格闘技経験のない人です。ネットや本などで得た知識だけを基にして、想像力で補正し描いている……そんな人もいるそうです。なので、くれぐれも現実と混同しないでください。

 これに関連して(前にも書きましたが)、道場やジムに見学に来ているのに、トレーナーや師範の前で「あれの方が凄い」「これの方が本物だ」などと言う人もいるそうです。まあ、この現象に関しては……その知識が正しいとか間違っている以前の問題ですね。人が真剣にやっていることを、本人の前で馬鹿にする……というのは人間として誉められた態度ではありません。やめるべきでしょう。さすがに、こんなことを言ったりやったりする人は……このエッセイを読んでくださっている方たちの中にはいないと思いますが。

 ただ格闘技マンガの中には、平気でそんなことを言う主人公もいたりします。まあ、マンガですので……ただ、個人的には他流派を叩き潰し「我が流派こそ最強!」と吠えるような主人公には……うーん、と首をひねりますね。

 世の中には、色んな格闘技理論があります。自分とは違う意見の存在を認めることも必要なはずです。それらを否定し、挙げ句に力で叩き潰すのは、ちょっと違うのではないかな、と。


 しかし、個人的にはもっと重要だ……と思う問題があります。秘密の特訓や伝統的な武術の昔ながらの鍛練方法を重視し、科学的なトレーニングを軽視する傾向が強いような気がしますね。

 言うまでもないことですが、スポーツの世界記録はどんどん伸びています。十年前と今とを比べれば、今の方が確実にレベルは高いはずです。そのレベルアップの要因の一つが、科学的トレーニングであることは間違いありません。

 にもかかわらず、それらを否定する……どうかと思いますね。もちろん、伝統的な鍛練方法にも意味はあると思います。だからといって、科学的トレーニングを完全に否定してしまうのは明らかに間違いです。

 にもかかわらず、何故か科学的トレーニングが嫌いなマンガ家さんや作家さんは少なくないようですね……これは、取材先にも問題があるのかもしれません。

 昔ながらの根性論で鍛え上げられてきた選手の中には、科学的トレーニングに対し否定的な意見を持つ人も少なくありません。そういった人たちに取材したならば、「俺たちの時代は倒れるまで練習した。今の連中は科学的とかいって、やわなトレーニングしかしない」などと言い、それを鵜呑みにしてマンガを描く……すると必然的に、科学的トレーニングの否定の描写に繋がるのではないかと。

 あるいは、マンガ家さん本人がそういう考えに凝り固まっているのでしょうか……いずれにしても、科学的トレーニングに対する偏見にも繋がりかねない描写はどうかと思います。


 いろいろ書きましたが、格闘技というものの知名度を上げるには、マンガの存在が重要であることには変わりありません。多少のリアリティーは犠牲にしても、面白い作品を創るためならば仕方ない部分はあります。ただ、皆さんにはあくまでも……リアルとフィクションは違うという点をきちんと踏まえた上で、格闘技マンガを読んでいただきたいものです。






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