勝負とは……
以前にも書きましたが、路上での喧嘩は卑怯な人間が勝ちます。大人数で少人数を襲ったり、不意討ちをしたり、武器を使ったり……そういえば、路上での喧嘩は体格差による階級分けがありませんね。私から見れば、百キロの人が五十キロの人と喧嘩をするというのは……それだけで卑怯であるような気がします。とにかく、路上での喧嘩は卑怯という概念すらないですね。
これは昔の話ですが、皆から恐れられていた不良の人が「俺は空手二段の奴をぶっ飛ばしたことがある。喧嘩なら、格闘技やってる奴なんかには負けない。要は気合いだよ」と武勇伝を語っていました。ところが、その話を詳しく聞いてみると……「後ろからいきなりバットでぶん殴り、倒れたところを蹴り入れてやった」とのことです。まあ、こういった人たちにとっては立派な勝ちなのでしょうね。
ちなみに、映画などで後頭部に一撃を喰らわせ気絶させたりしますが……実際にあんなことをすると、脳に深刻なダメージを受ける可能性があります。死に至る危険性すらある、恐ろしい攻撃です。後ろからの不意討ちは、例え冗談であってもやめた方がいいでしょう。
しかし、格闘技の試合において……卑怯、とまではいかなくても相手の嫌がる攻撃をするのは当たり前です。相手がどこかを痛めたのを察知したら、集中してその部分を狙う。あるいはルールにぎりぎりで抵触しない反則をやる……これらは、格闘技の試合では当たり前のように行われています。
そして中には、かなりえげつない戦法を使う人もいるとか……実際、ボクシングの試合でタイ人と闘った選手が「レフェリーの死角を突いて、肘をガンガン当ててくるから本当に怖い」と言っていました。タイ人のボクサーは、以前にムエタイをやっていたケースがほとんどでして……そのムエタイで学んだ肘打ちを、ボクシングでも使う選手がいるらしいです。ただ、全てのタイ人がそうだ、というわけではありませんので誤解しないでください。
しかし、もっととんでもないケースもあるとか……以前、ある日本人ボクサー(現在は引退されている偉大な名選手です)は世界チャンピオンだった時、とある国の選手と防衛戦をやることが決まりました。ところが……その選手の所属ジムに突然、注文していない出前が連日のように届いたそうです。さらにはイタズラ電話のようなセコいものから、ボヤ騒ぎのようなものまであったとか。こんなことがあると、選手の精神面にはかなりの悪影響が出ますね。単なる偶然なのか、意図的なものなのかは不明ですが……もしこれが対戦者を勝たせるために行われた妨害工作だとしたら、ちょっと悪質だな……という気はします。
肘打ちやジムへの嫌がらせは、はっきり言って論外です。しかしプロの世界では、勝つために何でもする……という姿勢は、必要なものだと私は思います。正面からだけ攻めるのではなく、狡い手や相手の嫌がる手を使う……これは勝負である以上、当然のことでしょう。まあ、そこには限度がありますが。
しかし、普段の練習において狡い手を使うのはどうかと思います。少なくとも、スパーリングで勝つために狡い手を使うのはいかがなものかと。普段の練習では、出来るだけ基礎体力や技術といった地力の部分を伸ばす練習をすべきでしょうね。
初めから勝つためのテクニックに走ると、絶対に強くなれない……とある空手家が言っていました。私もその通りだと思います。反則や狡い手というのは、勝つためのテクニックですが……それはやはり、地道な練習で磨いてきた実力があって、初めて活かせるものです。大した実力もないうちから、勝つためのテクニックばかりを学んでいったら……それは一見、合理的なように見えます。しかしそれは、最終的には自分の伸びを殺すことになるのではないでしょうか……少なくとも、私はそう思います。これはもしかしたら、創作にも言えることかもしれませんね。
ここからは余談に近いものですが……『ミリオンダラー・ベイビー』という映画があります。女子ボクサーの姿を描いた作品であり、アカデミー賞の作品賞を受賞しています。私はこの映画の評価やトータルの出来栄えについては、どうこう言うつもりはありませんが……この映画における女子ボクシングの世界タイトルマッチの描写はあまりにも酷いと感じました。単なるラフファイトを超えた反則……いや反則を超えた、ただの喧嘩でしかありません。詳しい説明は映画のネタバレにも繋がるので避けますが……ご覧になった方なら、同意していただけるのではないでしょうか。
なぜ、監督のクリント・イーストウッドがこのようなシーンを撮ったのかは不明です。映画監督としての緻密な計算に基づくものだったのかもしれません。しかし、女子ボクシングに対する偏見にも繋がりかねないのではないか、と私は思います。さらに言うなら、プロの選手が試合中に使う反則スレスレの行為は、あくまでも勝つためのものです。感情的になって相手を痛めつけるための行為とは根本的に違うものですので、そこだけは誤解しないでください。




