呼吸と声について
暑い日が続いてますね……こういった時期には、動くのが億劫です。というわけで今回は動きについてではなく、呼吸と声について書かせていただきます……いささか強引な出だしですみません。ところで「呼吸と声? 格闘技と何の関係があるんだ?」と思われたかもしれませんが……実は大いに関係があるのです。
ただ、この分野は突き詰めて考えるとかなり奥が深いようでして……本来なら、私などに語れるようなものではないのです。したがって、ほんの触りの部分だけをお伝えするという形で……。
トレーニングジムでウエイトトレーニングをやっていると、たまに声を出しながらトレーニングしている人がいます。私もマシンでのスクワットをやっている時など、思わず声が出てしまう時がありますね。しかし、「思わず出る」くらいならまだ甘いのです。
知り合いから聞いた話ですが、昔、日本の有名なジムに、来日していたスコット・ノートンというプロレスラー(当時は腕まわりが六十センチ以上あったそうです)がトレーニングをしに来たそうですが……トレーニングの内容もさることながら、トレーニングの際の「声」に周囲の人は圧倒されたと語っていました。獣の雄叫びのような声を上げながら、トレーニングしていたとか……しかも、その声に刺激された周りの人たちが、負けじと声を出しながらトレーニングをし始め、その日のジムはさながら野生動物の集まるジャングルのようだったとか。ゴリラのような筋肉男たちが集まり、ウォーウォー吠えながらトレーニングをしているジム……一般の人が見たら、間違いなく引いてしまう光景ですよね。
ただ、一つ言わせていただくと……声を出しながらトレーニングをすることで、筋肉はより強い力を発揮できます。スコット・ノートンのようなレベルの人だと、それに見あったレベルのトレーニングが必要になります。筋肉に出来るだけ強い力を発揮させ、限界まで追い込む……なので、獣の雄叫びのような声を出しながらのトレーニングをしていたわけですね。
もっとも、一般のトレーニングジムで吠えながらトレーニングをしていたら……たぶん出入り禁止になると思います。なので、大声を出すのは止めておいた方がいいでしょう。その代わり、バーベルやダンベルを挙げる瞬間に息を吐く……インストラクターの方に既に教わっているかもしれませんが、それだけでも発揮できる力は違ってきます。
格闘技においても、それは同じです。パンチを打つ瞬間、キックを放つ瞬間に声を出すことで威力は違ってきます。ボクサーがパンチを打つ時「シュッ、シュッ」と独特の声を出していますが、あれもまた強いパンチを打つためです……他の理由もあるのかもしれませんが。
また、大声を出すことにより、自身の肉体を興奮状態にすることが出来ます。試合前、大声を出して自らに気合いを入れ、興奮状態にしている選手はよくいますね。人間の体というのは面白いもので……意図的に騙すことが可能です。大声を出すことにより体を興奮状態にしたり、逆に笑顔を作ることで怒りや悲しみを抑えたりできます。チンピラは喧嘩の際、やたらと大声を出しますが……これもまた、自らを興奮状態に追い込み、同時に相手を威圧しようという二重の理由があるわけですね。これは蛇足ですが。
ただ注意していただきたいのは……逆の場合もあるということです。冷静さが要求されるような話し合いの場で大声のやり取りをしてしまい、結果として興奮状態に陥ってしまうケースもあります。そこから、さらに殴り合いに発展してしまうことも……自分の声がきっかけで興奮してしまうというケースには気を付けてください。
腹を殴られた時は、腹筋に力を込めて耐えます。しかし、息を吸い込んでいる瞬間に腹を殴られると……息が詰まるような衝撃を感じます。まして、息を吸い込んでいる瞬間にみぞおちにボディーブローや三日月蹴り(爪先を相手の肝臓やみぞおちに突き刺すように蹴る技です)がクリーンヒットしたりしたら……意思とは無関係に悶絶してしまうくらいの衝撃ですね。
逆に息を吐いている時、人間の体は打たれ強くなります。したがって、攻撃防御ともに息を吐いている時の方が強いわけですね。ただ人間、ずっと息を吐きっぱなしでいたら倒れてしまいます。特に試合の最中などは……緊張のあまり、息を吸うことを忘れていることがありますね。意識して呼吸をすることも必要です。ただし、息を吸うタイミングには気を付けなくてはなりませんが。
ボクサーがパンチを打つ際の「シュッシュッ」という声。空手家が瓦や板などを試し割りする際に発する気合い。あるいは試合前の格闘家の咆哮……これらには全て意味があります。皆さんも大事なイベントを控え、緊張してしまった時など……大声で気合いを入れ、意図的に自らを興奮状態にするのもいいかもしれません。そこまでいかなくとも、深呼吸をするだけでもずいぶん違ってきます。格闘技とは関わりのない生活をしている方にも、参考に出来る部分はあるのではないでしょうか。




