激励の言葉
以前、とある高視聴率のドラマの再放送を観ていました。私はこのドラマには何の興味もなく、また主演の俳優たちにも何の興味もないため、ただ映像と音声を流し見しながら雑事をしているような状態だったのですが……こんなセリフが聞こえてきたのです。
「敗北から得られるものなど、何もない。勝者は全てを得て、敗者は何もかも失う。敗者は誰も称えてくれない……」
詳しくは覚えていませんが、大体こんな内容の言葉だったと記憶しています。あたかもカ○ジの利根川氏のような感じで、延々と勝者は偉い敗者はゴミだ式の言葉を並べ立てていました……人格改造セミナーか何かのシーンなのか? などと思いよくよく見てみれば、どうやら試合に臨むスポーツ選手たちに向け、コーチが激を飛ばすシーンのようでした。
このドラマは高視聴率だったそうですし、ドラマの出来そのものを叩くつもりはありませんが……正直、試合前にこんな言葉は聞きたくないですね。はっきり言って、陰鬱な気分になるような気がします。試合前には、もう少し単純明快かつ熱い言葉の方がありがたいですね。そんなわけで今回は、格闘技の試合前そして試合中の激励の言葉について語ります。これ、選手としては非常に重要な要素なんですよね。
超どマイナーな格闘技映画『バトル・ファイター』(誰も観たことないでしょうね……)では、コーチの男がこんなセリフで、試合前の主人公に激を飛ばしてました。
「お前は必要なことを全てやった。何の心配もいらねえ。いいか、動き続けるんだ。あいつは図体はでかい……だがアホだ。でかいがアホだ。動きまくってかき回せ。さあ、パーティータイムだぞ! 行ってぶちのめしてこい!」
こういう、単純かつ熱い言葉の方がエンジンがかかる気がしますね。
ちなみにこのコーチ、他のシーンではこんな激を飛ばしています。
「おい、俺を見ろ。俺の顔を見るんだ……大丈夫か? 大丈夫だな。よし、今の調子だ。奴は拳を痛めた……チャンスだぞ。正面に立つな。横に回り込め。そしてパンチだ。奴がガードしたら拳をぶん殴れ。痛めた拳にパンチを叩き込むんだ! いいな拳だぞ! さあパーティータイムだ! 行ってぶちのめして来い!」
客観的に見れば、ちょっと引いてしまうような言葉ですね。しかし、闘う前もしくは闘っている最中には……こういう単純にして熱く、また的確な言葉をかけられたら、非常にありがたいです。戦術的アドバイスであり、なおかつ精神を奮い立たせ励ましてくれる……こうした言葉を言ってくれるセコンドの存在は、本当に頼もしいものですね。
逆に、某ドラマのシーンのように理詰めで、かつマイナスの言葉を並べ立てられると……はっきり言って、闘う前から闘志が萎えてしまいます。少なくとも、その可能性が高いです。また、敗北に対する恐怖を植えつけられてしまう可能性もあります。勝負の際の心構えとして普段から言っておくならともかく、勝負の直前にこういった「敗北」とか「敗者」といった言葉を連呼するのは……私はどうかと思いますね。もっとも、私は心理学を学んだ訳でもないので、断言は出来ませんが……。ひょっとしたら、そういった言葉の方が効果がある人もいるのかもしれませんが。
格闘技の試合前というのは、独特の緊張感があります。その緊張を和らげるのもセコンドの役目です。また、試合中にも激を飛ばします。アドバイスであったり喝を入れたり……しかし、ここで注意しなくてはならないことが一つ。相手もそれを聞いているということです。
私の経験ですが……試合中、相手側のセコンドからの「おら! 行け! 相手(※注 私のことです)は疲れてんだろうが!」という言葉が耳に入りました。その途端「勝手に決めんな! まだ疲れてねえよ!」という気持ちが私の中に湧き上がってきまして……次の瞬間、私は猛然と攻めまくりました。結果、ポイントを取り判定勝ちできたのです。これは、セコンドの言葉が対戦相手に有利に働いてしまった例ですね。相手にも聞こえてしまう、という点は忘れてはいけません。
最後になりますが……試合前の激励は、単純で力強くプラスの意味を持つ言葉が望ましいのではないかと私は思います。なまじ、敗北の惨めさを理詰めで淡々と語られたりしたら……どんよりとした気分になりますし。
実際、格闘家の中には、試合前はネガティブな発言の多い友人や知り合いを遠ざける人もいるそうです。ネガティブな発言の持つ影響というのは、決して小さなものではありません。ましてや、試合前というのは非常にデリケートな時期ですので……そんな時に「敗者は〜」などと言われたら、言われなくとも分かってるわ! と言いたくなりますね。
私はそういった分野の専門家ではありませんが……やはり、大事な勝負の前の日には、ネガティブな人はいて欲しくありません。なので、みなさんの周囲にそういった勝負を控えた人がいたならば、ネガティブな発言だけは避けた方が無難でしょうね。




