見てるだけ、では勿体ないです
気がつくと、この連載を始めてから一年以上が過ぎ、百話を超えました。果たして、このエッセイを読んで格闘技を始められた人が一人でもいるのでしょうか……多分いないのでしょうね、と苦笑混じりの言葉で今回は始まります(リアルとフィクションの違いを伝えるという目的も、このエッセイにはありますが)。
しかし……実際の話、格闘技をやっていて執筆に役立つのですか? と尋ねられましたら、私は「たぶん、役立つのではないかと思います」という曖昧な答え方しか出来ないですね。いや、役には立ちますが……そこにはデメリットもあります。特に、なろうの場合には。
たまにですが、なろうの作品を読んでいると「おいおい、何だこれ有り得ないだろ……」と思うような戦闘シーンを見ることがあります。具体的な記述は避けますが……とにかく、動きの流れが明らかに不自然というか、何でそーなるの!? と作者さんに聞きたくなるような戦闘シーンのある作品が、少なからず見受けられるのは確かです。
事実、私はなろうにユーザー登録した直後……いろんな作品の感想欄に「この戦闘シーンはおかしいですね」「この技は貴方の作品に描かれているような使い方は出来ませんよ」などと書き送っていました。今から考えると、傍迷惑な読者だったと思います……当時、私からそのような感想が送られてきた皆様、本当に申し訳ありませんでした。この場を借りてお詫びします。
ところで、話は少しズレますが……あるユーザーさんは、こんな意味のことを書いていました。
〜VRMMOというジャンルになろうの読者の多くが詳しすぎるために、「いやこの前提条件だったらこういう風になるのはおかしいだろう」と、読者が思ってしまった。(略)例えば実際に格闘技をやっている人に、格闘技素人が書いた格闘シーンを見せたら「いやこれはおかしい」「ここは不自然だ」とフルボッコになることが目に見えるのと同じことかと思います〜
このユーザーさんがどのような状況であったかと言いますと、VRMMO作品を書かれていたのですが……「ここがおかしい」「あそこが変だ」という感想が来たらしいのです。人間、自分の詳しい分野に関しては……どうしても黙っていられない習性があるのかもしれませんね。
それはさておき、そういった有り得ない戦闘シーンを書いている作品が人気が無いか、というとそんな事はありません。むしろ、超人気作品だったりします。まあ、超人気作品となるには様々な理由がありますが……少なくとも、現実には有り得ないはずの戦闘シーンは、作品の人気において大した痛手とならないのは確かですね。
まあ、はっきり言ってしまえば、なろうの読者の大半は格闘技経験の無い人でしょうからね……非現実的な戦闘シーンなどは気にならないのでしょう。というか、そもそも非現実的であることにすら気づいていないのかもしれませんが。実際、「体術習えば体重が倍以上ある相手でもぶっ飛ばせますよ」というメッセージが来るくらいですので……。
とにかく、リアルな格闘シーンなどというものが、なろうで求められていないのは確かです。では、格闘技をやって執筆にどんなプラスがあるのかといいますと……以前にも書きましたが、やはり気分転換の効果が大きいですね。格闘技をやって汗を流す……この行為には独特の効果があるように思います。多少、感想欄などで叩かれたとしても……格闘技のトレーニングで汗を流せば、精神的ダメージはだいぶ和らぐのではないでしょうか。
さらに、リアルな格闘シーンを描ける力は……なろうでは需要がないかもしれません。いや、ラノベという業界でも需要がないかもしれません。しかし……他の新人賞に応募するのでしたら、格闘技経験に裏打ちされたリアルな描写、というものは一つの武器になるのではないでしょうか。他の人との、明確な差別化が出来るのではないかと思います。まあ、私のような者がこんなことを描いても、説得力は無いですが……一つの参考までに。
格闘技は、見るだけでなく自分でやることも出来ます。他人の闘う姿を見てあーだこーだ言うよりも、自分で闘う方がよほど気分はいいです。自分でも格闘技を始めてみれば、本物のファイターたちに触れる機会があります。命を失う危険性すらあるリングや金網の中に自ら入って行くような人たちに……そういった人たちとの触れ合いは、創作のみならず人生全般においてプラスになることと思います。
大事なことなので、もう一度言います。格闘技は見るだけのものではありません。もし興味があるのなら、ご自身でもやってみてはいかがでしょう。試合を遠くから観て、あれは面白い、これはつまらないだの下らないだのと言うだけでしたら誰にでも言えます。特に、これを読んでくださっている若い人たちには……口だけでなく、実際に闘う立場の人でいて欲しいのです! 一度しかない人生、熱く生きましょう! などと松○修造のように暑苦しい言葉で、今回は締めさせていただきます……。




