【番外編】ランチタイムの攻防戦
「はぁ…いい加減慣れたら?」
「誰が慣れるか馬鹿っ!!こ、こんな公衆の面前でっ…」
フォークを手にしてキラキラの王子様顔を保ったまま、器用に瞳にだけ侮蔑を込めたレイン。そんな彼に対し、周りの目を気にしたアイナが声を抑えてキレ散らかしている。
公爵から力づくで結婚の許しを得てからというもの、レインの身体的接触は時と場所を選ぶことなく苛烈さを増していたのだ。
そんな二人は今、ランチのデザートを巡って攻防戦を繰り広げていたのだった。
「遠慮しないで?ほら、あ〜ん」
デザートのケーキをフォークで刺し、人目を気にせず甘ったるい声で差し出してくるレイン。その瞳は愛する人に向ける愛しさで溢れており、それを目にした周囲から黄色い悲鳴が上がった。
「は、恥ずかしいですわ…その、他の方も大勢いらっしゃいますし…」
アイナは大袈裟に恥ずかしがる素振りをした。彼女の反応を見た周囲から今度は落胆の声が聞こえてくる。
ー いや、見せ物じゃないからっ!!
彼らのやり取りを観劇のように楽しむ他の生徒たちに、アイナが心の中で悪態を吐いた。
「アイナ…ごめん」
「え゛」
目の前からしゅんとしたしおらしい声が聞こえて、アイナが驚愕の声を発した。
は…何謝ってんの?あのレインが?私に謝る…?いやいやいやいや、それはない!こんなの絶対嘘に決まってるわ。他の企があるはず…
こんな演技に私は騙されないんだからっ
これまでなら焦って自分も謝り返していたアイナだったが、(回避出来るかどうかは別として)彼の手の内もだいぶ読めるようになってきた。
彼の言葉に動揺することなく、キリッとした瞳で見返した。その瞬間、フッとレインの唇が綺麗な弧を描いた。
ー これはなんだか非常にマズイ気が…………
「いつも二人きりの時にしてるからついクセで…いやでもこのくらい良いかなって思ってる自分もいたんだよね。ほらさすがにいつもみたいに口移しで飲ませーー」
「「「「きゃああああああああああっ」」」」
「ちょっと待てえええええっ」
爽やかな表情のまま事実無根のことを言い出すレインに、アイナが素でツッコミを叩き込んだ。だがそれは聞き耳を立てていた他の女子生徒たちの悲鳴によって掻き消されてしまった。
「アイナは恥ずかしがり屋さんだけど、二人きりの時は結構大胆だもんね?たくさん甘えてくれるし。ほんと可愛い。」
「ちょっとおおおおおおっ!!」
アイナは顔を赤くして激しく動揺しているが、感情の読めない微笑を浮かべたレインの口撃は止まらない。
「それに、何度も一緒に寝てるのに未だに恥ずかしがるところとかーー」
「あ、あのっ!!」
込み上げる羞恥心で堪らずストップの声を上げたアイナ。羞恥心とプライドを床になぐり捨て、胸の前で手を組みレインのことを見つめた。
「その…宜しければ食べさせて頂きたいですわ。」
目を伏せて恥ずかしそうに微笑んだ。
ー ああもう!!!!変に抵抗した私が悪うございましたっ!!大人しく食べるから妄言を吐くのは今すぐやめてええええ
「全く…君はおねだり上手で困るよ。僕はいつだって君の言われるがままだ。本望だけどね。」
「…………っ」
「「「「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ」」」」
ああああああっ!だからなんでそういうことを言うのーー!!せっかくの美味しいデザートの味がしないわーー!!
アイナがパクっと口に含んだ瞬間、先ほどまでは比べものにらないほどの悲鳴が上がった。こうなるともう大歓声だ。中にはテンションが上がって指笛を吹く者までいた。
「アイナ」
レインに素の声で呼ばれたアイナが肩をびくつかせて横を向くと、いつの間にか彼は体温を感じるほど近くにいた。
彼女の耳に唇を寄せ、普段よりも低い声でやけに色っぽく囁く。
「言質は取ったからな。人目が無ければお前に何しても良いんだろ?」
「え…何を言って………いや、ちょっとそれは….」
「は?お前またヤラシイことを想像しただろ?」
「なっ……………………」
な、なんてことをーーー!!!そんなことは何も思ってなーーい!いや、少しくらいは想像したけど…でもやらしいのはいつだってレインの思考回路の方だよ!!この馬鹿馬鹿っーー!!
レインに抱き寄せられたまま、彼の胸に顔を埋めて耳まで真っ赤にして悶えるアイナ。
そんな様子を見ていた周囲には、間違いなくレインに愛の言葉を囁かれたせいで赤くなっているのだと思われていた。
牽制を狙った彼の思惑通り、このカップルの好感度がまた上がったのだった。
お読みいただきありがとうございました!
やっぱり相変わらずの二人でした笑




