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学園デビューしたいのに、ツンデレ男が邪魔してくる  作者: いか人参


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親子喧嘩の結末


実の息子にこの場の主導権を握られ、アルフォード公爵のプライドは沙汰沙汰であった。

自分のことを試すように余裕の笑みを向けてくるレインのことが憎くて仕方がない。



こんな女に出会わなければ

こんな女に絆されなければ

こんな女なんていなければ


こんな女さえ…


アルフォード公爵の中で急激に増幅する憎悪の塊はアイナに矛先を変える。


目が血走り歯を剥き出しにし、爪で傷がつくほど拳を強く握りしめ、怒りに身を任せて理性を失った公爵は両の掌にありったけの魔力を込め幾えもの魔法陣を同時展開した。


禍々しいオーラを放つ幾重もの魔法陣はアイナの頭上を広く覆うように位置しており、公爵の膨大な量の魔力によって視界を奪うほどの強い光を放つ。



「お前さえいなければっ!!!」


金切り声を上げた公爵は、高く掲げていた手を振り下ろし魔法を発動させた。



「きゃあああっ!!」


防ぎようのない広範囲の攻撃魔法に、アイナは悲鳴を上げて両耳を塞ぎキツく両目を閉じた。

防御魔法を展開する余裕はなく、自身に焦点を定めた精度の高い魔法から逃れられるわけもなく、受け身を取ることで精一杯だ。




「何か勘違いをしていませんか?」


レインは悲鳴を上げるアイナの耳と目を塞ぐように胸に抱き寄せると、片手を翳して同系統同威力の攻撃魔法を放った。

精緻な計算の元発動したその魔法は、公爵からの攻撃に真正面からぶつかりものの見事にその威力を相殺する。


消滅する瞬間、耳を劈くような轟音が鳴り響き目を焼くほどの閃光が走った。



アイナを腕に抱えたレインは、自分たちを包み込むように防御魔法を展開しており、その影響は皆無だ。


刹那遅れて防御魔法を展開した公爵は僅かにだが轟音と閃光を浴びており、その衝撃で足元がおぼつかない。

すぐ近くにあったデスクに手を置いて身体を支え、もう片方の手では一時的に視力を失った目元を覆っている。口元は苦痛に歪んでいた。



「私は元より、アイナと出会っていなければ誰とも子を作る気はありませんでした。だから、私が彼女に出会えたことは貴方にとっても良いことでしょう?こんな自分でも血筋を残したいと、彼女のおかげでそう思えたのですから。」


極めて冷静な口調で話すレイン。


未だ耳を押さえられているアイナには聞こえていないが、聴覚を取り戻した公爵にはしっかりと届いていた。

悔しさを滲ませた瞳でなおもレインのことを嫌悪する目で睨みつけてくる。



「魔力の薄まった血筋を残したところで何の意味もない!そんなダークスの女との子が出来たとて、公爵家を継ぐに値するものかっ!!!」


公爵は支えに使っていたデスクを怒りのまま素手で殴りつけた。

魔力を纏わずに硬質な素材にぶつけた手はひどく傷付いておりポタポタと指先を伝って床に血が落ちていく。


醜い感情を露わにする実の父親に、レインは憂いを帯びた視線を向けた。



「ご安心ください。アイナならきっと僕によく似た白髪の子を産んでくれますよ。1人とは言わず、2人でも3人でも。ねぇ、アイナ?」


彼女の名を呼ぶ直前、レインはアイナの両耳から手を外した。

突然名を呼ばれたアイナは状況が分からず、周囲を見渡しながら目を瞬かせる。



「えっと、今は一体どういう状況で…」


目の前の公爵はなぜか手から血を流しており、レインは無傷で美しく微笑んでいる。

どちらが優勢かは言わずもがなであったが、それが双方納得した結果なのか力づくで得たことなのか分からず、アイナは戸惑っていた。



「アイナは僕の子を産んでくれるよね?」


「はい…?」


「僕に良く似た男の子と君に良く似た女の子と、二人の特徴を持った双子なんてのもいいよね。三人と言わずに、4人でも5人でも。」


「え」


「数人産むとなると大変だから、なるべく若いうちに一人目を産みたいよね。出来れば在学中にひとり…うん、そうなったら早めに子作りを始めないと。ね?」


「はぁ!!?」


『将来子どもは何人欲しい?』みたいな、カップルに良くあるたわいも無い話かと思いきや、『在学中に子作り』というパワーワードが出てきて、アイナは目玉をひん剥いた。


今置かれている状況も目の前に公爵がいることもすっかり頭から抜け落ち、ついいつもの調子で聞き返してしまった。


恐怖の色が消えたアイナを見たレインは、目を細めて彼女の頭を優しく撫でる。



『へ ん じ』


そしてにっこりと微笑んだまま、口の動きだけでアイナに伝えてきた。


子どもを産むことに対する返事なのか、たくさん子を儲けることに対する返事なのか、それとも在学中の子作りに対する返事なのか、彼の真意が分からない。

そのいずれにしても、肯定するのは死ぬほど恥ずかしいことに変わりない。


アイナの頬は羞恥心に赤く染まる。


だが、いつもより熱のこもったダイヤモンドの瞳に見つめられ、優しく髪を撫でられ、アイナの思考は徐々に鈍化していく。その代わりに、レインから受けた刷り込みで頭の中を埋め尽くされる。


『レインの言うことは絶対』


頭に浮かぶのはそれだけであった。

彼女に選択権はない。



「うん、私もそう思う。」


気付いた時にはそう口走っていた。

レインはひどく満足そうな顔で笑みを深めると、蚊帳の外にしていた公爵の方を向く。



「そういうことなので、もう私たちの邪魔をしないでください。それと、アイナの退学の取り消しも宜しくお願いしますね。もしまた邪魔をするようなことがあれば…」


言葉を止めたレインは、光の速さで放った風魔法で公爵の目のすぐ横を切り付けた。数本のアッシュグレーの髪が宙に舞う。

飛んでいく自身の髪を見て初めて、魔法を使われていたことに気付いた。公爵の顔からは血の気が引いていく。


デスクを掴んでいる手に力が入らず、膝から崩れ落ちた。



「分かって頂けて何よりです。私も人殺しにはなりたくないですから。」


レインはテーブルを回り込んで床に膝と手をつく公爵のことを見下ろしながら、冷淡な口調で話し掛けた。



「家の仕事はこれまで通りこなしますし、公爵家の繁栄にも手を抜きませんのでご安心を。ですから、貴方もこれまで通り私に対して無関心を貫いて下さい。」


言いたいことだけ言うと、公爵の反応を待たずに踵を返す。ソファーの前で固まっているアイナの元へと向かった。

そして彼女の手を取ると、公爵のことを振り返りもせずに部屋から出ていく。


そんな彼の無礼な態度にも、公爵はもう何も言っては来なかった。


二人がいなくなり静まり返った部屋にひとり残された公爵は、しばらくの間放心状態でその場を動けずにいた。




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