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学園デビューしたいのに、ツンデレ男が邪魔してくる  作者: いか人参


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苛烈な親子喧嘩


王宮内に入ってすぐの場所に位置している貴人用の部屋に通されたレインとアイナの二人。

向かい合ったソファーの片方に二人並んで腰掛けている。

使用人の一人がお茶を出した後、恭しく一礼をして部屋から出て行った。



国宝級の調度品の数々に囲まれ、ドレスの生地に使われそうなシルク地のソファーに座り、目の前には本物の金で縁取られた華奢な持ち手のティーカップが置かれ、アイナは落ち着かなくなっていた。


このカップ一つで自分の邸と同じくらいの価値があるんじゃないか、爪で引っ掻きでもすればその責を一生負わなければならなくなるんじゃないか等と余計なことが頭をよぎり手を伸ばせずにいる。動けないまま、スカートの上で両手を握りしめ縮こまっていた。


そんな彼女を尻目に、レインは堂々と長い足を組み、美しい所作で躊躇うことなくティーカップに口を付ける。そしてしかめ面をした。



「下に雑味が残るな。」


「こらっ!!」


とんでもなく失礼なことを言ってくるレインに全力で突っ込むアイナ。

こんな失礼極まりない発言、誰かに聞かれでもすれば厳罰に処されるに違いないと気が気でなかった。



アイナが1人そわそわしていると、ドアの外側に人が持つ魔力の気配がした。

その魔力の気配は機嫌の悪い時のレインと良く似ており、部屋の中にまで高圧的で冷え切った魔力が入り込んでくる。


気配を追っていた2人は同時にソファーから立ち上がり、ノックもなく入室してくる相手に身体を向けた。


無言のまま部屋に入ってきたその人物は、レインに良く似た瞳をしており、肌は陶器のように白くアッシュグレーの長い髪は一つに束ねている。一切感情を出していないその整った顔は人間離れしており、造作物のようであった。


男は、ドカッと粗雑な音を立ててソファーに座ると意図的に殺伐とした雰囲気を放ち、刃物で斬りつけるような鋭い視線を向けてきた。



「何の用だ。」


吐き捨てられた短い言葉には魔力を含んだ殺気が込められており、それを真正面から受けたアイナは全身震え上がった。

彼女の背中を支える温かい手が無ければ、プレッシャーに負けその場にひれ伏していたに違いない。

レインとは比べ物にならないほどの圧倒的で横柄な態度であった。



「私とアイナ、二人の結婚のご挨拶に参りました。」


そんな尋常ではない威圧をものともせず、少年のような無垢の笑顔で答えるレイン。その表情は幸福に満たされており、胸に手を当て美しい姿勢で一礼をした。



「お前にはカターシス公爵家との婚姻を命じたはずだ。これ以上手間取らせるなら、そこにいる女を始末するぞ。目障りだ。」


「…っ」


冷え切った空気を纏うアルファード公爵からアイナ目掛けて超高速の魔力が飛んできた。アイナは、魔法陣もなく展開されたその魔法の発動を感知することに一瞬遅れを取った。

すかさずレインがアイナの腕を引き、守護するように自身の背中へと隠す。


実害が無いにもかかわらず、明確な殺意を向けられた恐怖は凄まじく、アイナはもう立っていることすら限界であった。


目の前の恐怖に震え、平常心を取り戻そうと必死に両腕を摩るが気が動転した彼女の瞳は激しく左右に揺れている。

カチカチと震えて音を鳴らする奥歯を止めることすら出来ずにいた。



そんな状況に置いてもレインは微塵も動揺することなく、熱のない冷静な瞳でアルフォード公爵を見据える。



「何か勘違いをしていませんか?」


レインは笑い出したいのを隠すことなく、唇で弧を描きがら小馬鹿にするような口ぶりで言ってきた。



「何だと?」


馬鹿にしたレインの態度に、険しい顔をしていた公爵のこめかみに青筋が浮き出てくる。

怒気と共に漏れ出た魔力がバチバチと音を鳴らして窓枠とカーテンを揺らす。


一瞬でも気を抜いたら吹き飛ばされてしまいそうなほどの圧が一直線にレインの元へと飛んでくる。

だが彼はそれを涼しい顔で受け流し、美しい白髪を靡かせていた。



「私はカターシス公爵令嬢と婚姻したとしても、子は作りませんよ。」


「お前は何を勝手なことばかり…そんなことが許されるとでも思っているのか!」


余裕の表情で優雅に微笑むレインとは対照的に、公爵は怒りを露わにし語気を強めてきた。



「許す?一体誰の許しが必要ですって?」


その瞬間、横一列に並ぶ窓が乾いた破裂音と共に一斉に割れ、粉々になったガラスの破片が床一面に散らばった。

その破片のうちの一つがレインの風魔法で吹き飛ばされ公爵の頬を掠める。青白い頬に赤い一筋の線が走った。


忌々しげに傷を手で拭うと、公爵はレインのことを睨み付けてきた。



だが、レインは血管が切れそうなほどブチギレている公爵のことを無視して背中に隠したアイナのことを振り返った。


穏やかで蕩けるような笑みを向け、恐怖に固まっているアイナの頭を優しく撫でる。

そして、今にも即死性の高い攻撃魔法を展開してきそうな公爵に向き直った。



「私が肉欲を抱くのは、アイナだけです。」


凍てつくような瞳を公爵に向け、この世の理とばかりにはっきりと言い切ったレイン。



「にっ」


レインの背中に隠れているはずのアイナの口から一音が漏れた。

この状況で彼の言葉に反応すべきではないと頭で分かっているのに精神力が伴わず、必死に押さえ込んだ結果の漏れ出た一音だ。



「お前っ……」


公爵は陶器のように白かった肌を真っ赤に染め、怒りに声を震わせている。


彼にとって自分よりも優れた魔法使いであるレインの血は喉から手が出るほど欲しいものであり、アルフォード公爵家としての地位を存続させるためにも必要不可欠なものであった。


だからこそ、同世代の異性として最も魔力量の多いジュリアンヌと引き合わせようとしていたのに、それを分かった上で盾として掲げてくるレインに言葉が続かない。


そんな公爵の心境が手に取るように分かるレインは、余裕のある表情を浮かべている。




「私が女だったら無理やり手篭めに…ということもありますが、残念ながら私は男ですからね。無理強いは難しいでしょう。」


挑発するように公爵に向けて勝ち気に微笑みかけると、口の両端を上げて歪んだ顔を見せた。



「アルフォード公爵家の血筋をここで絶やすか存続させるか、全ては貴方次第ですよ。ねぇ、父上?」


悪魔のように微笑むレインの前ではもう、威圧も脅しも虚勢も何もかもが無意味であった。




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