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学園デビューしたいのに、ツンデレ男が邪魔してくる  作者: いか人参


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起死回生の一手


表情をなくし硬直するアイナのすぐ横で、レインは顔色ひとつ変えず冷静であった。



こうなることを完全に予想していたわけではなかったが、可能性の一つとして考えてはいた。


レインの名で公爵宛に手紙を出し続けても返信はなく、婚約パーティーの招待状も無視された。許可を貰うことなく開催したパーティーに姿を見せることは無かった。もちろん、その後の連絡もない。


そんな無関心を貫いてきたアルフォード公爵だからこそ、いつか強硬手段に出るのではないかという一抹の不安がぬぐえなかった。

姑息な手段を用いて、アイナと自分のことを物理的に切り離すよう仕向けてくるのではないかとずっと警戒していたのだ。


それが今日、「アイナの強制退学」という形で目の前に現れた。




繋がれた手からアイナの感情が痛いほど伝わってきたレインは、ひとつ息を吐くと顔を上げて教師に伝えた。



「分かりました。お話がそれだけなら、こちらで失礼させて頂いても?」


「え、ええ…」


アイナよりも、彼女のことを溺愛しているというレインの方が激昂すると思っていた教師は、彼の冷静な反応に動揺を隠せなかった。


会議室を訪れた時となんら変わりのない様子のレインは、ふらつくアイナのことを支えながらしっかりとした足取りで部屋を出て行った。





アイナを連れて部屋を出たレインは真っ直ぐ公爵家の馬車へと向かい、未だショックで呆然としている彼女を丁寧に座席へと座らせた。



「おい、アイナ」


ぼんやりとただ何もない空間を見つめて焦点の定まっていないアイナの両肩を掴むと、彼女の顔を覗き込んで何度か軽く肩を揺らす。


ようやくこちらを見返す黒の瞳と目を合わせることが出来た。



「私…学園生活を楽しもうって、今だけだと思って、だから友だちも沢山作って、後悔のないように毎日過ごしたいって…それがあと一年あって、最近ようやく楽しくなってきたのに…それなのに…」


アイナは震える声で心境を吐露し、レインから顔を逸らして俯いた。



「どうして学園を辞めないといけないの…?」


下を向いたままの瞳からボロボロと大粒の涙が溢れでた。

アイナの両肩を掴んでいたレインの手は彼女の背中へと回り、小刻みに震えるか細い身体を支えるように力強く抱きしめる。



「これから王宮に行く。」


「え??」


突拍子のないレインの言葉に、アイナはパッと涙に濡れた顔を上げた。

彼は指で優しくアイナの涙を拭うと、胸が苦しくなるほどの優しい顔で微笑みかけてくる。



「そこに公爵がいるからな。一緒に挨拶をしに行くぞ。」


「え?挨拶ってなんの話…?」


「結婚の挨拶に決まってるだろ。」


「は?誰と誰の…?」


「俺とお前のだ。この馬鹿。」


「いたっ!!」


全く話の分かっていないアイナに、レインは丁寧に言葉を尽くすどころか、彼女のおでこに手加減のないデコピンを打ち込んできた。


両手でおでこを抑え、今度は激痛で瞳を滲ませるアイナ。

先ほどまでの絶望と虚無に支配された表情はどこへやら、今はいつもと同じように怒りを露わにした表情てレインのことを睨みつけている。



「ちょっと!いきなり何するのよっ!!ひどいじゃないっ!!」


「それでいい。」


「は!??なんなの、意味分からないんだけど!」


レインは、喚き散らすアイナの頭を優しい手つきで撫でてきた。



「お前に暗い顔は似合わない。いつだって馬鹿みたいに呑気な顔で笑っていろ。」


「なっ……」


いつもの意地悪い顔ではなく甘い顔を向けられ、何もかもを見透かすような真っ直ぐな瞳に見つめられ、茶化すような物言いではなく真摯な声音で言われ、普段見せない彼の姿なアイナは思わず言葉に詰まる。



「そ、そんな言い方しなくてもいいじゃないっ!」


「悪かった。お前は勉強の出来る馬鹿だったな。」


「そういうことじゃないっーー!!!!」


すっかりいつもの調子を取り戻したアイナに、レインもいつものように心底迷惑そうな顔で耳を塞いでいたのだった。



馬車の中で言い争いならぬ痴話喧嘩を繰り広げている内に、二人を乗せた馬車は王宮へと続く一本道の入り口までやってきた。


王族の棲家でもある王宮は、過去の戦乱の歴史の影響で堀に囲まれておりこの一本橋を通らねば敷地内に入ることは出来ない。


もちろん誰もが通れる場所ではなく、その一本道へと入る前には守衛の詰め所が建っている。馬車の接近に気付いた数名の守衛達は剣を鞘から抜いて構えると、物々しい雰囲気で馬車の前までやってきた。



「これ以上先に進めば問答無用で罪人と処す。」


言葉を発した守衛の内の一人が容赦なく御者に剣先を向けてきた。



「子が父に会うことも叶わないのですか?」


寂しげな表情でふわりと現れたレイン。


その表情と声音とは裏腹に、禍々しいほどの魔力を放出させながら近づいてくる彼に、その場にいた守衛全員が全く同じ動きで素早く剣を収め石畳みの上に跪いた。


圧倒的な魔力量と王族に次ぐ高貴な身分を前に、ひれ伏すことしか出来なかった。

押し潰されそうなほどの威圧を全身に受けながらも、王宮に仕える者の矜持で懸命に声を振り絞る。



「…直ぐにご案内致します。」


「感謝申し上げます。」


地面に顔がぶつかるほど低く頭を下げ額に脂汗を滲ませる守衛に向けて優雅に微笑むと、レインは颯爽と馬車の中へ戻っていった。




「レイン、貴方一体何をしたの…」


「懇切丁寧に真心を込めて入場の許可を求めてきただけだ。俺の真摯な想いが連中にも伝わったんだろ。」


「・・・」


交戦的な笑みで語るレインの言葉は胡散臭さしか感じられず、返す言葉を失ったアイナは遠くを見つめていた。


その後、レインの魔力に当てられて顔色を悪くした守衛に先導され、公爵家の馬車はゆっくりと門の中へと進んで行ったのだった。




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