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学園デビューしたいのに、ツンデレ男が邪魔してくる  作者: いか人参


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唐突な報せ


春休みの間、アイナはレインとほぼ二人きりの毎日を過ごしていた。


レインは相変わらず仕事で忙しくしており、アイナは多忙な彼と同じ部屋で勉強や読書をすることを日常としていた。

彼と過ごす時間は案外心地よく、時折り家族に会うため自宅に戻る以外はレインの邸の中で過ごしていたのだった。




そんな平和で変わり映えのしない毎日を送り、あっという間に春休みは終わり新学期を迎えた。


無事に最終学年へと進級したアイナは、これまでと変わらずレインと共に公爵家の馬車で通学している。

最初こそ不相応な高級馬車に気後れしていたのだが、今ではすっかり慣れ、乗り心地のよい座席の虜となっていた。



馬車を降りる瞬間一気によそ行きモードとなったレインの手慣れたエスコートによって教室へと向かったアイナ。



「トルシュテさん、おはようございます!今日のおリボンは春色で可憐ですわ。どちらでお求めになりましたの?」


「まぁ!今日は三つ編みですのね。とても可愛らしいですわ。今度私にもヘアアレンジさせてくださいまし。」


「口紅変えました?それは最近王都で流行り出した淡い色ですわね。ふふふ、レイン様からのプレゼントでして?」


アイナが教室にやってきた瞬間、きらりと目を輝かせて駆け寄ってきた女子生徒たち。キラキラと輝く羨望の眼差しを惜しむことなく一心に向けてくる。



「くっ………」


アイナは宝石のように輝いて見える彼女達から目を逸らすと、見えないようにスカートの後ろで拳を握りしめ、キツく唇を結んだ。



ああもうどうしようっ!!!


これは紛い物だって分かっているのに、彼女達からの好意が嬉しくて嬉しくて嬉しくて堪らない…抑えてようとしているのに、つい口元が緩んでニヤけてしまう…へへへへ。


もう、こんなんで喜んじゃダメなのにっ


でもクラスの女子達に囲まれてきゃっきゃして、お洒落を褒められて真似したいなんて言われた日にはもう祝杯じゃん!嬉しくないはずがないっ!!これぞまさに、私が追い求めていた承認欲求が満たされる選ばれし者の世界…自分を取り囲むもの全てが尊い…


うん、もう偽りでもハリボテでもなんでもいいや。こんな機会底辺貴族の私には一生訪れないんだから、精一杯浸ろう!どうにでもなれっ!後のことなんて知るかっ!!




「よろしければ放課後お茶でもいかがです?休みの間のことや今流行り物など、沢山お話したいことがありますのよ。」


「嬉しい!うん、ぜひ!」


『…チッ』


「・・・」


「アイナさん、どうかなさいまして…?」


「…う、ううん!じゃあまた放課後にね!」


器用にもアイナにだけ聞こえるように舌打ちをしてきたレインに、つい笑顔が凍りついてしまった。

恐ろしくてすぐ隣にいる彼の方を振り向けないまま、誤魔化すように手を振って無理やり話を終わらせた。



そのまま平然を装い努めてさりげなく自席に向かおうとしたのだが、無言のレインにかっちりと腕を掴まれ行動を阻害されてしまった。


何も言われないまま腕を掴まれているこの状況に耐えきれなくなったアイナが恐る恐るレインの方を振り向くと、とびきり良い笑顔の彼と目が合った。



「ねぇアイナ、君はそんなに僕に妬いて欲しいの?」


「そっ…そういうことでは…だ、たって友だちと遊ぶなんていたって健全で普通のことだし、そこに嫉妬も何も…ねぇ…?」


腕を掴んだ状態で良い笑顔のままアイナの瞳から一切目を逸らさないレインに、返す言葉が尻すぼみになってしまう。

レインの完璧な笑顔の前では、友人とお茶をするという行為ですら背徳感を感じてしまうアイナであった。


彼女を追い込んだと確信したレインは、フッと鼻で笑い怪しげな笑みを向けて来た。



「次の休み、覚悟しておけよ。」


アイナにだけ聞こえるように不穏な言葉を言い残すと、レインは彼女の腕を離して颯爽と自席へと向かって行った。



「ひいいいっ」


残されたアイナは両手で自身を抱きしめ、底しれぬレインが与える恐怖に顔を歪めていた。



***



レインの口撃を受けながらもなんとか平穏な日々を生き抜いていたアイナだったのだが、そんな毎日は突如として終わりを迎えることとなる。



「トルシュテさん、この後少し良いかしら?」


放課後を迎えたある日のこと、珍しく教師がアイナのことを呼び止めて来た。



「え」


なになになに…??もしかして、学費滞納とか…?

うちって本物の貧乏だったんだ…いや、それは知ってたけどさ…レインに贈ってもらったドレス売れば借金を背負わずに済むかな…



「僕も同席しますね。」


青い顔をして硬直している彼女の後ろから聞き慣れた声がした。


声に反応して振り向くと、にっこりと微笑んだレインがアイナのすぐ後ろに立っていた。

呼び止められている彼女が気になってすぐに駆け付けてきたらしい。


そんな彼の姿を見た教師は一瞬嫌そうな顔をしたものの、レインの同席を許可した。



場所を移動する教師の後ろを、仲良く手を繋いだアイナとレインの二人がついていく。

実際は、お金の工面に思考を全振りして心ここに在らずの彼女のことをレインが引っ張り歩いているだけであったが。


職員室の隣に位置している誰もいない会議室に入ると、教師とアイナ達がテーブルを挟んで向かい合う形で席についた。



「トルシュテさんに伝えなければならないことがあってね…」


教師はアイナ達の方を見ることなく、組んだ手元に視線を向けたままとても言いにくそうに話し始めた。

レインは強張るアイナの手を取り、落ち着かせるように机の下で握りしめる。




「貴女の退学が決まったわ。」


「え………………」


思いもよらなかった言葉に、アイナは耳を疑った。

一言一句逃さずにちゃんと聞こえたはずなのに、肝心の言葉の意味が理解出来ない。


隣にいるレインが何か言っているような気がしたが、耳が痛くなるほどの静寂に包まれ、アイナには何一つ聞こえていなかった。



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