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学園デビューしたいのに、ツンデレ男が邪魔してくる  作者: いか人参


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優しさと甘さは紙一重


「ん…」


日付が変わる頃、アイナはベッドの中で目を覚ました。

疲労困憊だった彼女は普段なら夕飯を食べて寛いでいるであろう時間帯に寝入ったため、変な時間に起きてしまったのだ。



「…お腹空いた。」


目を瞑りもう一度眠ろうとしたが、空腹だったことを思い出したアイナは寝付くことが出来ずに寝台を降りた。


夕方から始まったパーティーで軽食が振る舞われたものの、精神的負荷による胃もたれのせいで飲み物しか口にすることが出来なかった。

そしてそのまま何も口にすることなく、寝支度だけをして泥のように寝入ってしまったのだ。


こんな夜更けに侍女を起こすのも気が引けたため、上着を羽織ってすぐ隣の執務室へと向かう。



レイン、まだ起きてるかな…



ゆっくり扉を開けると、まるでアイナが来ることを分かっていたかのようにこちらに目を向けるダイヤモンドの瞳と目が合った。



「それお前の分。」


レインが指差したテーブルの上には、白い布の掛けられた皿が置かれていた。



「紅茶で良いか?」


レインは書類の束を整えて机の上に置き、椅子から立ち上がってティーセットの置いてあるワゴンへと向かう。



「あ、そのくらい自分でっ」


「お前が火傷したらめんどくさい。良いから大人しく座ってろ。」


レインはアイナのことを見向きもせず声を掛けると慣れた手付きで茶葉をティーポットに入れ、湯を注いだ。

その上からカバーを掛け、律儀に砂時計をひっくり返して時間を測りながら蒸らす。その間にテキパキとテーブルの上にティーカップとソーサーを並べていく。


アイナも手伝おうと手を伸ばしかけたが、鋭い視線が飛んできたため、すぐさま手を引っ込め大人しくしていることにした。




「ほら。」


「ありがとう。」


レインが差し出してくれた紅茶は美しい黄金色に輝いており、芳醇な茶葉の香りを放っていた。


差し出してくれたサンドイッチと共に紅茶をいただくアイナ。そのあまりのおいしさに大きく目を開き、瞳を煌めかせる。



「…おいしいっ」


紅茶とサンドイッチを交互に口に運び、夢中で食べ進めた。

貴族令嬢としてあまり褒められた行為では無かったが、彼女を見るレインの瞳には優しさが滲み出ていた。




「アイナ」


普段よりもやや強張った声で名前を呼ばれ、アイナは何も言わずにレインに視線を向ける。



「公爵…父親にまだ話を通せておらず、悪い…」


自信家で余裕の溢れたいつもの彼らしくなく、その声には後悔と懺悔と不甲斐なさが漏れ出ていた。



「レイン…」


アイナはそんな彼の姿にどうしようもなく胸を締め付けられた。

自分は仕方ないと半ば諦めていたことを目の前の彼は一人でその責を負っていたのだと気付かされたからだ。


『公爵家と木端貴族の自分が釣り合うわけがない。絶対に反対される』


そう決めつけていた自分に対し、レインは最善を尽くそうと画策してくれていた。その事実に胸の奥が熱くなる。

もし二人の将来が夢物語で終わったとしても、この想いを抱きしめて生きていけるような気さえした。


アイナは、胸の前で両手を組みぎゅっと握りしめた。




「話す場を作るから、その時はお前にも一緒に来い。」


「もちろん。ありがとう…レイン。」


「その場では、何があってもどんなことも俺の話には全て頷け。」


「ん?」


「俺が何を言ってもお前は『はい』以外口を開くな。」


「一体どんな話をするつもりなの…………」


いきなり不穏な話をしてきたレインに、アイナは表情を歪めて頭を抱えた。

熱くなった胸の内は一気に常温へと戻り、感情の乱高下を整えるために温くなった紅茶に手を伸ばす。



「あいたっ」


だが、ティーカップの持ち手に触れる前にその手をレインにぺちりと軽く叩かれてしまった。



「そんなの飲むな。」


アイナのことを一瞥すると、レインは彼女から奪い取るようにティーカップを取り替え、二杯目の紅茶を注いでくれた。


黄金に輝くそれを無言でアイナの前へと差し出す。



「レインって…優しくないフリをするよね。」


目の前に置かれたティーカップを両手で持ち、アイナは何の気なしにポツリと呟いた。



「ほう…」

「へ」


予想とは異なる反応に嫌な予感がして顔を上げると、交戦的な顔つきで口元を歪ませているレインと目が合った。



「え…私なんかマズイこと言って…」


「恥ずかしがるお前のためと思って加減してやってるんだが?お前は俺に泥々に甘やかしてほしいということか…」


「いや、、優しいと甘やかすはまた別の話じゃ……ひゃあっー!!!」


いつの間にかアイナの隣へと席を移していたレインは、彼女の腰を抱き寄せ耳元に吐息を吹きかけて来た。

いきなり訪れた体温とくすぐったさにソファーから飛び上がりかけたが、レインにがっしりと掴まれているため彼の腕の中で蠢くことしか出来ない。



「…座ったままではやりにくいな。」


「は!?なにを!!?」


光の速度であらぬことを想像してしまったアイナに、レインは口元に手を当てクスッと妖艶に微笑み掛けてきた。



「お前、なに想像してんの。」


「ち、ちがうーーー!!!!」


体の自由を奪われているアイナは、唯一自由の効く首を精一杯横に振った。



「まぁ、いい。続きはベッドで。」


「は…………なにを……」


「パーティーの時に言っただろ。そのために俺のことを誘いに来たんだろう?」


甘さ全開の声でわざとらしく耳元で囁いてきたレイン。



「いやああああああああああああああっ!!もうやめててててて!黙ってーーー!!!」


「はいはい。反論もベッドの上で聞いてやる。」


全身真っ赤に染まり手足をばたつかせるアイナのことを、レインは幼な子を扱うかのように軽々しく抱え上げ、寝室へと運んで行った。


レインの言葉と態度に翻弄され続けて疲弊したアイナはベッドに入って僅か数分で意識を手放した。


アイナの寝かしつけに成功したレインは、明け方近くまで彼女の隣に寄り添い、優しく髪を撫で続けていたのだった。




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