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学園デビューしたいのに、ツンデレ男が邪魔してくる  作者: いか人参


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レインの独壇場


学生達に混ざって今宵のパーティーに参加していたこの国の重鎮達。

明らかに年齢層の異なる彼らへの挨拶を手短かに済ませたレインは、アイナと共に今度はクラスメイト達に囲まれていた。


集まった者達は皆グラスを片手に、羨望と好奇に染まった瞳を輝かせている。

だが、視線を向けるだけで何か言葉を発する強者はいない。この場にいる誰もがこの厳かな雰囲気にのまれているようであった。


そのような中、普段と変わらない様子の者がいた。



「この前の舞踏会の時は、完全なるレインの片思いだと思ってたんだけど、いつどうやって口説いてどんな言葉で返事をもらえたの?」


にこにこと微笑みながら親しみを感じさせる声音でナイフの如く切り付けてきたのは、アイタンであった。

相変わらずレインに対して嫌がらせをすることに余念がなく、彼の痛い所を的確に突いてくる。



は………ちょっと待ってこの人……なんてことをぶっ込んでくるのよ!!これ絶対レインの機嫌が悪くなるやつ!私にまで飛び火したらどうしてくれるの……せっかく初対面のお偉いさん方への挨拶を貼り付けた笑顔で乗り切ったというのに!人の努力を無駄にしないでよっ!!



大勢の前で本音を言えず心の内で悪態をつくアイナだったが、アイタンの行動パターンを想定済みのレインは余裕たっぷりの笑顔を見せた。



「それは…ここでは言えないな。ねぇ、アイナ?」

「っ!!」


レインは隣に立つアイナの腰を抱き寄せ、頬に顔を近づけてきた。

ふわりと香る普段付けていない彼の香水の匂いとレインの甘い声音に、アイナは思わず息を呑む。


顔が赤くならないよう、出来るだけ顔を晒して平常心を保とうと必死だ。



「僕がアイナにどんな眼差しを向けて、どんな愛の言葉を囁いて、どんな風に触れて、どんな手順で僕の虜にしたかなんて…そんなこととてもじゃ無いが口で説明することは出来ないな。」


腰を抱き寄せて顔を近づけ、言葉を発する度にアイナの髪を優しく人撫でする。

最後は、髪に触れていた手でアイナの顎を支えて自分の目を合わさせるレイン。



「だって、可愛い僕のアイナが恥ずかしがってしまうだろ?」


もう十分に真っ赤になって今にも泣き出しそうな顔をしているアイナに向かって、白々しくも形の良い眉を下げて心配そうに囁いてきた。



「「「「きゃああああっ!!」」」」


いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!


アイナ信者達の黄色い声とアイナの心の絶叫が見事に重なった。


信者以外のクラスメイト達も、僅かに赤くなった顔で足元に視線を向け気まずそうにしている。 


色気たっぷりのレインの言葉と仕草に加え、全力で恥ずかしがっているアイナの姿に色々と絶え切れなくなっていたらしい。

平常心を取り戻そうと深呼吸する息遣いすら聞こえてきた。



「残念。じゃあ今度レインと二人きりの時に話を聞かせてもらうね。あともう一つ聞きたくて…」


またもや何か聞き出そうとしてくるアイタン。

そのあまりの横暴さにアイナの羞恥心は一瞬にして消え去り、その代わりに怒りの感情が心を埋め尽くした。



は。


ちょっと一回黙ってほしいんだけど!もう本当に無理なんだけどっ!!なんなのこの男はっ!これ以上変なことを言われたら私の身が持たない。こうなったらもうレインに頼んで今すぐこの場から立ち去っ………ひいっ!!!!!何この全く目の笑っていない交戦的な笑顔こっわっ!!


もうやめて…この二人の黒い会話怖い…おうちに帰りたい…ほんとなんなのもう…私を巻き込まないでほしい…



「今回の婚約って、アルフォード公爵は容認されているのかな?」


普段と変わらない穏やかな物言いだったが、アイタンの言葉に場の空気が凍りついた。触れてはいけない話題という共通認識があったせいだ。


レインは一瞬殺気立ったものの、常人には分からないほどの速さでいつもの微笑みを取り戻した。



「残念ながら父上はひどく多忙で時間が取れなくてね。それでも夏頃には時間を貰える手筈になっているから。正式な手続きは少し先になってしまうけれど、既に寝食を共にしている僕らにはあまり関係のない話かな。」


「それもそっか。」「し、寝食を共にっ!!?」


さらりと言ってのけたレインに呼応するようにそつなく答えるアイタンの声とアイナの驚愕の声が重なった。



『し、寝食を共にですって……』

『お二人は深い関係でしたのね』

『寝る時も一緒だなんて羨ましいっ…』


思わず声を上げたアイナのことを、彼女の信者達は驚きながらも惚けた顔で見つめている。

もうここにはアイナのことをとやかく言って蹴落とそうしてくる者はいない。


アイナはようやく念願の学園内での安寧を手に入れたというのに、やっかみが飛んでこない全てを肯定されるこの状態が逆にしんどく感じていた。


鉄壁の外面を被ったレインと相変わらずなアイタンとアイナのことを肯定しかしない信者達に囲まれ、アイナはもうどこからどうツッコむべきか分からず頭を抱えている。

そんな彼女に、レインが気遣うように優しく微笑み掛けてきた。



「アイナ、何も恥ずかしがることはないんだよ?愛する者同士いかなる時も隣にいたいのは当たり前じゃないか。それは食事の時でも眠る時でも同じだよ。いつだってすぐそばでアイナの声を聞いて君の体温に触れて君のくちび、」

「ちょっと一回黙ってっ!!!!」


絶え切れなくなったアイナは叫ぶように言うとレインの口を両手で力一杯塞いだ。

レインは嬉しそうに目を細めると優しくアイナの手を口元から離す。



「分かった。続きは今晩ベッドの中で話そう。」

「!!」


アイナの耳元で、だが周囲に聞こえるほどの声量で甘く囁いたレイン。

周囲から歓声と悲鳴の声が上がり、アイタンも周りに合わせて呑気にひやかしの口笛を吹いていた。


アイナの顔はまたもや真っ赤に染まり、それをとびきり甘い顔で見つめるレイン、そしてそんな二人を眼福とばかりに眺め続ける信者達。


レインの目論見通り、周囲の者達に胃もたれを起こさせるほどの甘い空間が出来上がっていたのだった。





「つ、つかれ、た……………」


パーティーが終わり部屋に戻った瞬間、アイナは着替えもしないままソファーに倒れ込んだ。



「俺に脱がしてほしいってことか?」

「違うわっ!!」


部屋を出ていこうとしたレインが足を止めて振り返り、ニヤリと笑みを見せて来た。

ツッコミと共に慌てて起き上がったアイナに、ふっと笑みをこぼす。



「冗談だ、馬鹿。」


言葉とは裏腹に甘さのある声で言い残すと、レインはそのまま部屋から出て行った。



「一体なんなの……」


またしてもレインに翻弄されてしまったアイナは、今度こそだらしなくソファーに寝そべった。レインによる精神的疲労のせいで活力は全て失われ、指一つ動かすことができない。


そんなアイナは、レインと入れ替わりで現れた数名の侍女達の手によってなんとか着替えと湯浴みを済ませることが出来た。


疲労困憊のアイナのため、レインは普段より多い人数の侍女を遣わせたのだが、思考停止状態の彼女が普段との違いに気付くことはなかった。




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