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学園デビューしたいのに、ツンデレ男が邪魔してくる  作者: いか人参


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無自覚の煽り


午後の授業の合間、教室でクラスメイトの女子達に囲まれているアイナ。


勉強を教わりたい、髪型を真似したい、爪の手入れの仕方を教えてもらいたい等、女子生徒達から羨望の眼差しを向けられてひっきりなしに話し掛けられていた。


それはアイナが望んだ『クラスの人気者』を印象付ける光景そのものであったが、主役であるはずの彼女の顔は浮かなかった。

曖昧に笑い、謙遜するように首と両手を横に振る。



「ええと、別に特別なことはしていなくて…」

「まあ!なんて控えめなのかしら。」

「そんなはずないですわ!」

「ご謙遜なさらないでくださいませっ」

「・・・」


一方通行の会話をやめない彼女達に、アイナは遠い目を向けていた。



アイナ像を勝手に作り上げる彼女達の誕生には、ジュリアンヌとマイカの二人が関わっている。


魔道具を使用した反動のせいでアイナに心酔した二人が宣教師の如くアイナのことを盛って言いふらした結果、クラスのほとんどの女子達がアイナのことを取り巻くようになってしまったのだ。


ひとりでに歩きまくったアイナ像のおかげで、魔道具の後遺症が抜け去った今でも深く根付くこととなり、現実との乖離にアイナは頭を抱えていた。



そんな彼女から少し離れた後方窓際の席に座り、読書をしているレイン。

アイナは藁にもすがる思いで、救いを求めるようにチラリと視線を向けた。



『チッ』

「ひいっ」


だが、穏やかな表情の彼から返って来たのは器用にも音声無しの舌打ちであった。


諦めたアイナは壊れた仕掛け人形のようにひたすら相槌を繰り返していたのだった。



***



「揺らいでるよ?」


楽しげな声音で嬉しそうに声を掛けて来たのはアイタンであった。



放課後、さっさとアイナと一緒に帰ろうと思っていたレインだったのだが、アイナはまたジュリアンヌ達に捕まっており質問攻めにあっていた。


無理やり連れ帰ることも出来なくはないが、自分ばかりアイナのことを求めているようで意地を張っているレイン。

涼しい顔をしているにも関わらず抑え切れない嫉妬心で魔力を波立たせているレインを見つけたアイタンが嬉々として近寄って来たというわけだ。



「アイナさん、レインのおかげですっかり人気者になったよね。」


睨みつけてくるレインの視線を笑顔で躱し、アイタンは空いていた彼の隣の席に腰掛けた。



「だからあの二人だけにさせたのに…ムカつく。」


レインはそっぽを向いたまま毒付いた。



「まぁ仕方ないよね。男子が相手だったらレインが殺人鬼になっちゃうし、他のクラスの子だと目が届かなくて監視出来ないし、複数人の相手はさせたくないし。だから、女性且つ同じクラス且つポイントを十分に稼げるあの二人に限定したんだもんね。」


アイタンは、にこにこ顔のままツラツラとレインの意図を曝け出した。


悔しくも、全て彼の言う通りであったはレインは何も言い返すことができず、せめて揶揄われないようにと魔力のコントロールに意識を向けている。



精神干渉の魔道具が使われたあの時、もちろんその後遺症を知っていたレインは、アイタンの言う通りリスクを鑑みた上でジュリアンヌ達のことを選びアイナに撃たせたのだ。


そして今、自分が回した気のせいで嫉妬心が揺さぶられることとなってしまい、レインは非常に機嫌が悪かった。

だが、レインの機嫌が悪くなれば悪くなるほど上機嫌になるのがこの男であった。




「そんな怖い顔してるとアイナさんに嫌われちゃうよ?」


「うるさい。消えろ。」


「そういう物騒な物言いもダメだよ。男は紳士であれってね。」


「チッ」


アイタンのことを思い切り睨みつけて舌打ちをしたレイン。

今教室にいるのは、アイナのことを取り囲んでいる者達だけであり、彼はもう人目を気にしなくなっていた。




「悪態をついてる暇があったら、アイナさんとの仲の良さを見せつけないと他の子に取られちゃうよ。アイナさんって、女性から見ても可愛いタイプだしもしかしたら、」



ー ピキッ


レインから一番近い距離にある窓に、数センチほどのペンで引っ掻いたような薄く細い線が出現した。

他の者であれば見逃すであろう事象であったが、魔力感知に長けるアイタンは見逃せなかった。


この時ばかりは、『あーあ。気付きたくなかったよねぇ…』と、人の数倍秀でている己の能力を恨めしく思っていた。



「俺が分からせてやればいいんだろ?望むところだ。」


レインは、自分の方を見向きもしないアイナのことを捕食者の瞳で真っ直ぐに見つめていた。





「え、なんか今寒気が…」


突如全身を襲った寒気に、アイナは自分を抱きしめるようにして二の腕をさすった。



「アイナ、そろそろ僕たちも帰ろう。」


自然な動きでアイナの腰に手を回してきたレインは、ひどく機嫌が良い顔と声をしている。

彼の登場により、アイナを取り囲んでいた女子達は蜘蛛の子を散らすように離れて行った。



「うん。」


囲い込みから逃げ出したかったアイナは、渡りに船だとレインに差し出された手を取る。

その時、アイタンがアイナ達に向かって軽く手を振って来た。



「ご武運を〜」

「え?」


戦地に送り出すような雰囲気を出してくるアイタンに、アイナは驚いた顔を向けたが、レインに腕を引っ張られていたため足を止めることは出来なかった。


困惑顔のまま帰路についたのだった。




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