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学園デビューしたいのに、ツンデレ男が邪魔してくる  作者: いか人参


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戦いの結末


アイナ達の反対側に位置する遮蔽物の後ろ、5人ずつ組んだ隊列から次々と攻撃魔法が放たれていく。


それは強い殺傷能力を持ってレインの結界に突き刺さる。魔力切れを起こさないよう、指揮者の合図で後ろに控える者達と場所を入れ替えることで攻撃の手を緩めない。


軍隊のように統制された攻撃部隊の更に後方で身を潜めるジュリアンヌにマイカが声を掛けた。



「ジュリアンヌ様、もう少しですわ。わたくしが合図をしましたらあちらに撃ち込みをお願いしますわね。」


「あの女さえ討ち取れば…」


たった一つのことに執着するジュリアンヌにマイカの声は届いていない。

だが、マイカもまた己の欲しか考えておらず、相手の返事など求めていなかった。


今二人の間にあるのは、ただただアイナのことを今すぐ消し去りたいという共同戦線のみだ。もう彼女達の間には、昔のような主従関係も学生になってから築いた友人関係も何一つ成り立ってなどいなかった。


もう誰のものかも分からないほど、アイナのことを排除したいという欲求だけに囚われていた。




マイカは水魔法で即席のオペラグラスを作り距離のあるアイナ達の様子を窺う。


鉄壁だったレインの結界魔法に一つ二つとヒビが入る様を視認し、口の両端を上げた。

完全に破られればきっと相手も反撃してくるに違いない、そう判断したマイカは結界が壊れる一歩手前で指示を出す。



「今ですわ!」


マイカの指示を受けたジュリアンヌは、空中に待機させていた巨大な魔法陣にありったけの魔力を込める。

魔力量だけには自信のある彼女だからこそ成せる力技だ。


そして、彼女が特大の火柱をお見舞いしてやろうとしたその時、物凄い速さでこちらに向かってくる魔力の気配に気付いた。


気配がした方向に目をやると、魔力で出来た美しいいくつもの放物線が見えた。



「まぁ!なんて美しいのかしら…」


魔力を込める手を止め、目を奪われるジュリアンヌ。両手を伸ばして何かを切望するように恍惚とした表情で空を見上げる。



「まるでレイン様の瞳のようだわ。美しくて気高くていつだって迷いのない唯一の…」


ジュリアンヌの言葉は最後まで続かなかった。なぜなら、スロー再生のように見えていた魔力の塊が実際は物凄いスピードで眼前に迫っていたからだ。


避ける間もなく、当たると身構える暇すらなく、レインが放った魔法に被弾した。


それはジュリアンヌだけではなく、すぐそばにいたマイカも彼女達の攻撃部隊も全て飲み込み、強い光を放ちながら大爆発を起こすと、辺りに土埃が立ち込めた。


衝撃波で地面の上に次々と薙ぎ倒され、皆動けずにいる。

爆音で鼓膜と三半規管がやられ、強い閃光で視界を奪われ、地面に叩きつけられたせいで手足の自由が効かない。土埃が舞う中、地面に這いつくばる者達の呻き声が響く。


そして、地獄絵図となったこの場に似つかわしくない、呑気な会話が聞こえてきた。




「ねぇねぇ。さすがにこれは僕のことを褒めても良いんじゃない?僕の防御魔法が無かったら、今頃みんな手足も首ももげて跡形も無くなっていたと思うよ。」


「うるさい。それがお前の役割だろ。」


「うわ、冷たいなー。まぁでも、僕も久しぶりに思い切り魔法を使えたから良かったけどさ。で、これどうするの?ちょっと他の人には見せられない惨状だよね。」


「言い逃れ出来る程度まで治癒魔法を施す。それまで認識阻害の結界を張っておけ。」


「まったく、人使いが荒いんだから。ひとつ貸しにしとくからね。」


レインに依頼されたアイタンは、要望通りの結界を瞬時に張り巡らせる。

これで土埃が収まった後も観覧席からこちらの様子を正確に把握することは出来ない。


その隙に、レインは倒れている者達に片っ端から治癒魔法をかけていく。


皆、次々と意識を取り戻した。




「もういいぞ。」


「さすがだね。無駄のない見事な治癒魔法。僕も一度味わってみたいな。」


「やるか?」


「いやそれ、一度傷つける前提で話すのやめてくれる?そして早くその魔法陣消して、レインは本気でやりそうで怖い。」


あれだけの人を一気に治療したというのに、まだ魔力を持て余しているレインに、アイタンは化け物を見るかのような目を向けていた。




「ちょっと!レインっー!!いきなり走って行かないでよ!めちゃくちゃ足が早くて追いつけなく…って、は!??二人で何やってるの!?え、なにこの状況…」


魔法を放った直後、風魔法を駆使して一気に敵の陣地に入ったレインを人力で追いかけてきたアイナ。


心配で追いかけてきたものの、地面に倒れ込む何十人という人の中で平然と話している二人を目にして顔を青くしている。




「問題ない。」


「大アリでしょう!!!これだけの人を傷つけてタダで済むはずが…」


「致命傷はない。ほら、息はある。」


レインが指を指した先には、頭を抱えながらも起き上がろうとするジュリアンヌとマイカの姿があった。



「今だ、やれ。」


「はぁ!!?なんで私がとどめを刺す役回りなのよ!おかしいでしょう!!!」


「おい馬鹿。いつからデスゲームになったんだよ。早くバッチを狙えって言ったんだよ。」


「は…今この状況で……??」


「ああ。最高のシチュエーションだろ。」


「…レインの鬼、悪魔、鬼畜、人でなし、アンポンタン」


「いいから早くやれ。もう時間がないぞ。」


「ううう…分かったよ!!」


アイナは至近距離にいるジュリアンヌとマイカにそよ風のような魔力を当て、彼女達のバッチのポイントを手に入れた。



「なんかちょっと思ってたのと違う…うう…」


ひとり打ちひしがれるアイナを無視して、レインも辺り一体で寝転ぶ者たちのバッチに容赦なく魔力を当てていった。

アイタンもちゃっかりとそれに便乗してポイントを稼いでいた。



「こんなもんだろ。あとは…」


レインはゆっくりと刺すような視線をジュリアンヌ達に向けた。


彼女達は意識を取り戻したものの、座り込んだまま焦点の合わない瞳を忙しなく動かしている。それは、何かに取り憑かれているような狂気を感じさせる様であった。



「誰に指示された?」


レインはジュリアンヌの髪を引っ掴んで無理やり目を合わせると、低い声で尋ねた。



「知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない…」


「ひいっ!!!!!!!!」


まともな人間とは思えない、壊れた人形のように同じ言葉を繰り返すジュリアンヌに、アイナは悲鳴を上げてレインの後ろに隠れた。



「これは精神干渉の魔道具を使われた反動だろうねぇ。だからこの手のものには手を出すなって昔から言われてると思うんだけどね。」


「そんなことは関係ない。悪魔の誘いに乗ったのはコイツらの意思だ。」


レインは力技で口を割らせようと、ジュリアンヌとマイカの前に炎を出現させた。

動物の本能で最も恐れるものを目の前にさせ、ひれ伏させようという狙いだ。



「アイタン、アイナのことを頼む。」


「はいはーい。」


「は!?ちょっと待ってレイン、貴方何する…」


「か、カトレア…カトレア・サンクシード…彼女が私たちに…」


呆然とするジュリアンヌの隣で、マイカが振り絞る声を上げた。

だが、無理やり自我を行使したせいか、そのまま気を失ったように倒れ込んでしまった。



「大丈夫!!?」


「心配ない。魔道具の影響は時が経てば薄れていく。」


レインはマイカに駆け寄ろうとしたアイナの腕を引き、留まらせた。豹変する可能性もあり、アイナの身の安全を確保するためだ。



「ひどいっ…こんなことひどすぎる…どうして彼女達にこんなことを…」


声を震わせるアイナの肩をレインが優しく抱きしめる。



「安心しろ。必ず俺が突き止めて消し炭にしてくれる。」


「………えっと、私怨はダメだからね。ちゃんと法で捌いてね。夜道でこっそりとか絶対にダメだからね?」


「…」


レインの不穏な言葉に一気に冷静さを取り戻したアイナだったが、彼から了承の返事はなく、今度は別の恐怖を感じていたのだった。



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