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学園デビューしたいのに、ツンデレ男が邪魔してくる  作者: いか人参


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レインの寝かしつけ


いやいやいや、ちょっと待って、今この人なんて言った?一緒に寝る…??そんなこと言うわけ…いや仮にももし万が一言ってたとしても、これは冗談でいつもみたいに私の反応を楽しんでるだけで…ここは真に受けずポーカーフェイスで乗り切ることが…



チラリとレインの顔を見上げると、なぜか彼は苛立っていた。



「俺の手を煩わせたくてワザとやってんの?」


「えっとなにが…」


「俺に運んで欲しいのかって聞いてんの。」


「じ、自分で歩けますっ!」


抱き抱えようと伸ばしてきたレインの腕を避け、アイナは逃げるように寝室へと戻った。




「早く」


「ええと…」


ドアの取手に手を掛けたアイナは、自分のすぐ後ろに控えるレインに向かって困惑を露わにした。いつもならここでおやすみとなるのだが、一歩も引く気配が無い。

それどころか、早く中に入れろと睨みを効かせてくる始末だ。


レインの鋭い視線に負けたアイナはゆっくりとドアを開ける。

戸惑うアイナを尻目に、彼はスタスタと部屋の奥まで歩くと寝台に腰掛けた。



「来い。」


「は、はいっ。」


またもやレインの圧力に負けたアイナは早歩きで彼の元へと近寄っていく。

寝台に座るレインの正面まで行くと、彼はアイナの両脇に手を入れて抱え上げベッドの上に座らせてしまった。


そして、彼女の肩に掛けていた上着を取ると床に投げ落とす。



「へ……」


薄暗い部屋の中、ベッドに座る夜着姿の自分とそのすぐ隣にシャツ1枚のレイン。

普段は制服のブレザーかジャケットを必ず羽織っている彼のシャツ姿の刺激はすさまじく、襟元から覗く鎖骨からは目を逸らしたくなるほどの色気が溢れ出ている。


レインはシャツの袖を捲るとアイナの身体に腕を回してきた。



「は、え、ちょ、ちょっと…!!!」


「うるさい。」


ベッドから飛び出そうとするアイナのことを片手で拘束し、迷惑そうな顔をしながらもう片方の手で耳を押さえている。



「大人しく寝ろ。」


耳から手を離すと今度は両腕でアイナのことを抱きしめ、そのまま横に押し倒すようにして無理やりベッドの中に押し込んだ。

横を向くアイナの背中から抱きしめるような形を取る。


背中から伝わる彼の体温と鼓動とすぐそばに感じる彼の息遣いに、アイナの心臓は今にも爆発しそうであった。

一旦離れて落ち着こうにもレインの腕力に敵わず、もがいても微動だにしない。



「あの…余計に眠れないんですけど…」


「黙って寝ろ。」


レインの返事は素っ気なかった。


静かな夜の部屋、アイナの背中から伝わるレインの鼓動は落ち着いていて一定のリズムを刻む。


この状況で緊張しているのは自分だけかと思うと悔しい気持ちもあったが、徐々にそんなことが気にならなくなるくらい心地良くなる。


人の温かさとゆっくりとした落ち着くリズムに、アイナの心も少しずつ落ち着きを取り戻していく。




「ねぇ、レイン」


眠りに入る直前の微睡みが気持ち良くて、アイナは無自覚にレインへ話しかける。



「どうして私を選んでくれたの?こんな私…レイン・アルフォードとなんて釣り合うわけないのに…そもそも接点だって…」


独り言のように己の感情を吐露するアイナ。


返事はないと分かっているからこそ、今まで聞きたくても聞けなかったことを口にすることができた。

アイナの予想通りレインからの返答はなく、部屋は静寂に包まれる。




「…本当にありがとう。私…やっぱりなんだかんだ言って優しいレインが好きだな。ふふふ…」


幸せそうな笑みをこぼしたアイナは、その後すぐに寝息を立て始めた。

寝付いた彼女を起こさない程度に、レインは抱きしめる力を強める。




「言い逃げかよ、馬鹿。」


スースーと気持ちよさそうに寝入るアイナの顔を覗き込むと、レインは彼女の頬にそっとキスを落とした。



「責任取らせるぞ。」


返事がないと分かっている相手に向かって悪態をつくレイン。


本当はアイナを寝かしつけて仕事に戻ろうと思っていたのだが心地よさに負け、今日はこのまま彼女の隣で眠りにつくことにした。

明朝目が覚めた瞬間に自分が隣にいれば、アイナはとてつもなく騒ぐだろうと思ったのだが、そんなことはもうどうでも良くなった。今はただただこの温もりに触れていたくて、この場所から離れたくなかった。


普段纏っている公爵令息としての仮面も鎧も取り去り、一人の人間として一人の男としてアイナの背中に身を寄せる。



「愛してる。」


レインの心からの言葉は寝ている相手に届くはずがなく、行き先を失って闇夜に溶け込んで消えていく。


静寂の中聞こえていたアイナの規則正しい寝息にいつの間にかもう一つの音が重なり、その二つは日が昇るまで同じリズムを刻んでいた。




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