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学園デビューしたいのに、ツンデレ男が邪魔してくる  作者: いか人参


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高まる緊張感


模擬演習の本番を明日に控えたこの日、アイナはカシュアに誘われて壮行会という名のおしゃべり会に参加していた。


カフェテリアに集まるアイナ、カシュア、エリナ、キースの4人。

そして当たり前のように彼らの席から少し離れた位置にレインが座って待っている。


カシュアはレインのことも誘おうとしたのだが、彼の方から自分がいると皆に気を使わせてしまうと辞退していた。その代わりにとレインが注文してくれたスイーツがずらりとテーブルの上に並んでいる。


そんな婚約者の鏡とも言えるような気遣いを見せた彼に、アイナは今恨めしそうな目を向けている。



参加しないのなら別の場所で待ってくれていたらいいのに…気が散るからせめて私から見えない位置に…というか、別に歩いて帰れる距離だからそもそも待っていなくたって…



「いっ…」


思わず声が出たアイナ。

視線を向けていた相手が自分の方を向き、綺麗な笑顔をよこしてきたためだ。



『来て欲しいのか?』


アイナ達の方を指差しながら口の形だけで伝えてきたレイン。


ニヤリと意地悪く笑う彼に、アイナは揶揄われていると確信しながらも顔が熱くなることを止められない。

この美しい顔で気遣われる言葉を掛けられるとどうしても胸が高鳴ってしまう。赤くなる頬を隠すようにアイナは両手を頬に添える。




「アイナ?緊張、するよね…でもこの前の模擬戦すごかったもの!アイナなら大丈夫だよ。」


緊張していると勘違いしたカシュアが精一杯の励ましを送ってきた。

友人の優しい気遣いにアイナの胸がじんわりと温かくなってレインに乱された心が落ち着きを取り戻す。



「カシュアの言う通りよ。あれほどの数の魔法陣を展開して涼しい顔をしているのだもの。私も驚いたわ。」


うんうんと頷くエリナは、アイナのティーカップにお代わりの紅茶を注いだ。



先日クラスだけで行われた模擬戦で、アイナはいくつもの魔法陣を駆使して皆のバッチを同時に狙い撃つという神技に近い所業を見せたのだ。


それは容赦のないアイタンによって無慈悲にも全て無効化されてしまい目標物に届くことはなかったが、あの魔法の精度の高さはちょっとした逸話になりつつあるのだ。



「やー、本当だよね。あの時のアイナさんすごくかっこよかったよ!」



ー ピシッ



キースの発言のすぐ後、割れ物にヒビが入るような嫌な音が聞こえた。


音に気付いたキースとエリナが同時に振り返る。その視線の先には、ヒビの入ったティーカップで優雅に紅茶を啜るレインの姿があった。


聡く理解した二人は無言でアイナ達の方に向き直ると、全力で話題を変えたのだった。




その後、頃合いを見て声を掛けてきたレインによって会はお開きとなった。


帰宅後、いつものように魔法の基礎訓練の後に夕飯をとったアイナは早めに寝支度をしていつもよりもだいぶ早い時間にベッドの中へと潜り込んだ。明日の模擬演習に備えるためだ。




「…眠れない」


アイナは、ベッドから上半身を起こした。


いつもよりも早い時間ということあるが、それよりも明日のことが気になってしまい、寝ようと思えば思うほど目が冴えてきてしまう。


最初は出来る分だけやろうと思っていたが、憎まれ口を叩きながらも決して彼女のことを見放すことがないレインの存在に、いつしか彼のために成果を出したいという気持ちになっていた。

そう思ってしまった以上、無自覚に己にプレッシャーを与えていたのだ。




「仕方ないから、本でも持ってこようかな…一瞬で眠くなるような小難しいやつを…」


ひょいっと寝台から降りた。


寝室にも本棚はあるのだが中身はからっぽであった。アイナが夜更かしするからとレインの手により寝室には最低限の家具しか置かれなくなったのだ。


そのため、いつも過ごしている廊下を挟んで向かい側の書斎兼リビングへと向かう。





「眠れないのか?」


ドアを開けると、そこには日中と変わらず机に向かって仕事をしているレインの姿があった。

彼はドアが開いた瞬間椅子から立ち上がって、アイナの元へと向かう。  


そして、自分が来ていた上着を脱いで彼女の肩に掛けてあげた。



「あ、ありがとう…」


澱みなく流れるような美しい所作で上着を脱ぐレインの姿にドキッとしたアイナ。

肩から訪れた温もりと共にふわりと良い香りに包まれ、肩に掛けられた襟元をぎゅっと握りしめた。



「うん、ちょっと眠れなくて…本を一冊借りようかなって。」


「よく眠れるものがあるが、ひとつ貸してやろうか?」


「え、いいの?」


レインからの提案に目を輝かせたアイナ。


安眠の魔道具を借りられるなんてありがたいと思った。

トルシュテ家では財政が厳しく値が張る魔道具とは無縁な生活であったため、純粋に魔道具に対する強い憧れもあったのだ。



「手出せ。」


言われた通りにアイナが手を差し出すと、その上にゆっくりとレインが手を重ねてきた。



「はい?」


「俺を貸してやる。」


「は?」


鳩が豆鉄砲を食ったような顔をするアイナに、レインがクスッと笑みをこぼす。



「俺が一緒に寝てやるよ。」


「はあああああああああああ!!?」


二人しかいない静かな部屋に、アイナの絶叫が鳴り響いた。




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