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学園デビューしたいのに、ツンデレ男が邪魔してくる  作者: いか人参


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お世話になります!


公爵家に行くのはこれが二回目。


一回目はまぁひどかった…。貴族のカケラも感じられない乗り合い馬車で行き、寒空の下でのお茶を要求する奇人のように振る舞い、あまつさえ隠し通すはずの変なドレスをチラ見せしてしまうという大失態。


あの時と比べれば、公爵家の馬車でレインと一緒に公式訪問、服装は当たり障りのない制服、がしかし…なぜこんなにも怖いと感じてるんだろう…

前回より何もかもが優っているはずなのに、このざわつく胸の正体は一体…

 



「何お前、ビビってんの?」


下を向いてぶつぶつ唱えているアイナに、レインは窓枠に肘をかけ、余裕たっぷりの笑みを見せつけてくる。



「ビビるって、なんで私が、」


あ…分かった。

前回と圧倒的に違うことが一つだけあった。私、一応レインの婚約者だった。これってもしかして、もしかしなくても…お相手の親に挨拶をするってビッグイベントなんじゃ…



「オーマイガッ」


「は?お前頭大丈夫か?」


いきなり非言語を口にしたアイナに、レインは完全に引いた目を向けている。


だが彼女にとってそんなことはどうでも良く、頭の中はレインの親に対する振る舞いやこれまでの経緯をどう話すかなど考えるべきことで溢れていた。



「安心しろ。」


下を向いたままのアイナの頬に両手を添えると、レインは無理やり自分の方に顔を向けさせた。

アイナが真摯な色をしたダイヤモンドの瞳に囚われてしまうと思ったのも束の間、ニヤリと悪いことを考えている表情に変わる。



「俺の親には、これが噂の俺が溺愛している婚約者ですってきちんと紹介してやるから。」


「やめてっーーーーーーー」


耐えきれず、耳を抑えて叫んだアイナ。

権力も美貌も血筋でさえも、何もかもが上回った人間からその親に対してそんなふうに言われては羞恥心で命を落としかねない。


実際にやり取りする様子を想像してしまったアイナは、しばらくの間恐怖に震えていた。




公爵家の敷地内に入った馬車は、関係者しか立ち入れないエリアまで進むと、白を基調とした邸というよりもやや豪華な一軒家といった印象の建物の前に止まった。


レインの手を借りて馬車から降りると、数名の使用人が頭を下げて出迎えてくれた。

高待遇に慣れてないアイナも慌てて会釈を返したが、必要ないとばかりにレインに軽く腕を引かれる。



料理人を除いてリリアしか使用人のいないトルシュテ家ではあり得ない光景であったが、この国で最も身分の高い貴族の家としては些か控えめな印象を受けた。

チラリと隣に立つレインの様子を窺うと、彼はフッと鼻で笑った。



「ここが俺の家だ。」


「はい??それはそうでしょう。だってここ、アルフォード公爵家の邸宅でしょ?」


周囲を気にしたアイナが小声で言ったが、返ってきたのは大きなため息であった。



「この一棟が全て俺の家。親は別の棟に住んでいる。と言っても、領地か王宮にいることがほとんどだが。」


「え?ご両親と別々に暮らしているの…?物凄いお金の使い方…さすがは公爵家…」


「まあな。だから親に挨拶する必要もない。顔を合わせることなんて無いからな。」


「それはよかっ…」


え、ちょっと待って…

両親が別の建物に住んでいる?顔を合わせることすらない?は…それってつまり、一ヶ月間レインと二人きりで暮らすってこと…!!?



脳内がパニックに陥りながら、だんだんと頬を赤く染めるアイナのことを、レインは嬉しそうに悪魔の微笑みで眺めている。



「良かったな、念願叶って。」


「は、は!?そんなわけないでしょうっ!!」


「何だよ、嬉しそうな顔してるくせに。」


「ちょっと!馬鹿なこと言わないでよっ」


レインの振る舞いに、使用人達は顔には出さないものの皆かなりの衝撃を受けていた。


親の前ですら常に敬語を崩さず張り付けた笑顔をしているレインが同世代の女の子と楽しそうに話すその様子に、彼も人の子だったのかとそんな目を向けている。


公爵家の厳しい教育を受けて、空から槍が降ろうとも微笑を貫く彼女達だったが、今はほんの少しだけ暖かな目をしていた。




アイナのことを散々揶揄って満足顔のレインは、さっと彼女の手から通学鞄を奪うと、彼女の手を引いて自分の家の中へと連れて行った。


こじんまりとしている、そんな印象を持ったアイナだったが、中に入るとそれは全くの勘違いだったと気付かされる。


玄関は吹き抜けになっていて夕方でもかなり明るく、想像した以上に広さを感じた。

そして、長い廊下に壁に飾られている一級品の絵画や骨董美の数々、靴で踏むことが申し訳なく感じるほど毛足の長い真紅の絨毯。



これ…本当に靴で踏んでいいの…??私の靴底、どんなだったかな…土とか落として汚しても弁償できないんだけどっ……



つま先だけで不自然に歩くアイナのことを、レインが一瞥する。



「…俺に抱えてほしいのか?」


「と、とんでもないですっ!!」


途端に地に足をつけ、背筋を伸ばしてしゃんとして歩くアイナであった。




「ここがリビング兼執務室のようなものだ。普段は一人で使っているから手狭だと思うが…いや、お前の家のダイニングの数倍の広さはあるか。悪いな。」


「いやちょっと、変なところで謝らないでよ…」


案内してもらった部屋は窓が大きくて見晴らしがよく、書庫と見間違うほどの大量の書物が壁際に並んでおり、反対側に目を向けると、明るい色を基調とした内装でソファーとローテーブルの置かれている空間があった。


アイナが来ることを意識してか、テーブルの上にはピンクの薔薇が飾られている。



「可愛い部屋…」


黄ばんだ壁紙の自室とは大違いだな、とアイナは羨ましそうな目で室内を見渡していた。




「基本的に家にいる時はここで過ごすことになる。食事もここに運んでもらうことになっている。寝室は隣の部屋だ。もちろん、お前の部屋も別で用意してある。」


「当たり前でしょ…………」


白い目を向けるアイナのことを無視してレインは説明を続ける。



「ここにある本は好きに読んでいい。この部屋には防御魔法の結界も張られているから、好きに魔法を試して構わない。だからお前は、この部屋でとことん特訓な。」


「そうでした…」


煌びやかな世界につい見惚れていたアイナだったが、そもそもどうしてここに来ることになったのか、その目的を思い出した。



「ああでも、ちゃんと定期的に魔力供給はしてやるよ。」


レインはニヤリと微笑むと、指先で自身の唇に触れた。



「きゃああああっ!!!」


二人きりの空間で暗に口付けのことを示唆されたアイナは、顔を真っ赤にして叫んだ。


いつまで経っても耐性が出来ず毎度新鮮な反応をくれるアイナに、レインはひどくご満悦であった。




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