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学園デビューしたいのに、ツンデレ男が邪魔してくる  作者: いか人参


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公爵家の影


よく手入れのされた庭園を一望できる大きな窓の向かい側、暗色で統一されたデスクと椅子が置かれている。

3人が並んで使えそうなほど広々としたデスクの上で、レインは山のような書類に目を通していた。


これはアルファード公爵つまりはレインの父親から与えられた仕事だ。


領民や分家から上がって来た魔道具の使用状況や魔力供給に関する嘆願書など、魔力領域はレインに一任されている。

各書類に自身の判断を記載し、最終決済者の公爵へと書類を上げる、それが日々彼が行っている仕事だ。




デスクに向かうレインの前、処理の終わった書類を回収すべく部屋を訪れていた執事のセバスチャンは彼に厳しい視線を投げ付けていた。



「なんだ」


レインは手元から視線を上げずに問う。その声は明らかな苛立ちを含んでいた。



「あのようなことはすべきでないと、そう進言したいのです。」


「公爵の差し金か?」


「それもございますが、わたくし自身も同じ考えにございます。お戯れとはいえ、度を超えております。あのような末端貴族に肩入れするようなことは…」


「黙れ。」


レインの低い声と共に、彼の魔力が激しく揺らぐ。部屋中に彼の魔力に乗った怒りが充満する。

今にも飲み込まれてしまいそうな恐怖に、セバスチャンの額に汗が滲んだ。

同時に、これまでに相対した誰よりも強い魔力に心を歓喜させていた。



やはりこの御方しかいない。


このアルフォード家が更なる権力を得て、絶対的な立場を得るには十分過ぎるほどの逸材。現当主様には無かった絶大なる圧倒的な力。


カターシス公爵家との縁を結べば、次世代には王家に匹敵する…いや、それ以上の力を掌握出来るやもしれぬ。

そのためには、まずあの目障りなオモチャを取り上げてしまわないと。いくらまだ学生の身分とは言え、将来を約束されている御方にいつまでも遊んでいてもらっては困る。


こんなことはただの気まぐれ、目の前から姿を消せばもう何も想うまい。


私は私の大義を果たすまで。

アルフォード公爵家に更なる栄光を。




「出過ぎた真似を大変失礼致しました。申し訳ございません。」


セバスチャンは腰を折り深く頭を下げると、書類を持って退出して行った。




「どいつもこいつも…」


レインは折れた羽ペンを床に投げ捨てると、また新しいペンを取り出し、休むことなく書類の上を走らせていた。




***




冬休みを目前に控え、期末テストが行われた。


一年生の時よりも科目数が増え、数日掛けて実施されたテストがようやく終わりを迎えた。




「なんとかやり切った………」


直前の一週間はレインによって徹底的にしごかれていたため、一気に緊張の糸が切れたアイナ。

ペンを離す気力もなく、握りしめたまま机の上に突っ伏した。

  



「トルシュテさん」


久しぶりに家名で呼ばれたアイナは驚いて顔を上げた。目の前にはマイカが立っていた。


ジュリアンヌとの一件があって以来距離を置かれていた相手のため、アイナは分かりやすいほどに目を丸くする。



え…なんでジュリアンヌの取り巻きが私に話しかけてくるの…???もう彼女が降りたから、マイカも同じように関係なくなったと思っていたんだけど……


今更声を掛けてくるなんて、

一体何のつもり?




「テスト、お疲れ様ですわ。」


「え、ええ。」


アイナに向かってにっこりと微笑む姿には何の邪念も感じられず、ついうっかり彼女と親しい間柄だったのかもなんて勘違いしてしまいそうになるほどの親近感があった。



「もうすぐ冬休みに入りますでしょう。わたくしの家でちょっとしたお茶会を開こうと思ってましてね、よかったらトルシュテさんもいかがかしら?」


胸の前で両手を合わせ、しおらしく首を傾げるマイカ。


ジュリアンヌのような美人特有のキツさはなく、親しみを感じさせる愛らしい振る舞いであった。




「何ですって!」


つい大きな声を出してしまい、慌てて口を押さえた。

分かりやすいアイナの反応に、ふふっと可愛らしく笑う気配がする。



こ、ここ、これは……………


待ちに待ったクラスメイトからのお誘いイベントってやつ!!?何それ、嬉し過ぎるんだけどっ。


………まぁ、冷静に考えれば私ではなくてアルフォード公爵家との繋がりが目的なんでしょうけど、この際何でも良いわ。まずは話さないと仲良くなれないもんねっ!!




「ええ、喜んで!」


「ふふふ、そんなに元気にお返事を頂けて、私も嬉しいですわ。では招待状を送らせて頂きますわね。」


マイカは嬉しそうに小さく手を振ると、カバンを手にして帰って行った。




「はぁ…可愛いし、良い香り…」


高位貴族特有の高価な香油の香りに、アイナはうっとりとした表情でマイカの背中を見送っていた。




「今度、君に合う香りを贈らせてもらおうかな。」

「ぎゃあっ!!」


いきなり背後から耳元で発せられた甘い声に、アイナは悲鳴を上げて椅子から飛び上がった。


そんな彼女の動きを予想していたかのように、両手を広げて待ち構えていたレインはアイナのことをふわりと抱きしめる。




「僕たちも帰ろうか。」


飛び跳ねそうになる心臓を抑えて必死に耐えるアイナに、レインは嬉しそうににっこりと微笑んだ。




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