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学園デビューしたいのに、ツンデレ男が邪魔してくる  作者: いか人参


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模擬演習の話には裏があった


二年生の最後に行なわれる模擬演習とはその名の通り、実践つまりは魔法を用いた戦闘を想定した形式で行なわれる。


とはいえ、貴族の子息子女に殺し合いなどさせるわけがなく、互いに魔力の込められたバッチを身体に貼り、それを撃ち合うというゲーム感覚で行なわれる乱戦のようなものになっている。


相手のバッチに自身の魔力を当てると、その魔力は吸収されて色が変わり、誰に当てられたか分かる仕組みになっている。


演習終了後、自分の色が多かった者上位3名が優秀者として表彰され、成績に加点されるのだ。




各人が身に付けるバッチは貴族階級によって大きさが異なっており、高位になればなるほどその大きさは大きくなる。これは、生まれ持った魔力差を埋めるための配慮だ。


基本的に変わるのはその大きさのみだが、稀に貼る場所すら考慮される場合がある。

圧倒的な魔力量を保持する場合は、胸ではなくより狙われやすい背中にバッチを貼られる場合もあるのだ。


伯爵家は指で作った円ほど、侯爵家は手のひらの半分ほど、公爵家は手のひらほどの大きさのバッチが与えられる。

公爵家の中でも最も魔力量の多いとされている白髪のレインは、背中に両の手のひらほどの、もはやバッチとは言えない代物を取り付けられる手筈になっている。



ここまでアイタンの丁寧な説明を聞き、アイナは真剣な顔で顎に手を当て自分が撃ち合う様をイメージしていた。


魔力を当てる…


殺傷能力さえ無ければ魔法の出力形式に制限はなしか…それなら私にもチャンスがあるかもしれない。

威力は不要で当てるだけで良いなら、レインに習った魔力操作の技術できっと太刀打ちできる。


それに、魔法でやり合うなんて、ファンタジー過ぎて嫌でも胸が高鳴るっ………!くうっ!この国では、生活魔法くらいしか使わないから、戦闘で使うことなんてないんだよね。


これこそ、学生だから出来る醍醐味!


命の危険もケガの心配もないし、磨いた技術を試すにはまたとない好機。ふふふふ…こうなったら、ダークホースとして存分に活躍してバッチを総取りして1位を目指そう!!


やっぱり、人から一目置かれたり慕われたりするには、実積が必要だよね。せっかくレインの地獄の特訓に喰らい付いてるんだから、今度こそクラスの人気者になるべく結果を掴み取るっ!!!!



なんだかんだと言いつつ、まだクラスの人気者になりたいという欲求は無くなっていないアイナ。拳を握りしめ、決意に燃えていた。


だが、ふとアイタンの説明で抜け落ちていたものがあることに気付いた。



「そういえば、男爵家のバッチってどのくらいの大きさなの…?このくらい?」


指で何かを摘むような仕草をしたアイナ。



「ああ、それはね、」

「ない。」


レインがアイタンの言葉を遮ってきた。



「は」


なにそれ、スーパーラッキーじゃない?狙われることなく、狙うことだけに専念できるなんて………いや待て、おかしい。これは絶対裏に何かある…だってレインのあの顔…



レインは、アイナのことを見るとニヤリと意地の悪い笑顔を浮かべていた。

いつもの嫌な展開に、アイナは恐る恐る片目をつむりながら彼の顔を見返す。



「子爵家以下は模擬演習の参加対象外だからな。参加しない者の規定なんて普通ないだろ。」


「は……………………………」


何かしら裏があると身構えていたものの、レインの回答はアイナの予想の遥か上を超えていった。


参加対象外なのに、これほどまでにレインとの訓練で追い打ちをかけられてきた事実に、ふつふつと怒りが込み上げてくる。

その怒りを全力でレインにぶつけようとした瞬間、彼の方が先に言葉を発してきた。



「今回は、特別に男爵家のお前も参加できるように学園側に手配済みだ。だから何も問題ない。」


「アイナさん、よかったね!」


明後日の方向に気遣いを見せるとレインと、相変わらず能天気に返事をしてくるアイタンにアイナがブチギレた。



「問題ないわけないでしょう!!!大アリよ!なんで最弱の私が高位貴族達とやり合わないといけないのよっ!!!一番に狙われて一番に終わるわっ!!!それもめった撃ちにされるわっ!」


肩で息をするほど大声で捲し立てたアイナに、レインは隣に座っていた彼女の肩を抱き優しく自分の胸へと抱き寄せる。



「安心しろ。」


自信に満ち溢れた確固たる声音に、アイナはトクンッと鼓動がした気がした。

レインが守ってくれるとそう言ってくれているような心強い気持ちになる。


アイナは身体の力を抜き、抱きしめられるがまま彼の胸に重心を預けた。




「格上の者にも太刀打ち出来るように、俺が本気でお前のことを鍛えてやるから。」


「はぁっ!!?」


がばっと勢いよくレインの胸から身体を離したアイナ。



「それって結局私の努力次第ってことじゃない!!なんなのよそれはっ!!レインの悪魔っ!」


「は?だから手伝ってやるって言ってんだろ。」


「だーかーらーそうじゃなくって!!!」


「あははははー」


ぎゃあぎゃあと暴れて騒ぐアイナとそれを迷惑そうにしているレインに、アイタン腹を抱えて笑っていた。




「おい、この馬鹿。」


自分の腕の中から逃げ出そうとするアイナをかっちりと拘束し直したレイン。

腕の中でまだ暴れているアイナの敵意を喪失させるように、耳元で囁いてきた。



「俺は、お前に他の奴らの魔力になんて絶対に触れさせない。残滓ですら触れさせてやるか。」


「!!」


レインの本音だと感じさせる宣言に、アイナの顔は真っ赤になってしまった。

自ら欲しがった言葉のはずなのに、こうも真正面から言われるとどうして良いか分からなくなる。


返す言葉を考える余裕すら無くしたアイナは、にやにやと笑うアイタンの前で、レインに抱きしめられていることしか出来なかったのだった。





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