素直じゃないのはお互い様
「馬鹿みたいに努力家なところ、馬鹿みたいに素直なところ、馬鹿みたいに前向きなところ、馬鹿なくせに勉強は出来るところ、馬鹿みたいに…」
「ちょ、ちょっと待って!!」
鼻先をつけたまま、取り止めもなく言葉を続けてくるレインに、アイナが待ったの声をかけた。
だが、顎に添えられていた彼の手はいつの間にか彼女の後頭部へと回り込んでおり、この場の主導権は彼が掌握していた。
「は?邪魔すんなよ。」
「い、一体これは何の話……………………」
「何それ、俺に言わせたいの?」
「……やっぱりいいです。ごめんなさい。」
「俺がお前のことを好きな理由だ。馬鹿。」
「いやあああああああああっ!!言わないでって言ったのに!!」
レインの眼前で真っ赤になって悶絶するアイナに、彼は横を向いて大きく息を吐いた。そして、目を逸らしたまま拗ねたように呟く。
「お前が言ったくせに。」
「え………は、えっ!!??」
「耳元でうるさい。」
ようやくレインの意図を理解したアイナ。
捨て台詞のように言った自分の言葉に対してレインが応えてくれたのだと分かり、抱え切れないほどの嬉しさで胸が熱くなるのと同時に、羞恥心で瀕死状態に陥った。
「で?お前の気持ちは?」
「……嫌じゃないと思う。」
恥ずかしさと突然のことで上手い言葉が浮かばず、つい可愛げの無い言い方をしてしまったアイナ。
すぐに後悔して言い直そうとしたが、それよりも速くレインが凄みをきかせてくる。
「何それ、俺に喧嘩売ってんの?」
「えっと、そういうわけではなくて…素直じゃないし口は悪いし二面性は怖いけれど、」
「おい」
「いてっ」
正直過ぎるアイナの気持ちに、レインはたまらず頭突きをしてきた。
「でも、本当は誰よりも優しくて気遣いが出来て人の気持ちに寄り添える人だと思う。だから私もレインと一緒にいると楽しいし、温かい気持ちになれる。それに、いつだって何回だってこんな私のことを助けてくれる。レイン以上に素敵な人に出会ったことないよ。」
「……もういい、黙れ。」
今度は素直過ぎるアイナの言葉に、レインは耐え切れず遮ってきた。ほんの僅かにだけ、彼の耳が赤くなっている。白を象徴とする彼には、珍しい現象であった。
「レイン、今日も助けてくれて本当にありがとう。」
「何度だって俺が助けてやる。だからもう二度と手を離すな。」
「うん。」
当然のことだと涼しい顔をしているレインと、気恥ずかしそうに赤らんだ顔で微笑むアイナ。
互いの気持ちを確かめ合った二人は、手を取り支え合いながら一緒に立ち上がった。
辺りはもうすっかり暗くなっていた。
「そういえば、レインはどうしてこの場所が分かったの??」
レインの乗ってきた馬車へと戻る道すがら、疑問に思っていたことを尋ねたアイナだったが、隣を歩く彼の視線は前を向いたままだ。
「あ…もしかして、このブレスレット??逆探知して居場所が分かったりするの?」
「・・・」
「あれ、ハズレ?他に何か目印になりそうなものなんてあったっけ…家族にも街に行くとしか言ってなかったし…この場所は誰も知らないはず…」
「魔力」
独り言を言いながら推理を始めたアイナに、レインは一瞬鬱陶しそうな目を向けると、めんどくさそうに口を開いた。
「魔力??私の魔力って遠方から検知できるほど保有してないと思うんだけど…そんなすごい魔法なんてあったっけ?」
「お前のじゃなくて、俺の。」
「レインの魔力?貴方の魔力でどうして私の居場所が…って、もしかして…あの倒れた時にレインの魔力を分けてもらったから!?私の中に流れる魔力で居場所を探知出来るってこと……?なにそれこわっ。」
色々と想像してしまい恐怖に支配されるアイナを無視して、レインは繋いだ手を引いたまま淡々と馬車までの道を歩いて行った。
その無表情の裏で、実は焦っていたレイン。
とてもじゃないが、これで怯えているアイナには真実は言えないと思っていた。
アイナの居場所が分かるようになったのは、初めて彼女の手の甲にキスをしたあの時からだということを。
契約の口付けのフリをして、自らの意思で自身の魔力を忍ばせていたなどアイナには口が裂けても言えない。
良いように勘違いをしてくれたため、レインは都合よくそのままにしておくことにした。
「レイン?…うわっ」
なんとなく気まずそうにしている雰囲気を察知したアイナがレインの名を呼んだが、返事の代わりに頭をぐしゃぐしゃと粗雑に撫でられてしまった。
アイナは結局よく分からないまま、レインに手を引かれて歩いて行ったのだった。




