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学園デビューしたいのに、ツンデレ男が邪魔してくる  作者: いか人参


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美味しい話には裏がある?


「もしかして、口に合わなかったかな?」


カフェを出てすぐ、顔面蒼白で震えているアイナにシエンは焦った様子で尋ねた。

彼の表情には、自分が何かしでかしてしまったのかもしれない…と自責の念が溢れ出ている。



「そんなことないよ!とても美味しかった!でもごめん、あんなに高価だとは思わなくて…」


チラリと見えてしまったオーダー用紙に書かれていた金額のせいで、アイナは顔色を悪くしていた。

そこには、彼女の想定を遥かに上回る金額が書かれており、それは学生が支払うような金額では無かったからだ。



「それなら良かった。お金のことは心配しないで。僕って物欲がなくて、お金の使い道に困ってるくらいだから。」


「そうなんだ…」


「うん。だからアイナが喜んでくれれば僕はそれだけで満足なんだ。」


なんて紳士な返答なんだろう……私に気を遣わせないように逆に気遣ってくれたんだろうな。

でも、恋人でもないのにこれ以上お金を使わせるるわけにはいかないから、立ち寄るお店には気を付けよう。

この調子でお金を使われてしまっては、こちらも何か差し出さないといけない気持ちになっちゃうし……




「あのお店に寄っても良いかな?」


シエンは繋いでいたアイナの手を引くと、彼女の返事を待たずに歩き出した。

本来の目的である本屋に行く気はまだ無いらしい。



「別に良いよ…って、あのお店に何か用事でもあるの?」


シエンの指した先には、いかにも入りにくそうな立派な建物の宝石店があった。

ここは、伯爵家以上の高位貴族達が贔屓にしている婚姻の儀に使うための宝石を扱っている店だ。


決して、学生の身分で行くような店ではない。

 



「アイナと初めて出掛けた日だからね。何か記念になるものを君に贈りたいなど思って。」


「け、結構ですっ!!!」


アイナは今度こそ大きな声で拒絶の意思を示した。さすがに今度ばかりは善意の度を超えていると思ったのだ。

店に行けば、見るだけと言いながら勝手に買われてしまいそうだと思ったアイナは、足に力を入れてその場に踏み止まった。



「ごめん…恋人でもない相手からの贈り物なんて迷惑だったよね…」


途端にしゅんとして肩を落とすシエン。

その瞳からは光が消え、アイナに拒絶されたことで絶望に染まっていた。



「ええと、そうだけどそうじゃなくて!そんなに色々ともらうわけにもいかないから…それに私、アクセサリーとかあまり興味ないし…」


「アイナの気持ちは分かったよ。困らせてごめんね。その代わりと言ってはなんだけど…今から僕の行きたい場所に連れて行っても良いかな?眺めがすごく良いところなんだ。もちろん、お金はかからないよ。」


「もちろん!一緒に行こう。」


「ありがとう、アイナ。」


これ以上シエンに悲しい顔をしてほしくなかったアイナは、誘いに快諾した。こんなに良くしてもらっているのに、恩を仇で返すような真似はしたくない。

この時にはもう、アイナは街に出てきた目的など忘れてしまっていた。


シエンに手を引かれ、近くに停めていた馬車へと戻って行った。




邸とは反対方向に進む馬車に乗って40分ほど、シエンが見せたいと言っていた場所に到着した。


そこは、ロックハート伯爵家の有する花畑が並ぶ土地であった。

彼の家は王都で花農家を営んでおり、ここで栽培した花々を王都の店へと卸しているのだ。


街から近いこの場所は、貴族から需要のある花を鮮度良く運搬出来るため価値が高く、広くはない土地だが大切な収入源となっている。



秋が深まった今日日、今が見頃であるコスモスやパンジー、ビオラなどが整備された区画ごとに咲き誇っていた。

背の低い色とりどりの花々が一面に咲く様は、御伽噺に出てくるような見事な花畑であった。




「ものすごく綺麗っ!!」


馬車を降りた瞬間、目の前に広がる光景に目も心も奪われたアイナ。


花壇を畑に変えてしまうほど花に思い入れのない性格をしていたが、そんな彼女でも感嘆するほどの絶景であった。




「ふふふ、気に入ってもらえたようで嬉しい。ここは僕のお気に入りの場所なんだ。とても心が安らぐから、大事な話をするのにもちょうど良いなって思ってたんだよ。」


「本当に…広々とした青空の下で咲き誇っている花々って心洗われる光景よね。天気が良くてよかった!」


「アイナ」


「っ!!」


花にしか目がいって無かったアイナだが、名前を呼ばれてシエンの方を向くと、その姿に絶句した。


美しい花畑を背景に、自分に向かって貴公子の如く跪くシエン。

彼はアイナに向かって真っ直ぐに手を伸ばすと、緊張した面持ちで彼女への想いを口にした。




「僕は君のことが好きだ。誰かと違って、この想いを曖昧にすることはない。だからどうか、この手を取ってくれないだろうか…」


「う、そ………」 


「嘘なんかじゃない。戻ったらすぐにでも婚約の書類を用意しよう。」


「婚約って…私たちまだあまり話したこともないのに…急にそんなことを言われても…」


「僕のことを想う気持ちがほんの少しでもあるのなら、どうかこの手を取って欲しい。二人の仲はこれから深めていこう。…僕は不安なんだ。だから、一刻も早く君を僕のものにしたくて正直焦ってる。」


「でも、こういうのは焦って決めるような話じゃないと思うし、その…家族にも話をしてからじゃないと…」


レインがアイナのことを口説くと言っただけで大騒ぎをした家族のことを思い出したアイナ。

それを引き合いにしてこの場を収めようとしたのだが、それは逆効果となってしまった。


アイナの言葉を聞いたシエンは、大きく息を吐きダルそうに立ち上がった。

そして、膝についた土埃を手で払うと、つい先ほどまで大きく輝いていた瞳をすっと細めて睨み付けてきた。




「めんどくさ…もういいよ。」


その声はひどく冷徹で鮮明な怒りを孕んでおり、アイナに対して愛を伝えていた彼ともはや全くのは別人であった。





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