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学園デビューしたいのに、ツンデレ男が邪魔してくる  作者: いか人参


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聞いていた話と違うんですけど


「アイナさん、急に僕の買い物に付き合わせてしまってごめんね。でもどうしても、君に魔力理論の本選びを手伝ってもらいたかったんだ。自分じゃよく分からなくて…」


「ううん。私も暇でやることなかったし、大丈夫だよ。」


「ありがとう。そう言ってもらえてすごく嬉しいよ。」


アイナの返事を聞いたシエンは、嬉しそうにふわりと微笑んだ。

すぐ真横から微笑みを向けられたアイナは、僅かに頬を引き攣らせている。




アイナは今、迎えにきたロックハート伯爵家の馬車で街へと向かっていた。


彼女が急ぎ返事を欲しいと言われたあの手紙には、『出来れば今日、魔法理論に関する本の選定を手伝ってもらいたい』といった趣旨の内容が書かれていたのだ。


当日の誘いに驚いたものの、一人悶々としていたアイナは迎えに来てくれるという誘いにありがたく乗ることにした。





「ん?どうかしたかな?」


「…ううん、何でもない。」


…ちょっと、いやかなり距離近くない???この世界って、男女で隣に座るってアリなんだっけ…???


こんなのレインに知られでもしたら殺され…って、別にもう彼は関係ないんだった。余計なことを考えるのはやめよう。

ロックハートさんだって、特に深い意味はなく、単純にここが定位置だったのこもしれないし。そりゃ、知らずに彼の定位置の隣に座った私が悪いよね。帰りは反対側に座ることにしよう。




「ロックハートさんは、具体的に魔法理論のどの部分を学びたいの?結構幅が広いよね。専門書も領域別に細分化されて……え?」


シエンの学びの役に立つためアイナが彼の要望を掘り下げて質問しようとした時、真横からじっと見つめてくる茶色の瞳に気付いた。


アイナは無意識に、その柔らかな印象を持つ瞳は、どこか猫のような愛くるしさがあってあのダイヤモンドの瞳とは全くの別物だなと比較していた。




「クラスメイトでしょ?もっと気軽にシエンって呼んでよ。苗字にさん付けなんてよそよそしいからさ。」


「ふふっ」


「どうしたの?僕何か変なことでも言ったかな?」


「あ、ううん。男の子って、名前呼びに拘るんだなって思っちゃっただけだよ。」


自身の予想とは真逆の、誰かと比べて笑ったアイナのことを、シエンはどこか悔しそうな翳りのある表情で見ていた。




「着いたみたいだね、行こうか。」


シエンはアイナの話に応えることなく立ち上がると、彼女に手を差し出した。そして、無邪気な笑顔で微笑み掛けてくる。



「あ、ありがとう。」


これが紳士のマナーとはいえ、なんとかく手を繋ぐことに気が引けたアイナは、出来るだけ控えめにその手を取って馬車から降りた。




「すごい…久しぶりに来たけれど相変わらずの賑わいだ…書店は確か一本先の大通りの…って、そっちだと反対方向じゃない??」


「うん、せっかくだからカフェにでも寄ろうかなって。ちょうどお茶の時間だし。甘いものは好きかな?」


「あ、うん。好きだよ。」


うん、普段甘いものを控えている私にとってカフェで食べる甘味なんて至上の幸せなんだけど…その控えている理由が金銭的理由なんですって…そんなこと言えない。。。


王都の相場知らないけど、絶対に学食より高いよね?

買い物に付き合うだけで馬車も出してくれるって言ってたからお金なんてほぼ持ってきてないんだけど…どうしよう…誠心誠意お願いして立て替えてもらう??優しそうだから、お金くらい貸してくれるかな?いやでも、クラスメイトのしかも異性にお金を借りる女ってどうなのよ…………




「アイナ?もちろん、僕がご馳走するからね。だって今日は僕が無理言って付き合わせたんだから。何も気にしないでね。」


「何から何まで……ありがとうっ!」


「ふふふ。こんなことで喜んでくれるならいくらでもどうぞ。」


不安そうな顔から一気に華やいだ笑顔を見せるアイナに、シエンは嬉しそうに笑っていた。




って、あれ………………………


どさくさに紛れて今この人『アイナ』って呼び捨てにしなかった…??言い間違えただけ、かな?


ちょいちょい距離感おかしいなって思ってたけど、さすがに恋人でもない女性のことをいきなり呼び捨てにはしないよね。たまたまだよね。そうだよね。え、そうであって欲しいんだけど…




「ん?呼び捨てにしたことならわざとだよ?僕はもっと君と仲良くなりたいんだ。…良いかな?」


頭の中でぐるぐると考え込むアイナに、シエンは親しげに微笑み掛けてくる。

その顔は、気遣わしげな言葉とは裏腹に、絶対に断られないという自信に溢れていた。


ダメ押しとばかりに、猫のような茶色い瞳を丸くさせてうるうると見つめてくる。




「も、もちろん!」

「ありがとう。すごく、嬉しい。」


ぱっと明るい笑顔を見せたシエン。

花が飛びそうなほどのにこやかな表情で隣を歩くアイナのことを見つめてくる。



な、なんなんだのこの人!!何というか、レインとはまた別の意味でドキドキさせられる………

一度でも拒絶したら泣き出してしまいそうな危うさがあるわ。これが庇護欲を掻き立てられるってやつなのか…………


うん、なるべく悲しませないように気を付けよう。せっかく、休日に遊べるくらいに仲良くなたんだから。


 


「ここ、一度行ってみたかったんだ。王都では人気のお店なんだって。」


「すご…ものすごい行列だね。これは相当人気なんだなってよく分かる。」


「ふふふ、そうだよね。」


そう言いながら笑顔のシエンはアイナの手を引き、ずんずん列を抜かして店の中へと入っていく。

並ばずに入り口へと向かうアイナ達に非難の視線が突き刺さる。




「え、ちょっと、これちゃんと並ばないと…」


「いらっしゃいませ、ロックハート様。お待ちしておりました。どうぞこちらへ。」


「はい………???」


アイナだけが焦る中、気付いたら高級な調度品の数々が並ぶ豪奢な雰囲気の個室に案内されていた。

真っ白な大理石と銀細工で出来た重厚なテーブルにソファーが置いてあり、なぜかシエンと横並びに座っているアイナ。

 



「驚いた?アイナのことを喜ばせたくて、人気のお店を取っておいたんだ。気に入ってくれるといいんだけど。」


「そんな…もちろんすごく素敵なお店で驚いたけれど、私にそんな気を遣わなくて良いのに。いつも平民街のお店を利用してるし、ここはちょっと場違い、かと………」


「そんなことない。」


シエンは、すぐ隣に座るアイナの手を取り両手で握り締めてきた。

透き通るような透明感のある茶色の瞳を真っ直ぐに向けてくる。



「こんなにも素敵な君には、王都で最も人気のある店でないと釣り合わないよ。」


「え」


ちょっと待って、なんか思っていたのとだいぶ違うんてすけど……これなに、どうしたらいいの??というか、なんか雲行き怪しくない???これ、クラスメイトの買い物(それも真面目な勉強の本!)に付き合うってそんな話じゃなかったっけ?


え、私どこで何を間違えたんだろう………




またもや一人焦るアイナのことを置き去りにして、シエンはこの店一番の人気メニューであるティースタンドを二人分注文していた。


彼のその横顔はとても満足そうであった。




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