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学園デビューしたいのに、ツンデレ男が邪魔してくる  作者: いか人参


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自分の心が見当たらない…


「つ、つかれた…………」


実技の授業から教室に戻る途中、アイナは周囲から身を隠すように校舎裏のベンチに腰掛けていた。


夏休みが終わってから一月近くが経ち、この時間の風は心地よい。


今日の授業は全て終わり、本来であれば実技用の専用着から制服に着替えた後教室に戻るのだが、訳あってアイナはここでひとり時間を潰していた。



その訳とは、もちろんレインだ。


自分はアイナに絶賛片想い中だとクラスメイト達に宣言されてからと言うものの、隙あらばアイナに近づき親切にしたり愛でたり甘い言葉を言ってきたりするのだ。


それだけで十分過ぎるほど心臓に悪かったのだが、アイナにとってそれよりも何よりも周囲からの視線がキツかった。


レインのこ言葉や行為をあしらえば何様のつもりだと睨まれ、笑顔を返せば自惚れていると嘲笑われる。


周囲からの目が気になってしまい、ついには自分の心を見失っていた。




「注目浴びるの憧れてたけど、こういうのじゃないんだよなぁ…」


アイナは、ベンチに背中を預けて空を仰ぎ見た。行儀の悪い姿勢であったが、そのまま思い切り伸びをして息を吐く。




「アイナさん?」


「いっ!!!」


突然名前を呼ばれ、アイナは腹筋を使って姿勢を戻すと勢いよくベンチから立ち上がった。

避けていた相手かもと思い、ゆっくりと首だけを動かして声がした方を振り返る。




「ふふふ、アルフォードじゃないから安心して。」


「よ、良かった…」


声をかけて来たのはシエンだと知り、アイナの緊張は一気に解け、ベンチに座り直した。




「その反応、やっぱりアルフォードのことで困ってるの?」


「それは…まぁ…」


目の前にいる彼は、レインには近づくなと言われていた相手だったため、アイナは曖昧に返事を返す。

一方のシエンは、やっぱりそうなんだと言いながら平然とアイナの隣に腰掛けて来た。



「僕には、彼がアイナさんのことを揶揄っているように見えて心配なんだ。」


真横に座ったシエンは、身体ごとアイナの方を向いて不安そうに目を伏せる。



「こんなこと言うのは失礼かもしれないけど…彼にちゃんと告白された?婚約しようって言葉で伝えてきた?」


「それは……」


あれ………そういえば告白やプロポーズみたいなのは無かった…かも。


好きだの恋焦がれているだの口説き落とすだの、そういうニュアンスの言葉は星の数ほど耳にしたけれど、肝心なことは何も言われてないな…


外堀ばっかり埋められてるけど。


それってやっぱり、

そういうこと、なのかな…




「アイナさん、騙されないでね。僕らと違って何でも手に入れられる彼は、靡かない君のことを物珍しがってるだけなんだよ。」


「そう…だよね。」


ああたしかに…そうだった。

最初は私もそう思ってたんだっけ。


でもいつからか、そう思わなくなっていた自分がいたんだよね。

彼の瞳が声が触れ方が、本気だって示してくれている気がして…でもこれも自惚れだったのかな…


情けないな…




「ごめん、君のことを悲しませたかったわけじゃないんだ。ただただ心配で…でも余計なことを言い過ぎてしまったね。」


「ううん、大丈夫だよ。気にかけてくれてありがとう。」


「ありがとうだなんてそんな…僕はいつだって君の力になりたいって思ってるから。ねぇ、良かったら今度、気分転換に一緒に出掛けない?」


シエンはパッと笑顔になり、瞳を輝かせて提案して来た。

そのあまりの変わりように、アイナは思わずクスッと笑みを溢してしまった。


だが、レインの言っていたことを思い出し、すぐに真顔に戻る。




「でも、その…婚約している方がいるんでしょ?それなのに、私と出掛けたら相手に迷惑が掛かるんじゃない…?」


「あ、もしかしてそれ、アルフォードから聞いた…?」


隠す必要もないと思ったアイナは、こくりと頷いた。



「それ、嘘だよ。」


「はい???」


「随分前に婚約解消しているから。それに、小さい頃に親が決めていた相手だったから互いに情すらない関係だよ。」


「そうだったんだ…ごめん私知らなくて…」


「ううん。アイナさんは悪くないよ。彼が僕のことを遠ざけたくてついた嘘だと思うし。だから気にしないで。」


「…ありがとう。」


シエンは立ち上がるとアイナに手を差し出した。



「もう帰ったと思うから、そろそろ教室に戻ろうか。」


「うん、そうだね。」


アイナは差し出された手を借りてベンチから立ち上がった。

それだけのつもりだったのに、シエンは手を離してくれず、手を繋いだまま歩き出してしまった。




「あの、手…」


「教室までの間くらい、ちゃんとエスコートするから安心して。そこまで甲斐性無しじゃないよ?」


そう言って微笑んできたシエンに、なんだか申し訳ない気持ちになってしまったアイナは、手を引かれるまま歩いて行ったのだった。




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