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学園デビューしたいのに、ツンデレ男が邪魔してくる  作者: いか人参


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刷り込みって怖い


舞踏会の始まりを告げるレインとジュリアンヌのダンスが終わり、美しい姿勢でお辞儀をする二人。

会場からは割れんばかりの拍手が送られた。


美男美女がにこやかに微笑んで隣り合う様に皆見惚れ、感嘆の息を漏らしている。


この次はいよいよ一般のデビュタント達がフロアに出る番だと言うのに、二人のダンスの余韻に浸る参加者達は惚けており動く様子がない。




「兄様、さっさと行きましょう!」


本来であれば、男性の方からエスコートの腕を差し出し、女性がその手を取ってゆっくりとフロアに出るものなのだが、早くこの場を去りたいアイナはケルストの腕を両手で引掴んで引っ張って行こうとする。



「おいっ。分かったから一度離せ!」


兄妹でぎゃあぎゃあ騒ぐアイナ達に、周囲からは非難の視線が飛んでくる。


これだから黒髪共は…そんな差別発言をしている者もいた。




「ん??」


どういうわけか、いきなり周囲の喧騒が止み、辺りが静まり返った。

アイナ達が注目されていることには変わりないが、向けられる視線の種類が変わる。


その視線は非難から驚愕、そして好奇へと順を追って移り変わっていく。




ー コツ、コツ、コツ


そして、人垣の奥から自分の方に向かって近づいてくる音がするのに気付いたアイナ。


厚みのある革底で、丁寧にゆっくりとした足取りで歩く足音だ。

その音は一切乱れることなく、一定のテンポで迷いなく進んでいることが分かる。


真っ直ぐに近づいて来た相手は、アイナの前で足を止めると、にっこりと微笑みかけてきた。




「僕の贈ったドレス、着てくれたんだね。」


そこには、瞳を輝かせて嬉しそうに微笑むレインの姿があった。



「なっ」

「君は、一体どういうつもりだ!これ以上妹に恥をかかせる真似は許さんっ!!」


声を掛けられたことに驚いて言葉を失うアイナの代わりに、ケルストが激昂した。

レインからアイナの姿を隠すように一歩前に出る。



邪魔してくるケルストに、レインはすっと目を細めて一瞥を返した。

その一瞬の威圧で初めてレインと相対した時のことを思い出したケルスト。


生命としての防衛反応により、無意識に一歩後退する。




「何か、勘違いをされているようですね。」


レインは冷ややかな声音で言うと、穏やかな表情のままケルストに一歩詰め寄る。

そして、表情を強張らせる彼を素通りして後ろにいるアイナの腕を掴み、自分の元へと引っ張り出した。



「え、は…!?ちょっと…!!」


アイナは気付いたらレインの腕の中に収まっていた。

多くの観衆の目が集まる中でのこの仕打ちはアイナにとって拷問でしかなく、一刻も早く彼の腕から逃れようともがくが、相変わらず馬鹿力の彼の腕はびくともしない。


それどころか、アイナに甘えるように後ろから抱きしめている彼女の頭の上に、自身の顎を乗せてきた。



「「「キャアアアアアアッ!!」」」

「いっ…!!!!」


周囲を取り囲んでいる女性達から黄色い悲鳴が上がる。

そして、アイナからは呻き声のような声にならない声がした。




「僕が恋焦がれている相手はアイナだけです。カターシス公爵令嬢のパートナーを務めたのは、彼女の父上から要望を頂き僕の父がそれを許諾したからという貴族らしい理由です。このことに、当人の意思はありません。」


レインは、周囲に見せ付けるようにアイナのことを抱きしめたまま、ケルストに身の潔白を証明してみせた。

はっきりと言われてしまったケルストは何も言えず、悔しさで奥歯を噛み締める。



「だ、だがそれは君の勝手な話であり、そこに妹の、アイナの意思は無いのだろう?もうこれ以上妹のことを巻き込むな。」


「おっしゃる通りです。だから僕は、」


言葉を止めたレインは、アイナの顔を覗き込むように横から回り込んできた。




「これから本気で彼女のことを口説き落とすつもりです。」


「!!」


しっかりと目を合わせてとんでもないことを言ってきたレインに、アイナは呼吸を止めて身体を硬直させることしか出来ない。


もう色々と心が限界だった。

だが、さらに追い討ちをかけてくるレイン。




「ほんとはもう俺に落ちてるくせに。」

「なっ…………!!」


アイナだけに聞かせるように耳元で低く囁かれた言葉に、思わずすぐそばにあるレインの顔を見返してしまう。

ニヤリと笑うダイヤモンドの瞳と目が合った。


 


「アイナ、君の初めての一曲をどうかこの僕に。」


気付いた時には、ひどく真剣な顔でエスコートの腕を差し出すレインが目の前にいた。


思い切り断るか、それとも嫌味の一つでも言ってやるか、頭の中ではやり返す算段を考えていたアイナだったが、身体が勝手に動いてしまった。



「え」


反射的にレインの腕を取ってしまった自分に驚いて声が出た。


授業で何十回とレインのエスコートを受け続けたアイナ。

彼に差し出された腕は取るものだと脳に刷り込まれてしまっていたのだ。


そんな彼女の反応に満足そうに微笑むと、レインは何か文句を言っているケルストのことを涼しい顔で無視して、ダンスフロアへと進んで行った。






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