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学園デビューしたいのに、ツンデレ男が邪魔してくる  作者: いか人参


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ちょっと思っていたのと違う…


貴族女性が身に纏うドレスというものは、自分若しくは恋人の瞳や髪の色と同じものを差し色或いは基調色として選ぶことがほとんどだ。


自身の色の場合は、単純に良く似合うからという理由であり、相手の色を身に付けることは相手の独占欲を満たすためのものとなる。


よって、ドレスを一目見れば、意中の相手がいるのか、それは一体誰なのか、大体の検討がつくものなのだ。




そして、今日はデビュタントとして舞踏会に挑む当日、ドレスに対して人並みの知識を持ち合わせているアイナは、鏡の前で固まっていた。


ジュリアンヌと色々あり、レインにも散々揶揄われながらも無事に夏休みに入ることが出来たと思っていたのも束の間、このタイミングで試練に立たされるとは思いもしなかった。



「お嬢様、とてもお似合いですよ。さすがは公爵家からの贈り物ですね。大変素晴らしい生地に流行りのデザイン、顰蹙を買わない程度の適度な豪華さ、とても品よくまとまっております。これなら会場中の注目を浴びること間違いなしですね。」


「それはそうなんだろうけど………………」


「何か気に入らないことでも??」


主人を着飾ることが出来て大変満足なリリアは、アイナが不本意な顔をしている理由がさっぱり分からない。


髪型も化粧も肌の手入れもいつも以上に完璧なはず、それなのになぜ…と頬に手を当て真剣な眼で悩んでいる。




「アイナ、そろそろ行かないと…」


本日のアイナのパートナー役となる、兄のケルストが部屋にやって来た。


彼も正装である黒のタキシードを着て前髪を上げ、バッチリと整えている。




「随分と染められたな………」


「はっきり言わないでっ!!!!」


ようやくツッコんでくれる人物が現れたのだが、こうもはっきり言われてしまうと、それはそれで恥ずかしい。アイナは複雑な胸中を覗かせた。


そんな彼女は、レインから贈られた大変立派なドレスに身を包んでいるのだが、問題はその色味にあったのだ。


軽さのあるシルクを何層にも重ね合わせた華やかなドレスは、誰かさんを彷彿とさせるような見事な純白であった。



衣装ケースに入っている段階ではごくごく一般的な黄色味がかったオフホワイトくらいに見えていたのだが、それはカバーについていた色味だったらしい。

いざ着てみると、どんなに穿った見方をしても真っ白以外の何色にも見えない。


まんまと騙されたアイナであった。




「パートナーでもない相手の色を着させるなんて、やっぱりあの人頭どうかしてるわっ!!」


ケントンに自身の装いを言語化されたことで、抱いていた困惑が明確な怒りに変わったアイナ。

天使のような可愛らしい雰囲気だというのに、感情のままに吠えている。



「アイナ…そんなに気に入らないのなら、やはりあのピンクのドレスに…」


「……いいえ、よく見ると色味以外は全て大変素晴らしいわ。うん、これを着ていきましょう。」


「そうか…」


隙あらばあの可愛らしい姿をもう一度と思っていたケルストはがっくりと肩を落とした。


一方アイナは、あのドレスと比べれば…と色んな意味で勇気が湧いて来たのだった。




二人は、この日のために父親が借りてきた馬車で会場へと向かう。


会場といっても、学園と同じ敷地内にある王立劇場と呼ばれている場所である。

ここは二階建ての建物となっており、二階が演劇のための作りになっており、一階がダンスパーティーや夜会のための会場となっているのだ。


邸から会場へと向かう僅かな時間、アイナはあることに考えが至り、ひとりで顔を青くしていた。




このドレスってもしかして…


あのジュリアンヌとお揃いだったりする……?あんなことが起きたけど、パートナーは続投みたいだし…彼は体裁気にするだろうから彼女にもドレスとか贈ってそうだよね。

まぁ、波風立てないようにそのままでって自分で彼にお願いしたのだけれど…


え、でも…彼女も真っ白ドレスだったら、私結婚式に乗り込む浮気相手みたいじゃない!!?


うっわ……………………


レイン・アルフォードのせいで、また人気者への道が遠のいていく………一層のこと、会場に着いたら赤ワインでもこのドレスにぶちまけてやろうかしら…そうすれば誰とも被らないよね。はははは。




「ん?なんだか楽しそうだな。」


自暴自棄になって笑う妹のことを、ケルストは嬉しそうに眺めていた。




会場入りしたアイナ達を待っていたのは、不躾な視線の数々であった。


本来、黒髪の者はネイビーやダークグリーン等暗色のドレスを着るものであり、明るい色などもっての外という考えが主流なのだ。


そんな中、もっとも高貴な色である純白に身を包んで現れたアイナに好意的な視線が向けられることはない。




「兄様…一曲だけ踊って義務を果たしたらすぐ帰ろう。」


「ああそうだな。ここの空気はお前にとって良くない。社交界デビューのお祝いは邸でやろう。」


無理して居る場所ではないと思ったケルストは、アイナのことを気遣って提案に乗った。




会場内が人で溢れる中、オーケストラによる演奏が始まった。


会場中央には人だかりが出来ており、アイナのいる場所からは良く見えなかったが、隣にいる長身のケルストには皆の視線の集まる先が良く見えていた。



「今年はやはりアルフォード公爵家か…」


「え??」


レインの家名に反応してアイナが限界ギリギリまで背伸びをすると、そこにはジュリアンヌと手を取り優雅にダンスをするレインの姿があった。


一組しかいないダンスフロアで周囲の視線を一心に受けながらも、一切動揺することなく、優雅に優美に演奏に乗ってステップを踏んでいる。


時折パートナーであるジュリアンヌに視線を向け、その余裕を見せつけていた。



二人がペアを組むことはもちろん知っていて、高貴な身分の二人なら最初に踊る栄誉を与えられるのだろうという予想も付いていた。


それなのに、いざ二人の踊っている姿を目にすると、授業の時とは比べ物にならないほど胸が締め付けらていることに気付く。



『自分には関係ない』


そう言い聞かせていたはずなのに、アイナは無視できないほどの痛みを胸の奥に感じてしまったのだ。




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