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学園デビューしたいのに、ツンデレ男が邪魔してくる  作者: いか人参


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レインの三面性


「お嬢様…どうなさいましたか?」


帰って来て早々、制服姿のままベッドにダイブしてバタバタと足を蹴って暴れまくるアイナに、リリアが若干引いた目を向けている。


だが、今のアイナはそんなこと気にしていられなかった。

近くにあったクッションを手に取ると、それに顔を埋めた。



「色々あったんだよ…そう色々とね…はは」


その『色々』とやらを鮮明に思い出してしまったアイナは、とりゃあっ!!と声を出しながらクッションを壁に投げつけた。


淑女らしからぬを通り越して人らしからぬ奇行に、リリアの嗜める声が聞こえた気がしたがアイナは耳を塞いでやり過ごした。



その色々とは、つい今し方公爵家の馬車の中で起きたことであった。



『送ってくれてありがとう。…ええと、家族への挨拶はいらないからね?』


『ああ、分かってる。』


そう言いながらも、またもや座席から立ち上がるレイン。

はてなマークを頭に浮かべて困惑顔をするアイナのことを鼻で笑うと、向かい側に座る彼女の方にかがみ込んで来た。


そして、彼女の頬にキスをする。



『ひゃあっ!!!!!』


『急に変な声を出すな、馬鹿。』


『ちょ、ちょちょちょっと!変なって…それを言うなら貴方の方がよほどっ……』


『これは、お前が俺にしたかった「不本意な礼」の代わりだ。』


『は………………………』


『俺に礼がしたかったんだろ?良かったな。』


『なっ…』


西日に照らされていても分かるくらい、アイナの顔は真っ赤になっていた。

キスされた頬は強烈な熱を帯び、冷めやることを知らない。



『俺が贈ったドレス、着てくれることを楽しみにしている。』


先ほどまでの悪戯な顔はどこへやら、急にひどく甘い顔を向けてくるレイン。

限界に達したアイナは、勢いよく扉を開けて降車した。

その時、アイナが躓かないよう、レインがさりげなく支えてくれたが焦る彼女はその優しさに見向きもしない。


背中に微笑まれている気配を感じたが、アイナはそれも無視して邸の中へと逃げ込んだのだ。


そして今に至る。




「お嬢様、せめてお着替えをしてから暴れてくださいね。」


リリアは、部屋に散らばったクッションを回収しながら声を掛けた。だが、主人からの返事はない。



「もうこれ、どうすればいいのよ…本当になんなのアレは………」


アイナは、別のクッションを引っ張り上げてそれを抱きしめていた。

答えの出ない悩みに、ぐるぐると同じ疑問をただ繰り返すだけであった。


 



翌朝、いつものようにアイナが登校すると、摩訶不思議なことが起こった。


アイナとレインとジュリアンヌの3人が全く同じタイミングで教室の前に現れたのだ。


気まずさを感じるアイナはいつもより遅い時間を狙い、ジュリアンヌは学園に行きたくないとごねて筆頭使用人と揉めた結果この時間となり、レインだけは何も気にせず普段通りであった。


その結果、この奇跡的な組み合わせが誕生したのである。



「え?」「うわ」

「おはよう、二人とも。この時間に来るって珍しいね。」


明らかに動揺する二人に対し、いつもの通り穏やかに声を掛けるレイン。


そんな彼の反応に、また猫被りやがってとアイナは嫌な顔をし、ジュリアンヌはレインにはバレていないのだと確信して安堵の表情を浮かべている。真逆のリアクションであった。



「ええ、少し髪の仕上げに時間が掛かってしまいましたの。」


ジュリアンヌは、綺麗に巻きが掛かっている金髪を指で絡め取り、恥ずかしそうに微笑んで見せた。

それは、何も知らない者が見れば、男女問わず目を奪われてしまうような愛らしい仕草であった。




「ああ、そんなことより、」

「え!?」


だが、レインは思い切り話の腰を折って来た。

その冷徹な返しに、アイナの方が悲鳴に近い驚愕の声を上げてしまった。

レインに軽く睨まれ、慌てて両手で自身の口を塞ぐ。




「また同じことをしたらもう容赦しない。家ごと潰すぞ。」


ジュリアンヌに向けて低い声で言い捨てたレイン。

彼の冷え切った声音と視線に、彼女は恐怖で呼吸が浅くなり瞳孔が開いている。


隣で見ていたアイナが同情してしまうくらい、怯え切っていた。




「そろそろ教室に入ろうか。授業に遅れてしまうからね。」


打って変わって、いつもの穏やかで朗らかな雰囲気に戻ったレイン。

その常軌を逸した変貌に、ジュリアンヌは身体を震わせて戦慄く。


怯える彼女を目の当たりにして、ああ最初は私もそうだったなとレインのギャップに驚いた時のことを思い出していたアイナ。


少し可哀想に思えてきたアイナは、励まそうとジュリアンヌの肩に手を置いたが、盛大にビクついており、それは全くの逆効果であった。


彼女は、さらに顔色を悪くして教室の中へと入って行った。




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