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学園デビューしたいのに、ツンデレ男が邪魔してくる  作者: いか人参


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危機的状況


「不本意な御礼を言うときのフレーズ集とかないかな?」


「アイナって、勉強出来るのにたまにとんでもないこと言ってくるよね…」


昼休みのカフェテリア、カシュアは食後の紅茶に口を付けながら呆れた声を出した。


だが、彼女の目の前に座るアイナは真剣そのものであった。

ドレスの礼をレインに伝えるため、当たり障りのない言葉を模索中なのだ。



「結構真面目に悩んでるんだけどなぁ…」


しょんぼりとしたアイナに、カシュアは笑いながら紅茶のお代わりを注いであげた。



「じゃあ、この学園随一の秀才レイン様に聞いてみたら?自分より頭の良い人ならいい考えをもらえるんじゃない?」


「ちょっと!カシュアっ!!」


アイナは小声で嗜めると、素早く周囲を見渡した。

経験上、こういう時に突如として現れるのが彼だと学習していた。


その上、レインから魔法を学ぶ傍らこっそりとアイタンから魔力感知を教えてもらっていたのだ。周囲2〜3メートルくらいであれば、見知った者の存在の有無は探れるようになった。



ー 大丈夫、彼の魔力の気配は無い。




「不本意な御礼か。トルシュテさんは中々面白いことを言うんだね。」

「ぎゃああああっ!!!!」


背後から聞こえた声に、アイナは悲鳴を上げて勢いよく席から立ち上がった。

そのあまりの驚きように目の前のカシュアには苦笑されていた。



「うーん…今すぐには思い浮かばないから、放課後少し時間をもらえるかな?お茶でもしながら一緒に考えようか。」

「いや、けっ…」


『結構です』


即答でお断りしようと思ったアイナだったが、この御礼の件をさっさと済ませたく、二人きりになれるのは逆にチャンスかもと思い直した。


他の人がいる前でドレスを贈ってもらった話など出来るわけがなく、かと言って二人きりの時間をもらえないかと話すことも癪だったため、彼の提案に乗ることにした。




「…結構、素敵な提案ですね。」


「ふふふ。そう言ってもらえて嬉しいよ。じゃあまた放課後にね。」


レインは去り際、立ちっぱなしになっていたアイナの手を取ると、さっとエスコートをして席に座らせていった。


そのスマートな身のこなしに、カシュアはキラキラと輝く瞳を向けていた。



「レイン様って、絶対アイナのこと好きだよね!あんなに大切に扱われて…ああ羨ましい!恋愛小説を目の前で見ている気分だわ!」


「カシュア、好きっていうのはね、色んな意味があるんだよ…」


アイナは遠い目をしていた。


心ここに在らずの彼女は、レインとのやり取りを鋭い金の瞳が見ていたことに気付いていなかった。




放課後、場所を指定してなかったためレインに声を掛けようかと迷っていたところ、彼は先生に声を掛けられて廊下へと出て行ってしまった。


あの彼が何も言い残さなかったところを見ると、すぐに戻ってくるのだろうとアイナは考え、一旦自席で待機することにした。


だが、しばらく経っても戻ってくる気配がない。



「どうしようかな…遅くなってもあれだから、今日は帰るか…」


夏の日は長いとはいえ、帰る時間が遅くなると家族に心配されてしまう。

アイナはカバンを手に取り、今日は帰ることにした。



「レイン様なら、中庭で待ってるって言ってたわよ。」


「あ、ありがとう。」


話したことはない同じクラスの女子生徒がアイナに声を掛けてくれた。

アイナに微笑みかけると、すぐに教室から出て行ってしまった。



この時のアイナは、なぜ彼女が自分はレインを待っていると知っているのか疑いもしなかった。


いつも彼と言葉を交わしていた中庭を指定されたため、あり得そうなことだと深く考えずに信じてしまったのだ。




「あれ、いないんだけど…」


相変わらず人気のない中庭には、待っていると言っていた相手すらもいなかった。



「トルシュテさん、貴女本気でレイン様がお待ちだと思ったの?」


聞き覚えのある声に振り向くと、そこには金色の瞳を煌めかせて美しく微笑むジュリアンヌの姿があった。



「私、貴女とは約束してないんだけど。」


「あら、動揺しないのね。その馬鹿みたいな根性は認めてあげる。でもそれもいつまで保つかしら…見物ね。」


ジュリアンヌは悪意で歪んだ顔で不気味に笑うと、手のひらに炎を出現させた。

その火は二倍三倍と大きさが増し、数メートル先にいるアイナにも僅かに熱が伝わる。


無意識の防衛本能により、アイナは一歩後退した。



「こんなところで魔法を使うなんて、ただで済むと思って…」


「ご安心なさって。ここには隠蔽魔法が張られているから誰も気付かないわ。」


「でも、後からバレるよ。私はこの事実を公にするから。圧力になんて屈しない。」


「それは困ったわねぇ。」


ジュリアンヌは空いている方の手を頬に添えると、わざとらしく首を傾げた。



「ああでも、たかが男爵家の貴女とこの私の話、皆どちらを信じるかしら。そうね、訓練を頑張りすぎて魔力暴発を起こした貴女を、私が助けてあげた話なんて良いと思わない?皆同情してくれるわよ?」


「そんなふざけた話、いいわけないでしょう!身分が上だからって、何でもかんでも許されるはずがない!」


「うるさいわね。すぐに恐怖で口を聞けなくしてあげる。まずは、レイン様に二度と興味を持たれないようにその髪を焼く。その次は顔かしら。キズモノにしてあげるわ。事故に見せるためには…制服も焼く必要があるわね。大丈夫、同じクラスメイトだもの、命までは取らないわ。」


ジュリアンヌは、さらに火力を強めて炎を大きくすると、アイナに一歩近づいた。



「思い知ればいい。」


その瞬間、ジュリアンヌの手の上に留まっていた炎が火柱となって勢いよくアイナに向かってきた。


目の前に迫る炎の強い光に、肌が焼かれそうなほどの強烈な熱波。


水を作り出せないアイナには対抗手段がなく、顔の前に腕を出し歯を食いしばってキツく瞳を閉じることしか出来なかった。





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