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学園デビューしたいのに、ツンデレ男が邪魔してくる  作者: いか人参


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水を差してくる奴がいる


二年生になって初めての実技の授業、アイナはクラスメイト全員の視線を釘付けにしていた。


なぜなら、ずっと石に魔力を注いでいただけの彼女が魔法を披露してみせたからだ。


見せた魔法のレベルこそ高くないものの、男爵家という最も低い身分でこれほどまでに上達した者は未だ嘗て存在しない。

だからこそ、クラスメイトの皆はその凄さがよく分かっているのだ。




「素晴らしいわね、トルシュテさん。これもきっとレイン様のお教えのおかげなのでしょう。本当にすごいわ。さすがはレイン様ね。」


ジュリアンヌの他意のある言葉に、この場の雰囲気は一気にレインへと向かう。


つい先程までアイナの努力の賜物だと思っていた者たちも、彼女の指導者であるレインのおかけだと考えを改め始めた。


その事実に、つい悪態をつきそうになるアイナ。




は…………??


せっかく皆の前で魔法を披露して大注目を浴びたのに、どうしてレイン・アルフォードのおかげになってるの!??おかしいでしょうっ!!せっかくの株を上げるチャンスが…


それに、毎日毎日辛い思いをして、それでも食らいついて、あの男の叱責にも舌打ちにも耐え切ったというのにひどい仕打ち………許さない…




「アイナ、落ち着いて。貴女が頑張ったってちゃんと分かってるから。」


怒りに震えるアイナに、カシュアが肩に手を置き小声でフォローした。

側にいたエリナとキースの二人も同調するようにうんうんと必死に頷いている。




「これは紛れもなく彼女の努力の結果だよ。僕は大したことはしていないからね。」


皆に視線を向けられていたレインは、一歩前に出ると諭すように周囲に伝えた。




「こんなにも努力出来る人を僕は見たことがない。トルシュテさん、本当によく頑張ったね。」


レインはアイナに向かって拍手を送った。


なんとなくこの場の雰囲気もアイナを称賛するようなものに移り変わっていく。彼に釣られて拍手をする者も出て来た。




…いやなんだよ、この茶番。


欲しかったのはこういうのじゃないんだよ。ただただ、認められて褒められたかっただけなのに…レイン・アルフォードの手のひらの上で踊らされている感じがして、無性に腹立たしい。


こんなの受け取れないわ。

でも、謙遜するしかないじゃない…!!




「ありがとうございます。でもこれは、親身になって教えてくれたレイン・アルフォード様のおかげです。本当に感謝してもしきれません。」


「じゃあこれは、二人の成果ってことだね。これからも一緒に頑張ろう。」


「………………ハイソウデスネ」


だいぶ間が空いての返事となってしまったアイナ。そして相変わらずの棒読みであった。


そんな二人に、今度こそクラスメイト皆から温かい拍手が送られていた。





***




実技の授業で一気に人気者へと躍り出るつもりだったアイナは、大いに凹んでいた。


この世界は魔法至上主義であり、魔力が少ない者には価値が与えられない。それはこの学園内でも同じことが言える。

そんな中、死ぬ思いで魔法レベルを底上げしたというのに、レインに全てを持って行かれてしまったのだ。


彼女がしょぼくれるのも無理はない。




放課後奮発して甘いものを食べ、カシュアに話を聞いてもらったが、それでもイライラが収まらなかった。


そんなアイナは、帰ったらリリアに話を聞いてもらおうと、帰路に着く足を速める。




「アイナさん」


聞き慣れない声に名を呼ばれたアイナは、不思議に思いながらも後ろを振り返った。


そこには、話したことのないクラスメイトが立っていた。

笑顔でアイナの元に駆け寄ってくる。



「突然ごめんね。アイナさんとどうしても少し話したかったんだよね。今日の魔法、本当に凄くて…ってごめん、僕の名前は」


「シエン・ロックハートさん、だよね?」


「僕の名前、覚えてくれていたんだ…嬉しい。」


驚いたシエンは猫目の瞳を丸くさせた。

茶色い髪の影響もあり、その姿は小動物を連想させるような愛らしいものであった。



「僕、魔力量は人並みにあるんだけど、魔法理論が昔から苦手で…だから良かったらアイナさんに教えてもらいたいなって。僕も魔法を上手くなりたいんだ。」


混じり気のない真っ直ぐな瞳を向けられたアイナは、自分の気持ちが高揚したことが分かった。


純粋に、これまで無縁だったクラスメイトに頼られたことが嬉しくもあったのだ。



「もちろんっ!私でよけれ」

「あれ、トルシュテさん?こんなところで何してるの?」


急に現れたレインは、アイナの返事を遮るように声を掛けてきた。彼の視界にはアイナしか映っていない。

シエンはレインの姿を見た瞬間、一気に顔色を悪くした。



「ご、ごめん。邪魔をして悪かったね。そんなつもりはなかったんだ。本当だからね。はは。二人ともまた明日学園でね。」


シエンは聞かれてもないことをつらつらと言うと、逃げるように去っていった。


レインに怯えて逃げて行ったと信じて疑わないアイナは、彼に人差し指を突きつけた。

その顔からはレインに対する怒りが滲み出ている。



「クラスメイトをいじめちゃダメでしょうっ!しかもせっかく友達になれるチャンスだったのにっ!邪魔しないでよっ!!」


「来い」


大きな声を出すアイナに、レインは呆れてため息を吐くと、彼女の手首を掴んで人気のない中庭に連れ込んだ。





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