二年生の始まり
「なんか今年の授業変じゃない??」
新学期が始まり、二年生となったアイナ達は簡単なオリエンテーションを受けた後、新しい授業表が配られていた。
休み時間の教室、それを目にしたアイナが戸惑いを見せている。
「ああこれね。私たち今年がデビュタントでしょう?それに向けての準備だと思うよ。」
隣にいたカシュアが説明してくれたが、アイナはまだ不思議そうな顔をしている。
「え、それって私たちにも関係あるの??子爵か伯爵以上の話かと思ってたんだけど……」
「関係あるよ!うちの学園に通う全ての学生は二年生の夏に舞踏会デビューするって、入学した初日先生が話していたでしょう?」
「そうだっけ…………」
思い返してみたが、何ひとつ心当たりはなかった。
前世の記憶が戻る前のアイナは周囲に関心がなく話を聞いてきなかったに違いないと彼女は結論付けた。
「ダンスか………苦手だな……」
「私も…というか、問題はパートナーよね。」
「ぱーとなー?」
ダンスの授業が加わっただけで辟易としていたアイナ。
当日のパートナーのことまで頭が回っていなかった。
「まさかアイナ…貴女ひとりで踊るつもり…?」
「…………それ悪くないかも。」
「それはさすがにやめてね。友人としてちょっと、いやかなり恥ずかし過ぎる…………」
悪ノリに本気で返してきたアイナに、カシュアは呆れた声を出した。
「エリナ達はいいよね…」
「あそっか。あの二人は婚約者同士なんだっけ。」
カシュアとアイナの視線の先には、相変わらず楽しそうに談笑しているエリナとキースの姿があった。
男爵家の者はその地位の低さから結婚相手を見つけることが極めて難しく、幼い頃から親によって婚約者を決められていることが少なくない。
エリナ達は親同士の親交があり、同じ時期に子どもが生まれたことから、互いの子を結婚させるつもりで交流を深めていたらしい。
そして、親の思惑通り、無事想い合う仲となったのだった。
そんな幸せいっぱいの二人を見たカシュアが羨ましげで儚げなため息をつく。
「エリナはキースとだし、アイナはレイン様とでしょう?私だけだ……ああどうしよう……最終手段は父親を連れて行くしかないけど……出来れば自分のパートナーと踊りたい………その日限りの相手でも良いからさ…」
「え、ちょっと待って。何それ。」
「あ、デビュタントとはいえ、学園主催で行われる舞踏会だから親や兄弟をパートナーにしても良いんだって。相手のいない子も気兼ねなく参加できるようにってね。ありがたくて泣けてくる学園側の配慮だよね。」
「いやそこじゃなくて、なんでレイン・アルフォードの名前が出てくるの………………」
「だって、貴女達とても仲良いじゃない?少なくとも、レイン様はアイナに興味を持っていると思うよ。それはもう確実に。」
「それ、興味じゃなくて好奇心の間違いだから。珍獣扱いしてるだけだって。たぶん、私が人間だってまだ知らないんだと思う……」
「珍獣って…アイナみたいに可愛い動物なんていないって、ふふふ」
去年の今頃と比べると、見た目だけは整って洗練され可愛らしい雰囲気に激変したアイナ。
そんな彼女の珍獣姿をイメージしたカシュアは、思わず顔がニヤけてしまった。
「それに、公爵家とたかが男爵令嬢が一緒にダンスするなんてあり得ないよ。しかもデビュタントでそれをって。彼はたぶん…」
「それは…そうだよね…」
アイナがチラリと見た先では、ジュリアンヌが楽しそうにレインと話をしていた。
彼の本音を知るアイナには彼のアレが表面的な態度であることがよく分かる。
しかし、貴族社会というのはああいうものなのだろうとどこか冷めた気持ちで見ていた。
好き嫌いで繋がる縁ではなく、互いの家の利益の有無で繋がるものなのだと。
「そうだ、アイナ。もう魔法の特訓はないんでしょう?私たちの放課後おしゃべり会再開させよう!」
「わー!!そうしよう!!楽しみだね!」
どこか寂しげな表情を見せていたアイナに、カシュアはわざと明るく声を掛けた。
アイナも彼女の気遣いをありがたく受け取り、とびきりの笑顔で返したのだった。




