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学園デビューしたいのに、ツンデレ男が邪魔してくる  作者: いか人参


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レインの強がり


「……………っ!!」


動けずに固まっていたはずのアイナは、気付いた時には床を背に倒れており、鼻先が触れるほどの近い距離にレインの顔があった。


彼女の後頭部をレインがしっかりと手で支えており、倒れ込む際頭を床に殴打しないよう彼が気遣ったことが窺い知れる。



「ご、ごご、ごめんっ!!私また巻き込んじゃって…大丈夫!!?怪我、してない??本当にごめん!」


自身の置かれている状況を正しく理解したアイナは、レインに対して激しく謝罪した。



これは完全にアイナの過失であり、彼を危険な目に晒してしまったことを心から悔いていた。


それと同時に、今度こそ殺されるほどの失態をやらかしてしまったかもしれない……と顔色を悪くしている。

自業自得とはいえ、レインからの返答が怖くて仕方なかった。




「…お前が無事ならそれでいい。」


「えっ?」


絞り出すような弱々しい声で言ってきたレイン。


その声音は、彼女の無事に心底ホッとしているかのようであった。

長く息を吐くと、覆い被さるようにして彼女の肩におでこをくっつけて来た。



「え…」


一方のアイナは、彼の優しい言葉も弱々しい姿も甘えるような仕草も、何もかもを信じられずにいた。

ひどい叱責を受けるものだとばかり思っていたため、予想と違う返しに動揺が走る。



「ええと……大丈夫…??頭でも打った…?」


アイナは、自分の肩に顔を埋めているレインに顔を向けて、心底心配しているような声音で尋ねた。


もちろん彼女のこれは、嫌味でも何でもなく本気だ。そうでもなければ、自分を心配するような言葉をレインが言うはずがないとそう思っている。



「…………チッ」

「ひいっ!!!!」


そして返ってきたのは、辺り一帯の空気が冷え込むこほど怒気の詰まった舌打ちであった。


そのあまりの迫力に、アイナは小さく悲鳴を上げた。

彼女の頭を支えていたレインの手は、今度は顎を掴み顔を晒させないようにして睨み付けてくる。



「お前は…そんなに俺に喧嘩を売るのが好きなのか?」


「め、め、滅相もございませんっ」


「俺には、お前がわざとやっているようにしか見えないが。そんなに好きか?俺に責められるのが。」


「…っ!!」


レインは、冷え切った笑顔で笑うと、彼女の唇を目掛けて顔を近づけてきた。

逃げようにも、身体に覆い被さり顔を抑えられ、アイナは身動き一つ取ることが出来ない。



「分からせてやろうか?」


唇に触れる直前、レインは動きを止めアイナの瞳をじっと見つめてくる。

怯えるように目を逸らす彼女に満足すると、アイナの鼻を避けるように首の角度を変え、そっと目を閉じた。





「ねぇ、レイン。一体いつまで……って、邪魔してごめん………ささ、続きをどうぞ。」

「おい」「ぎゃあああああああああああっ」


何も知らないアイタンがノックもせずに中に入ってきた。


そしてようやく我に返ったアイナは、恥ずかしすぎるこの状況に加え、それをクラスメイトに見られてしまったという羞恥心に大絶叫をした。


レインはうるさそうに顔を顰めると、やっと彼女から身体を離して立ち上がった。




「この馬鹿にお灸を据えてやっただけだ。」


「恥ずかしい…死ぬ…無理…心臓が…私のメンタルが…自尊心が………ああなんてこった……」


アイナは上半身を起こして座り込んだまま、胸を押さえて浅い呼吸を繰り返している。


そうでもしなければ、今にも心臓が大爆発を起こしてしまいそうであった。




「まぁ止めやしないけど、さすがに校内っていうのはマズイかな。しかも床に押し倒すだなんて…こういうのはちゃんとベッ」

「黙れ、下衆」「ちょっと黙って」

「・・・」


いかがわしいことを言おうとしてきたアイタンに、すかさず二人のツッコミと殺意の籠った視線が向けられた。


肩を落としてしょんぼりとしているが、それを気遣う者は誰もいない。




「お前はもう帰れ。」


「もうこんな時間か…って、貴方は?まだ帰らないの?」


「お前のせいで疲れた。さっさと行け。」


「…分かったよ。ごめん。また明日ね。」


普段なら正門のあたりまで一緒に歩いて行くのだが、今日はその素振りがない。

アイナは、少し寂しい気持ちを抱きながらも、諦めて大人しく帰ることにした。


アイナが部屋を後にしてしばらく経つと、壁に寄りかかっていたレインが深くため息を吐いた。




「レイン、コート持って来ようか?」


「ああ」


壁に背を預けたまま一歩も動かないレインに、アイタンは気遣うように声を掛けた。



「怪我は?平気?」


「…治した。」


「全く…君は無茶をしたね。すぐ戻ってくるからここで待ってて。」


怪我は治癒したものの、焼けてしまった衣服のせいで壁から離れられない友人のため、アイタンは走ってロッカーに向かったのだった。




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