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学園デビューしたいのに、ツンデレ男が邪魔してくる  作者: いか人参


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年明け早々、今年一番の過ち


「おはよう、トルシュテさん。久しぶり。そういえば、年始に…」

「お、おはようございます!も、もう授業が始まるので!」


休み明け初日、教室に入って早々レインに話しかけられたアイナは逃げるように席についた。

彼に話し掛けられる隙を与えるべからず、借りていた小難しい本を開いて全神経を集中させる。


彼女がここまで避けるには結構な理由が存在した。それは、アイナが公爵邸を訪れた後のことだ。



『ねぇ、リリア。公爵家にこれを出したいのだけれど頼まれてくれる?』


『メッセージカード…なにかご用事でしょうか?』


『用事というか…ちょっとした新年の挨拶をね。』


『お、おおお、お嬢様…これは…』


『ん?大丈夫だって、差出人は書いていないし。少しびっくりするだけだから。』


『いやでも、』


『…分かったよ、返して。自分で出してくるから!』


『お嬢様それは…!!』


リリアの制止を振り切り、アイナが郵便に出しにいったそれには、くっきりしっかりと真っ赤なキスマークが付けられていた。

それは、娼婦が太客に対して行うような品位のないとされる行為だ。


差出人を書かなければバレないと思ったアイナのちょっとしたイタズラ心だったが、彼女は知らなかった、魔法の扱いに秀でた者ならその筆跡から相手の魔力を感知出来るということを。


盛大にやらかした結果、レインからはお返しとばかりに、嫌味としか捉えようのない美辞麗句を書き連ねた便箋の束が届いてしまった。


そしてそれは父親にも見つかり、なぜか兄まで巻き込み、また家族会議を開かれるとになったのだった。そんなこんなで、アイナにとって散々な冬休みとなっていた。


自業自得とは言え、それはレインのことを避けるには十分過ぎるほどの理由であった。




「ねぇ、カシュア…他人の記憶を抹消出来る魔法とかない?」


「賢いアイナが知らないなら無いんじゃない…?そもそも魔法って言っても、常人が使えるのは生活魔法がほとんどだし。っても、私たちはそれすら危ういよね。」


「だよねー。」


休み時間、自分の戯言に付き合ってくれるカシュアに、アイナの頬が緩んだ。

こんなしょうもない話の出来る相手が出来て、彼女の学園生活はとても有意義なものになっていたのだ。



「へぇ、トルシュテさん、記憶を消したい相手なんているの?」


「…っ!!」


記憶を消したい正にその人である彼の声に、アイナの身の毛がよだった。いきなり過ぎて、驚く声すら声にならない。



「僕は魔法が得意な方だから、良かったら力になろうか?」


「結構です!ご心配なく!お構いなく!」


「残念。また何かあれば、その際はぜひご用命を。」


レインは、わざとらしく貴族然とした優美な一礼をすると、これまた優雅な足取りで去って行った。

その美しい様に、周囲にいた女子生徒たちから感嘆のため息が漏れる。



「なんとかやり過ごした…はぁ…」


一方、アイナからは安堵の息が漏れていた。だがそう思ったのも束の間であった。




昼休みが終わる頃の教室、レインとアイナが話すところを見ていたジュリアンヌは彼に詰め寄っていた。彼女の後ろには当たり前のように取り巻きのマイカが控えている。


その場にいた他のクラスメイト達も、見てないようでかなり気にして聞き耳を立てていた。



「レイン様、この際はっきりと聞かせて頂きたいのですが、トルシュテさんとは一体どのようなご関係でして?」


貴族らしからぬ、単刀直入に尋ねたジュリアンヌ。

彼女の潔さに、周囲からは僅かに息を呑む音が聞こえた。



「急にどうしたんだい?彼女は君と同じクラスメイトだけど?」


「それにしては、随分と親しげにしてらっしゃると思いますが、彼女と懇意にされていますの?」


「その前提で尋ねてくるのはトルシュテさんに対して些か失礼じゃないかな?僕だけの話ではないからね。」


ジュリアンヌの真っ直ぐな追求にも臆せず、レインは穏やかな微笑みを携えたまま平然と答えた。的を得ない彼の反応に、彼女から苛立った空気が漂う。



「それに、クラスメイトと仲良くしたいと思うのは当然のことだろう?まぁ、彼女のことに関して言えば、僕は嫌われているのかもしれないけど…ねぇ、トルシュテさん?」


タイミングよく、否、壊滅的に悪いタイミングで教室に戻ってきたアイナに対して、レインは片目をつむって笑いかけた。



は… なにこれ?次は何の陰謀……?


相変わらずジュリアンヌ怖いし、全く話が読めないけれど、このとてつもなく冷え切った空気……これは絶対に頷いてはいけないやつと見た!




「まったくそんなことはありませんよ。ほほほほ。」


博打に大負けしたアイナ。

彼女の高笑いが虚しく教室中に響く。そして空気が凍りついた。


ジュリアンヌは唇を噛み締めてアイナのことをきつく睨みつけると、自席へと戻って行った。



え…私なにか間違えた……………??



「フッ」


顔を青くして困惑しているアイナの真横を、レインは彼女だけに聞かせるように鼻で笑って通り過ぎて行った。



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