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学園デビューしたいのに、ツンデレ男が邪魔してくる  作者: いか人参


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緊急家族会議


貴族の邸にしてはこじんまりとしたダイニングにアイナとケントンそしてケルストが集合している。


広くはないテーブルの上の真ん中、皺皺になって広がりきらない紙切れが鎮座していた。可哀想な見た目をしているが、紛れもなく今回の主役だ。


その隣には、花瓶に飾られた真っ白な薔薇がある。見舞いの品としてレインが贈ってきたものだ。

この質素な部屋に似つかわしくない、高価な香りがする見事な薔薇だったが、今の雰囲気ではまるで葬儀の供え物のようである。


そして、それを黙ったまま見つめる面々。


重苦しい雰囲気の中、トルシュテ家の緊急家族会議が始まった。




「で、お前達は一体何をしたんだ。」


「全部アイナのせいです。学園で目立つようなことをするから、だから俺がそれを是正しようとしただけです。それをあのアルフォードが何か勘違いをしたのだと。」


「ちょっと待ってよ!!」


いきなり都合のいいことを言ってくるケルストに、アイナは勢いよく立ち上がった。



「目立つようなことって、試験結果が良かっただけでしょ!!それの何がいけないっていうの。私何も悪いことしてないじゃない!」


テーブルを強く叩き、抗議するアイナ。



「お前は今までは上手くやっていただろ。それなのになぜ今さらそんなことをするんだ。そんな家の迷惑にしかならないようなことを。父さんもそう思うでしょう?」


さも当然という顔をしているケルストと、そんなことは絶対におかしいと眉を吊り上げるアイナ、二人に視線を向けられたケントンはその瞳から逃げるように俯いた。



「…そう、だな。」


なんとも歯切れの悪い、どちらとも取れるような返事をしたケントン。


彼は、この問題のきっかけになったものがアイナの試験結果だと分かり、複雑な心境を抱いている。

本来であれば喜ぶべき娘の成績を素直に喜んでやれず、己の不甲斐なさに唇を噛み締めた。



「お父様まで私の努力を無駄だって言うの!?二人して、馬鹿なふりをしろって本気でそう思うわけ!?」


「そうだ。俺は、学園に入って酷い仕打ちを受けてきた。それは入学当初何も分からず、高位貴族を敵に回してしまったせいだ…。物を隠されたり陰口を叩かれたり、それはひどい経験だった…だから、お前にはそんな想いをさせたくないんだ…」


テーブルの上に両手を組み、堪えるようにその上に額を押し付ける。

ケルストの声は震え、自身の弱さを曝け出したことに打ちひしがれているようであった。


これで妹が分かってくれれば…


そんな想いで自分の嫌な経験を彼女に話すことにしたのだ。だが、兄のそんな想いは妹にはまるで届かない。



「は。それが何?」


アイナの冷たい声がダイニングに響いた。



「なにって、だから学園での身の振り方には注意した方が良い、」

「だからって何?たかがもの隠されて陰口叩かれたくらいで。隠されたものは自分で取り返せばいい、嫌なことを言われれば言い返せば良い、ただそれだけじゃない。無視されるよりマシだっての。」


強がりでも見栄でも何でもなく、本心から言ったアイナ。その瞳には並々ならぬ意志が感じられた。

彼女の言葉が本気だと分かったケルストとケントンは、驚き過ぎて声が出なかった。




「環境は自分で変えられるんだから。」


何も言わないケルストに、アイナは真っ直ぐ指を指して言い切った。



「そ、そんなことは…俺たちは男爵家の生まれで、この事実は変えようがなく、だから変に目立って攻撃対象になるくらいなら、何事も穏便に、」

「兄様、貴方はいつか死ぬならって今首を吊るつもり?」

「は、なんだいきなり。」

「私は死ぬまで生きたいの。ただそれだけ。だからもうこれ以上私のすることにとやかく言わないで。」


ピシャリと言ってきたアイナに、ケルストはもう『自分達が目立ってはいけない理由』を見つけることが出来なかった。




「もうお前の好きにしろ…」


「兄様もね。好きに生きなよ。自分の人生なんだから、周囲の目ばかり気にしちゃダメだよ。それで何か言ってくるやつがいたら、私が一緒に戦ってあげるから!」


「お前は…本当に変わったな。」


「大丈夫、兄様も変われるよ。」


アイナの言葉に、ケルストはまたもや大きく驚かされた。

妹は変わり自分は置いていかれる一方だと思っていたのに、彼女はそう思っていなかったことに、己の矮小さを思い知らされたのだ。




「とりあえず、今回の件は分かった。もう戻っていた。」


アイナがケルストとの話をまとめ上げたところに、すかさず乗っかってきたケントン。こんなタイミングで父親の威厳を出してきた。



「アイナ」


疲れたから早く部屋に戻ろうとしたアイナだったが、ケントンに呼び止められた。



「お前は、アルフォード公爵家に行って礼を言って来い。」


「はい?どうして???」


「身分が上の者から見舞いを頂いたんだ。礼をするのが貴族の流儀だ。手土産はリリアに用意させるし、ちゃんと金は出すから。」


ケントンは、アイナに銅貨を数枚渡してきた。



「なんのお金??」


「馬車代だ。お前はうちの馬車を売っただろう?だから、公爵家までは乗り合い馬車で行くと良い。先方の都合はこちらで聞いておくよ。」


「は……乗り合い馬車で公爵邸に乗り込むとか、一体どんな羞恥プレイだよ…………」


レインに見られたら…と想像したらアイナは、青い顔をして頭を抱えた。





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